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シンプルだけれど食べ飽きない、冷凍チャーハンの味に挑む (ニチレイフーズ・竹本亮太)【後編】
ニチレイフーズで冷凍炒飯の商品企画に携わる竹本亮太さん(39)は、どんな風に炒飯を食べているのでしょうか。今月発売した新商品「たっぷり卵のえび炒飯」の制作過程では50軒近く食べ、シンプル炒飯ゆえの開発の「壁」にぶち当たったといいます。その突破口は。炒飯と深く関わる中で得た境地についても聞きます。
■全部食べ切って見える味
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──竹本さんは冷凍炒飯の商品企画を担当するようになって、炒飯の食べ方に変化はありましたか。
冷凍炒飯に携わるようになって3年半になりますが、担当になる前は普通に炒飯を食べていましたね。
子どもの頃は母が永谷園の「チャーハンの素」で作る炒飯を食べていました。学生時代はお金がなかったのでキムチ炒飯を自分でよく作っていましたね。家庭を持ってからは、冷蔵庫の残りもので作るような炒飯です。
担当になってからは、自社の炒飯を毎日のように食べ、炒飯を知るため色々な店に食べに行くようになりました。ネットの口コミを見たり、マーケティング部から情報をもらったりして。
──何軒くらい?
そうですね……例えば今月発売した新商品「たっぷり卵のえび炒飯」の開発に向けては50店くらい食べました。数をこなすことによって見えてくるものがあるので。
──どんな店ですか?
町中華が中心ですね。高級店の炒飯ももちろんおいしいのですが、それなりの食材を使っていたりします。これに対し、町中華はある一定の価格帯の中で食材での差別化よりも「技」で勝負している部分が大きく、参考になる点が多いからです。
──店で食べる時、何をチェックしますか?
前編でお話しした「香り立ち」と「炒め感」ですね。口に入れたときどう鼻に抜けていくかとか、どんな炒め方をしているか。具材は何を使っているのかも当然見ます。
で、もう一つ自分で決めているのは、ひと口ふた口で判断せず必ず全部食べ切ることです。
──一日に何軒も食べないといけないような日はきつくないですか?
きつい時もありますよ。だからこんな体になってしまった……(笑)
でも最初のひと口、ふた口がおいしくても、食べ進めるうちにくどくなったり、胃もたれがしてきたりするようなケースもあるので、必ず完食して判断するようにしています。
■シンプルな炒飯ほど商品化が難しい
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──新商品の「たっぷり卵のえび炒飯」と前編で取り上げた「本格炒め炒飯®」を食べ比べてみましたが、味が全然違いますね。
「たっぷり卵のえび炒飯」はシンプルな塩味で、自家製の「えび香味油」を使い独自の味わいを目指しました。
──私はえびが好きなのですが、ベースの炒飯は全部共通でトッピングを焼豚からえびやカニに差し替えるだけの店もありますよね。
そういう店も確かにありますね。50軒近く食べておいしかったえび炒飯に共通していたのはとにかく「シンプル」。ほとんどが塩味ベースでした。
でも、シンプルな炒飯ほど商品化が難しいんです。
──どのへんが難しいのですか?
例えば「本格炒め炒飯」はしょう油ベースに色々な調味料を混ぜ合わせて味つけしていますが、シンプルな塩味となるとピンポイントな分、味つけのベース作りは難しくなります。
それに、炒飯はシンプルなだけだと途中で食べ飽きてしまうんですよ。それが一番の課題でした。
──食べ飽きさせない「解」は見つかったんですか?
