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庭やベランダからストップ気候変動! 話題の新刊『土を育てる』で土いじりがもっと楽しくなる

本がひらく

 日本では一般的に、庭や畑などの土は耕したり、肥料をやったりしなければならないと思われていますが、本当にそうでしょうか? もしかしたら、何もしない方が土や植物にとってはいいのかも……。
 そんな驚きの考え方が詰まっているのが『土を育てる――自然をよみがえらせる土壌革命』(好評発売中)。本国アメリカのアマゾンでは今1,000以上の5つ星レビューがついている話題の翻訳書です。
 自宅や畑で、植物を愛でたり、野菜の収穫を楽しんだりしながら、さらに温暖化対策もできる――その手法とはどんなものなのでしょうか。本書の訳者で、サステイナブルな暮らしについて発信している服部雄一郎さんのあとがきより、その概要をご紹介します。


 本書は、2018年10月にアメリカで刊行されたDirt to Soil: One Family’s Journey into Regenerative Agricultureの日本語版です。著者のゲイブ・ブラウンは、アメリカのノースダコタ州で広大な農場を営む農家。リジェネラティブ農業(環境再生型農業)のパイオニアとして世界的に知られています。
 リジェネラティブ農業は、大気中の二酸化炭素を土壌に取り込んで温室効果ガスの排出削減を実現する「カーボン・ファーミング」の手法としても注目を集めている農法です。話題の本『DRAWDOWNドローダウン――地球温暖化を逆転させる100の方法』のなかでもゲイブ・ブラウンの名前とともに紹介されたほか、アウトドアブランドのパタゴニアによる取り組みや、ネットフリックスのドキュメンタリー映画〈キス・ザ・グラウンド――大地が救う地球の未来〉など、日本でも徐々に認知が広まっている印象です。

ダイナミックな土の世界

 リジェネラティブ農業が目を向けるのは、「土」。ふだん見過ごされがちな土がどれほど大きな役割を担っているか。炭素の貯留源として、その生態系がいかに重要か。本書にはそのダイナミズムが鮮やかに描き出されます。
 農業でもガーデニングでも、「作物を育てる」というと、つい「どれだけうまく野菜が育つか?」という思考回路に終始してしまうようなところがありますが、本書の中心テーマは、むしろ「土の再生」。植物や土壌生物の力を生かし、土の生態系を回復することで、大気中の炭素や窒素を地中に取り込む。それによって作物の育ちはよくなり、同時に気候変動の抑止も果たされる。現代の農業が温室効果ガスの主要な排出源のひとつとして問題視されるなか、これはきわめて本質的で理にかなった視点であるように思えます。
 そして、土がある場所は畑のなかだけにとどまりません。本書は、私たちの足下にある土の普遍的なパワーと、そのパワーが地球規模で失われることの重大さに気づかせてくれる刺激的な書でもあります。農業に取り組む方々はもちろん、日々作物を消費するすべての消費者、さらには地球の土の上に生きるすべての人に、現代の資本主義的な自然との関わりを顧みる機会をくれる貴重な一冊ではないでしょうか。

日本の自然栽培 VS アメリカの不耕起

 リジェネラティブ農業の「不耕起×無農薬×無肥料」というスタイルは、「無農薬」や「有機(オーガニック)栽培」さえもがまだまだ少数派の日本では、少し極端に聞こえる部分もあるかもしれません。
 日本版序文に言及されているとおり、日本にはもともと福岡正信さんの「自然農法」や川口由一よしかずさんの「自然農」など、「不耕起×無農薬×無肥料」をベースとする“自然栽培”の流れが存在しますが、一般的には「なかなか収量が安定しない」「それを乗り越えないとうまくいかない」というストイックなイメージも広がっていて、本格的な農業に応用するにはかなりハードルが高い印象があります。
 対するアメリカの事情はかなり異なっており、アメリカ国内ではすでに小麦や大豆の40パーセント以上、トウモロコシも30パーセント近くが不耕起で栽培されているとの報告がある(アメリカ農務省)ほどで、不耕起はメジャーな手法として定着しています。しかも、日本とは桁違いの何十万平米という農地を、遺伝子組み換え作物や除草剤との合わせ技で“効率的に”不耕起栽培するのが主流とのこと。つまり、日本のような“無農薬志向”の不耕起とはまるで別の地点で、トラクターの燃料費や作業コストの軽減、土壌侵食のリスク回避といったきわめて現実的なメリットのために不耕起が実践されているのです。
 本書に描かれる挑戦は、このような日本とはまったく異なるアメリカの文脈のなかから生まれています。日本的な自然栽培の感覚からすれば、あくまで事業拡大を目指そうとする著者の姿勢もアメリカらしさが感じられておもしろいところですが、こうした合理的な路線から浮かび上がってくる不耕起や無農薬の可能性もまた、私たちに多くの示唆しさを投げかけてくれているように感じます。

どのように日本で生かせるか?

