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連続テレビ小説「虎に翼」佐田寅子役・伊藤沙莉さん×桂場等一郎役・松山ケンイチさん スペシャル対談

ともが投げかける「はて?」をらさず受け止め、寅子の法律家としての成長を見守り続けるかつらとういちろう。「桂場さんに遠慮なくもの申す寅子は、ケンイチさんだから生まれた」と、とうさい さん。まつやまケンイチさんは、伊藤さんを「同志」と語ります。「虎に翼」の魅力について、2人の対談をお送りします。
本記事は、7月25日発売『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 虎に翼 Part2』に掲載した対談からその一部をご紹介します。


寅子の可能性を誰よりも信じているのは桂場さんかも

松山 沙莉ちゃんとは、以前ドラマで兄妹役を演じましたね。あのとき沙莉ちゃんは何歳くらい?
伊藤 確か23歳くらいだったと思います。
松山 僕は当時、沙莉ちゃんのバックグラウンドをそれほど知らなかったんだけど、すごく話してくれる子だと思ったんです。
伊藤 あはは〜(笑)。
松山 で、「いつもは女性の俳優さんとどんな話をすればいいのか分からないんだよ」と話したのを覚えています。そのくらい沙莉ちゃんは話しやすかった。
伊藤 ケンイチさんの作品をたくさん拝見していたので、緊張しつつもやっぱりお話ししたかったんだと思います。しかも嫌がらずにつきあってくれましたよね。あと、共演をきっかけに私が主演した映画「獣道」を奥さまの小雪さんと一緒に見てくださって、感想も聞かせてくれて。「なんて優しい方なんだ!」と感動しました。
松山 なんかね、年齢も性別も違うけど、沙莉ちゃんは同志という感じがするんですよ。
伊藤 (しみじみと)うれしい……。その数年後に映画でご一緒したときに、私が「実家を建てるのが夢なんです」と言っていたのを覚えていてくださって、「実家は建てた?」「いや、まだです」という会話もしましたね(笑)。
松山 うん、したした(笑)。
伊藤 それもうれしかったです。夢のためにますます頑張ろうって。
松山 よかった。
伊藤 今回は法曹界の先輩・後輩という役どころですが、私は寅子が桂場さんに「法律は、例えるならば、きれいなお水が湧き出ている場所」と言うシーン(第5週)が好きで。桂場さんも寅子と似た考えを持っている気がするんです。
松山 そうだね。
伊藤 寅子の可能性を誰よりも分かっているのが桂場さんで、導いてもらっている感覚があります。
松山 桂場は先進的な考え方を持つ穂高先生(小林薫さん)の教え子なので、その影響を強く受けていると思う。ただ、「男性は外で働き、女性は家を守る」といったあの時代の考え方は少なからず彼の中にもあるだろうし、だからこそ、自分にない感性を寅子に見ているのではないかな。水がよどむのは流れがないからで、寅子は新しい流れを作れる人だと。
伊藤 戦後になると、立場は違っても法改正などのために一緒に闘うことが増えていくので、仲間意識みたいなものも生まれている気がします。寅子が桂場さんをいじる場面も増えていますし(笑)。
松山 確かに(笑)。
伊藤 寅子が10代のころから知っている人なので、若干の甘えもあるのかも。直接的ではない桂場さんの愛情も寅子はちゃんと受け取っていて、もはや桂場さんのことが大好きなんだと思います。
松山 桂場はことあるごとに「お前は甘い、そんなんじゃ法の世界でやっていけない」と、寅子の前にハードルを置くけれど、寅子はあの手この手で、時には女性であることを賢く生かしてハードルを越えてしまう。おまけにその突進力で、桂場の人間性をも突破してくるという……。
伊藤 あはは(笑)!
松山 桂場にとってそういう人はあまりいなかったと思う。だからびっくりするし、だんだんとおもしろくなって、同志として好感を持つようになったんだと思います。久藤( 沢村一樹さん) や多岐川(滝藤賢一さん)と3人で「こいつをどうしようか」と寅子の活躍の場を思案するようになりますしね。