試行錯誤し行き着いたのは、米と具材を一緒に口に入れたときに複数の風味が感じられ、口の中で広がっていくこと。そこにポイントがあるのではないかと。
それで、「えび」は食べ応えのあるバナメイエビに。そして卵は風味を重視して、従来より量を増やし独自技術で「ふっくらと大きい卵」にしました。それに、「えび香味油」を自社で開発し加えています。
──前編で、炒飯では「油」が大事で、いかに「おいしい油」を米にまとわせるかだというお話でした。今回もそのセオリーにのっとったわけですね。
そうですね。えびのエキスのようなものは既製品であるのですが、それだと濃すぎて炒飯に合いません。このため殻付きのえびから香りを抽出する「えび香味油」を独自に開発しました。
■世界一になっても進化を止めない
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──ベーシックな王道炒飯から高菜やキムチまで、冷凍炒飯のラインナップは広いですよね。
ロングセラーの定番商品として、まず「本格炒め炒飯」「具材たっぷり五目炒飯」があって、ここに「たっぷり卵のえび炒飯」を加えました。
で、おっしゃる通り、脇を固める商品として「やみつきねぎ塩炒飯」「Wキムチ炒飯」「国産素材の高菜炒飯」の三つ、この子たちがあります。
──この子たち……(笑)
この3つはゼロから立ち上げに関わったので、つい思い入れが(笑)。どの商品にも私たちだからこそできる技術を盛り込んでいます。
今後は町中華にある炒飯をひと通りラインナップしていきたいと考えています。
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──冷凍炒飯はニチレイフーズの看板ですから、やり甲斐と同時にプレッシャーも大きいのではないですか。前編でお話をいただいた「本格炒め炒飯」のようにギネスの世界記録 ™(※1)にまで到達した商品の展開は難しかったりもしませんか。
プレッシャーは……正直、ありますね。
「本格炒め炒飯」は24年間食べ続けてこられたお客様も多くいらっしゃいますので大きく変えることはありませんが、進化は止めません。
先ほど店に食べに行く話をしましたが、僕は基本一店舗一回と決めているんです。できるだけ多くの店に食べに行きたいですからね。それでも数軒、何度も通わずにはいられない店があります。そうした店の絶品の炒飯を食べていると、「まだまだうちの炒飯はおいしくできる」と感じます。
行く度、いったい何が違うのかを分解して考え、一歩一歩階段を上るように近づけていけたらと思っています。
■家庭に専門店の炒飯の味を
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──炒飯と深く関わるようになって、炒飯の見方は変わりましたか?
炒飯は米、卵、焼豚、ねぎに油と、せいぜい4つか5つの要素から構成される極めてシンプルな料理なのに、どんなに突き詰めていっても容易にプロの絶品の味に到達しきれない「奥深さ」を感じます。
また炒飯には、炒飯の素で作ったり、家の残りもので作ったりするようなものもあれば、料理人の技を駆使したプロの味もあって。とんでもない広がりを持った料理だなと思います。
冷凍炒飯を手に取ったことのない方もまだたくさんいらっしゃるのではないかと思いますが、これだけの広がりのある料理。一度味わっていただければ炒飯の世界観が変わるのではないでしょうか。私たちが目指しているのは、プロの専門店の味を家庭で味わってもらうこと。その味と価値をもっと広めていきたいですね。
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※「本格炒め炒飯」はニチレイフーズの登録商標です。
※1 記録名:最大の冷凍炒飯ブランド(最新年間売上) 対象年度:2020年、2023年
←第22回(ニチレイフーズ・竹本亮太さん前編)を読む
第24回(3月中旬配信予定)に続く→
◆連載のバックナンバーはこちら
◆プロフィール
ニチレイフーズ 竹本 亮太
ライン&マーケティング戦略部商品第一部米飯戦略グループマネジャー。2011年入社。冷凍のグラタンやコロッケの商品開発、唐揚げや弁当惣菜、今川焼の商品企画などを経て2021年より現職。
取材・文:石田かおる
記者。2022年3月、週刊誌AERAを卒業しフリー。2018年、「きょうの料理」60年間のチャーハンの作り方の変遷を分析した記事執筆をきっかけに、チャーハンの摩訶不思議な世界にとらわれ、現在、チャーハンの歴史をリサーチ中。
題字・イラスト:植田まほ子