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【命を込めて書いた「光る君へ」】脚本家・大石 静さんインタビュー〈前編〉――『大河ドラマ「光る君へ」電子シナリオ集[全4集]』
大河ドラマ「光る君へ」電子シナリオ集[全4集]の発売に合わせて、脚本の大石静さんにロングインタビューを敢行!
作品への想い、台本のよみどころなど、大石さんにたっぷり語っていただきました。
すべての「光る君へ」ファンへ、お届けします。
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沼る人たちが続出の「光る君へ」。今回、待望のシナリオ集が発売となります。執筆を終えての感想を教えてください。
この作品を引き受けてから3年半、執筆当初は平安時代のことを何も知らなかったので勉強も大変でしたし、よく頑張ったなという感じです。命を込めて書いた作品なので、よくぞシナリオ集を出してくださると思ってうれしいです。紙の本にすると『源氏物語』の現代語訳より長くなってしまうので、電子書籍で出版のチャンスをいただけてうれしく思っています。多くの方に読んでいただきたいですし、熱烈にご視聴くださった皆さまには、もう一度シナリオ集で「光る君へ」を体験していただけたら光栄です。
今回全48話が発売となるシナリオ集ですが、作品全体の作劇についても教えてください。
>作中、ところどころに『源氏物語』のエピソードがちりばめられているのが印象的です。
台本の打ち合わせをしているときに考証の倉本一宏先生が、「まひろと道長は、若紫が光源氏と出会ったときのように、小鳥が逃げていったのを追いかけて出会うのがいいんじゃないか」っておっしゃって。それはすてきだな、と思って、そんなふうに私たちのドラマの中に『源氏物語』のエピソードを入れていけばいいんだなと気がついた感じがします。もしかしたらすでにチーフ監督の頭の中にはあったかもしれないけれど(笑)。そこから『源氏物語』の中のエピソードを私たちのドラマにいれていくようになったんです。例えば、まひろが宣孝に火取の灰を投げつけるところ(第26回シーン38)や、女房たちがヒソヒソ話をするところ(第32回シーン46ほか)も『源氏物語』のエピソードです。
>キャラクターもそれぞれ魅力的でした。まず、主人公のまひろ(紫式部)ですが、“気難しい”というのは初めからの設定なのでしょうか?
ドラマは、爽やかで一途な感じのヒロインをど真ん中に置く場合が多いのですが、紫式部(まひろ)は、激しい想いが内にこもる性格です。昔から清少納言が「陽」、紫式部が「陰」と言われるくらいですから、陰な人っていう感じではありました。それに書いているうちにどんどん、まひろの偏屈さが増していって、最初の予定よりずっと気難しい人になってしまいました(笑)。その複雑さこそが物語を生む原動力でもあるわけですが、台本だけで読むともう、猛然に偏屈で大丈夫かと思うのです。でも吉高(由里子)さんが演じると、とても愛すべきキャラになるところが見事でした。まひろは出番が少ない回もあったのですが、それでも主役の存在感を放っていたところも、吉高さんのすごいところだと思います。
>まひろの他にも、藤原家、天皇家、貴族たち……と本当にたくさんのキャラクターが登場しますが、どのように描き分けているんですか?
この物語を作るにあたり、まひろと道長をはじめ、すべてのキャラクターをどうするか、最初にチーフ監督や制作統括と何日も話し合いました。でも書き進んで行くと、役が勝手に動き出す時もあるのです。特に今回は平安時代を生きる役そのものや、役者の芝居が私の背中を押してくれてたので、途中でキャラクターで迷ったことはないです。
記録が残っている人物の中で、紫式部の弟(藤原惟規)はすごく出来の悪い弟だったと言われています。でも、ドラマでは仲のいい姉弟にしようと思いました。そういうことはいろいろありましたね。
>まひろと惟規の関係性がとてもすてきだった分、惟規の最期(第39回)はとても悲しかったです……。
惟規の死は、私も書いていて悲しかったです。第39回辺りはいろんな人がバタバタ死んで、伊周も死んで……。こんなに次々死んでどうしましょう!って思ったけど、歴史どおりだから、そういうところは変えられないのです。
>まひろと惟規、伊周と隆家など、「きょうだい」たちも印象的でした。
まひろと道長のラブ線ばかり注目されていましたが、“きょうだい同士”の話も色濃く描いています。まひろと惟規、詮子と道長、道兼と道長とか、道綱と道長など、きょうだいの話は私も書いていて、好きでした。兼家と道長、為時とまひろ、まひろと賢子など親子の姿にも力を注ぎました。
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>シナリオには「ト書き」があります。「役者への挑戦状」という方もいらっしゃる、この「ト書き」について教えてください。
台本ってお客さんに読ませるためのものではないので、文学的なト書きを書こうとは思っていません。ト書きは基本、監督や役者、ほかのスタッフがやりやすいように、分かりやすいように、と思って書いています。道長役の柄本(佑)さんが何度も「挑戦状」って言うんで、えらい挑戦してるみたいになっちゃったんですけど、そもそも挑戦している気はないのです(笑)。ああ、でも一箇所だけ、柄本さんがあまりにも芝居ができて、こんなに何でもするするできちゃうと、苦労することがなくて飽きちゃうんじゃないかと思い、第6回の「漢詩の会」のシーン(28シーン)で「・・・・(今まで見せなかった万感の思いを、表情に表す)」っていうのを、これはできないだろうと思って書いてみたんです。そしたらそれもちゃんとできちゃって(笑)。恐れ入りました。本人は「どういう顔すればいいんだって思った」って言ってましたけども(笑)。
ドラマ本編についてもお話を伺いたいです。
>ずばり、一番好きなシーンはどこですか?
「どこが好きか」という質問が一番困るんですよ(笑)、全部命を込めて書いたので。ここだけが好きとか思うことはないのですが、台本を書いていてなんかうまくいったなというところや、みんなの力でよい仕上がりになったところはいろいろあります。まひろが土御門殿を出ていくとき、「行かないでくれ」とすがる道長に、「賢子はあなた様の子でございます」と告げるシーン(第45回シーン22)の二人の芝居もすばらしかったし、廃邸のラブシーンもみんなよかった。台本も演出も芝居もうまく行った感じです。
第2回の、散楽を見ているまひろと道長が辻で再会してから、その後川べりを歩く場面(シーン28)の、中島由貴チーフ監督の演出を見た時は、この作品はいけるかもって思いました。本当によく演出されていて、この二人の話なんだなあってしみじみ思えたし、少年少女時代のほのかな恋心が今も続いてるっていう感じもよく出ていました。この、「歌はいらぬ」と言って走り去る柄本さんの芝居、その背中を見送る吉高さんの芝居もステキでした(笑)。
インタビューは〈後編〉に続きます。
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プロフィール
大石 静(おおいし・しずか)
東京都生まれ。1986 年に脚本家としてデビュー。連続テレビ小説「ふたりっ子」で97 年に第15 回向田邦子賞と第5回橋田賞を受賞。「セカンドバージン」で2011 年に東京ドラマアウォード脚本賞受賞。21 年にNHK 放送文化賞受賞、旭日小綬章を受章。執筆作に「知らなくていいコト」ほか多数。NHK では、大河ドラマ「功名が辻」、連続テレビ小説「オードリー」などを執筆。
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