佐田寅子役の伊藤沙莉さん

気付きをくれる穂高先生が、演じる小林薫さんに重なる

伊藤 寅子を最初に導いてくれた穂高先生は、桂場さんより素直というか、いろいろな可能性にまっすぐ期待できる人ですよね。「こうなったらいいのに」ということをどんどん実践してきたんだろうと思います。
松山 新しい物の見方や、誰も気付かなかった矛盾点を教えてくれるのが穂高先生で、そこが薫さんご本人と重なります。薫さんと話していると、「そういう考え方もあるのか」と気付かされることが多いです。
伊藤 私は穂高先生との心苦しいシーンが続いたので、薫さんにもいろいろ相談しました。第8週で、貧血で倒れた身重の寅子が、穂高先生から「雨垂れ石を穿うがつ。君の次の世代がきっと活躍する」と言われて憤慨し、さらに第10週でも「この道に君を引きずり込み、不幸にしてしまった」と言う穂高先生に「無理に法律を学び続けたわけじゃない。好きでここにいるんです!」と反発します。先生の退任祝賀会(第14週)では、花束贈呈の役目を拒んだ末に、怒りをぶつける。このあたりは、薫さんと「これはもう、親子げんかだね」と話しました。つまり寅子は娘みたいな甘えがあり、穂高先生はいわゆる「父親あるある」で、娘の心が読めず、時にズレたことを言ってしまう。しかも寅子は、穂高先生をなかなか許さないし、逃がさない。
松山 薫さんは、少しでも視聴者に味方になってもらいたいからと、寅子に怒られたあと、しょんぼり歩くシーンの歩幅にすごくこだわっていたよね。
伊藤 そうそう‼ 腰の曲げ方も研究してた(笑)。
松山 そのシーンは(手元のペットボトルを指差して)薫さんがこのくらい小さく見えた(笑)。
伊藤 見えた見えた(笑)!
松山 薫さんも手応えがあったみたいで、喜んでいました。
伊藤 私は最初、なぜ寅子があそこまで穂高先生に対して腹を立てるのか、分からなかったんです。でも監督から、「いつも応援してくれた穂高先生から〝自分も寅子も雨垂れの一滴〟と言われたことが悔しい。怒りは愛情の裏返しで、実際は愛を伝えている」という説明を受けて納得しました。なので、すごい怒りながら、心の中で「愛してる!」と叫びました。そうしたらあとでケンイチさんが、「ちょっとくらい目線を外してあげればよかったのに」って(笑)。
松山 穂高先生に逃げる隙を与えなかったからね(笑)。
伊藤 コテンパンにやっつけちゃいました(笑)。監督たちともよく話すのですが、簡単に許さないところに吉田恵里香さんの脚本の〝イズム〟を感じます。よねさん(土居志央梨さん)も一度法の世界から去った寅子をずっと許してくれなかったし。でもそれは、けんかできるほどの仲になれた証拠で、穂高先生ともそこまで近づけたということ。最後は和解もできて、師弟を超えた関係になれた気がします。
松山 結局、穂高先生も寅子の前にハードルを置いた人なんですよね。寅子はそれさえも越えていく。寅子の強さを桂場は尊敬していると思う。桂場自身、目の前にたくさんのハードルがあるはずだから。

(中略)

桂場等一郎役の松山ケンイチさん

大河ドラマで実感した実年齢を超えていく難しさ

伊藤 「虎に翼」の物語は現代に通じているので、ジェンダーや離婚、親権のニュースにも関心が向くようになりました。人と議論する機会も増えましたね。
松山 僕も裁判のニュースを見ると、桂場だったらどんな判決を下すだろうと考えます。
伊藤 「中立の視点」みたいなものも、ふだんから意識するようになりました。単純に善し悪しを決めつけないようにしようって。
松山 個人的に興味があるのは仕事と子育ての両立の問題。現代の親の多くが抱えている悩みだと思うから。寅子もすごく悩むので、どう解決していくのかを見たいし、多くの人に見てほしいですね。
伊藤 私は母子家庭で育って、母は朝から晩まで外で働き、伯母が姉、兄、私の面倒を見てくれました。だから寅子が母に重なり、寅子の娘の優未が、なかなか母と一緒にいられなかった幼いころの自分に重なるんです。寅子役は、母の苦労に思いをせる機会にもなっています。
松山 寅子はもう沙莉ちゃんの実年齢を超えているけれど、そこの難しさで悩むことはない?
伊藤 そこには、ずっと悩んでいます。
松山 すごく分かる。僕が20代で大河ドラマで平清盛を演じたときに同じように悩みました。
伊藤 すでに40代の寅子を演じていますが、うっかり20代の走りをしそうになったことも。
松山 姿勢一つにしても、人生の蓄積が出るはず。でも経験していないから分かるはずないんだよね。
伊藤 今の40代、50代は、寅子の時代の人よりもずっと若々しいから参考にならないし。
松山 そうなんですよ。沙莉ちゃんはこの先、その難しさと闘っていかなきゃならない。でもこの作品を終えたとき、誰も見たことのない世界や経験値が沙莉ちゃんのものになっていると思う。だから頑張って! 応援しています。
伊藤 最高のエールをありがとうございます! 寅子の一生を悔なく生きていきたいです。

(了)

いとう・さいり
1994年生まれ、千葉県出身。主な出演作に、映画「ちょっと思い出しただけ」「すずめの戸締まり」「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」、ドラマ「ミステリと言う勿れ」「シッコウ!! ~犬と私と執行官~」など。NHKでは、連続テレビ小説「ひよっこ」、「いいね!光源氏くん」「ももさんと7人のパパゲーノ」などに出演。

まつやま・けんいち
1985年生まれ、青森県出身。主な出演作に、映画「デスノート」「ノルウェイの森」「聖の青春」「BLUE/ ブルー」「川っぺりムコリッタ」「ロストケア」、ドラマ「100万回 言えばよかった」など。NHKでは、大河ドラマ「平清盛」「どうする家康」、「こもりびと」「お別れホスピタル」などに出演。2024年12月には主演映画「聖☆おにいさん」の公開を控えている。

撮影=キム・アルム 取材・文=髙橋和子 スタイリング=吉田あかね(伊藤さん)、五十嵐堂寿(松山さん) ヘア&メイク=岡澤愛子(伊藤さん)、遠山美和子(松山さん) 

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