 さて、本書に提示される考え方をもとに、日本で実際にどのようなアプローチが生み出せるか? 一見、アメリカとは広さも条件も異なる日本では応用しにくいように見えるかもしれませんが、本文にも書かれているとおり、「どんな場所でも、どんなサイズの畑や庭でも、土の原則は変わらない」。ガーデニングや家庭菜園の愛好家のみなさんにもすぐに真似していただけそうなポイントが満載です。
 たとえば、「耕さない」「刈った草を敷き詰める」「多様な品種を混植する」「雑草を引き抜かずに根を残す」などはすぐに真似できそうですし、カバークロップ(土壌の働きの活性化を目的に育てられる作物)の多種ブレンドも効果を試してみたいところ。「動物を組み込む」は、日本では少しハードルが高いかもしれませんが、わが家の庭は現在、「牛の代わりにニワトリくらいだったら組み込めるか?」「せめて野鳥や益虫を増やせるか?」「動物の代わりに人間(=自分)が草を踏みつけてみようか?」などなど思案中。さらに、雑草の防除にも効果的だという「秋き」も、うまく取り入れたい要素のひとつです。
 なによりも、私自身は本書を読んだことで畑や庭の“見え方”が変わり、庭いじりが俄然がぜんたのしくなりました。個人的に衝撃だったのは、たとえば、大根を「収穫」のためでなく、「カバークロップ」として育て、そのまま土のなかで朽ちさせるといった部分。“栽培”という一点において「使いきれない=もったいない=意味がない」と思い込んでいたところ、「使いきれなくても、そのまま朽ちさせるだけで意味があるのか!」というのは目からウロコで、今年は山ほど大根を育ててみようという気になりました――土のために! 
 また、本書にたびたび登場するヘアリーベッチの種を入手して播いてみたところ、目に入ったのは、その周囲に勝手に生えてきたカラスノエンドウ。昨春まではすべて根こそぎ引っこ抜いていたけれど、同じマメ科で見た目も似ている。「もしかして……」と検索してみると、やはり畑づくりに生かせるらしいという情報が見つかり、今年はそのまま抜かずに残すことにしました。わざわざ耳慣れない海外の品種を育てなくても事足りるかもしれません。
 目指すは“カオスの園”。隆盛のユーチューブでは自然栽培系の動画もいろいろ視聴できるので、そんなところからも「日本向け」のヒントは見つかりそうです。「畑は小さな大自然! そーやん」さんのユーチューブなどはかなり参考になっています。

※本文は『土を育てる――自然をよみがえらせる土壌革命』でお楽しみください。

写真=L. Feddes/Shutterstock.com

著者プロフィール
ゲイブ・ブラウン

気候変動対策「カーボン・ファーミング」として、いま世界で注目を集めるリジェネラティブ農業(環境再生型農業)の第一人者。アメリカ、ノースダコタ州で2,000ヘクタールの農場・牧場を営む。妻と息子の家族3人でたび重なる危機を乗り越えて、化学肥料・農薬を使わない不耕起の栽培によって自然の生態系を回復させる新たな農業を確立した。彼の農場には国内外から毎年数千人の見学者が訪れるほか、講演やメディア出演も多数行い、世界中にそのメソッドを伝えている。アメリカ不耕起栽培者賞、天然資源保護協議会から成長グリーン賞を受賞。

訳者プロフィール
服部雄一郎(はっとり・ゆういちろう)
翻訳家。高知県在住。UCバークレー公共政策大学院修了。「ゼロウェイスト」や「プラスチック・フリー」の実践的な取り組みがメディアで紹介され注目を集める。訳書に、『ゼロ・ウェイスト・ホーム』(アノニマ・スタジオ)、『プラスチック・フリー生活』(NHK出版)、『ギフトエコノミー』(青土社)など。家族の暮らしを綴った妻との共著書に、『サステイナブルに暮らしたい』(アノニマ・スタジオ)がある。ブログ「サステイナブルに暮らしたい」

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