ほんのささやかなライフハックが、今日も自分を救ってくれる。「救ってくれる」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく
「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#25 救ってくれる
こどくは、現在大学に通っている。大学だから、もちろんさまざまな講義がある。今回は、こどくが講義を受けるにあたっての、ライフハックをふたつ紹介したい。
こどくは合理的配慮といって、障害を持つ学生が障害を持たない学生とおなじように講義を受けられるようなシステムを利用している。
ひとつめのライフハックは、そのとき、こまっていることをなるべく先生に伝える、ということだ。こどくが抱える統合失調症は、ありふれた病気といっても、100人にひとりの割合だから、先生も、統合失調症について詳しく知らないことが多い。また、「なにがつらい」とか、「なににこまっている」など、自分から具体的に言っていかないと、環境が改善されないこともある。こどくは、「席を出入り口に近いところにしてほしい」や、「予定はなるべく事前に教えてほしい」「ショッキングな映像が流れるときは事前に言ってほしい」など、さまざまな合理的配慮を受けている。はじめは、それこそ「面倒な学生だ」と思われるかもしれない、と思って、あまり要望を伝えていなかったが、先生側からすると、「逆になんでも言ってほしい」「ほかの学生のためにもなる」ということらしい。そこで、こどくは要望をできるだけ伝えるようになった。
ふたつめのライフハックは、講義のネタバレをなるだけ避ける、ということだ。講義によっては、資料を事前に配布してくれる講義もあるが、それらに目を通さないようにするのだ。このライフハックのどこがおすすめかというと、理由はふたつある。ひとつめは、ただ単純に、講義がたのしみになるからだ。ゲームをプレイしたり、まんがや小説を読んだりしたことがあるひとにはわかると思うが、「初見」は最高のスパイスだ。こどくは初見で、講義をたのしみたいのだ。ふたつめの理由は、あせらなくて済む、ということ。はじめて使うソフトの使いかたは、使ってみないとわからない。だから、さきに資料に目を通してしまうと、「こんなにむずかしいの?」とあせってしまう。そして、こどくはあせると体調をくずしがちになってしまう。それを避けるためにも、ネタバレ厳禁でこどくは講義に挑んでいる。ただし、講義の前に目を通してね、と言われた資料については、しっかり目を通そう。
そんなこんなで、こどくはこどくなりに、大学をたのしむ工夫をしている。工夫しだいで、大学に通いやすくなるし、あしたの講義がたのしみになる。そんなほんのささやかなライフハックが、今日もこどくを救ってくれる。
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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。
プロフィール
もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。