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2050年、暑さにより16億人に生命の危機が訪れる……『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』より抜粋掲載③〔全3回〕

「今世紀末までに日本を含むアジアの大部分が居住不可能」「4℃の上昇で北極圏にヤシの木が生える」など、気候変動をめぐる数々の衝撃的な予測で世界的な反響を呼んだ『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』が、遂に日本登場。はたして「戦慄の未来」は訪れるのか? われわれに救いの道は残されているのか?
 本日発売の本書よりその一部を抜粋して全3回にわたってご紹介します。

頻発する殺人熱波

 実のところ、私たちはすでに危険域に入っている。1980年以降、強烈な熱波の発生は50倍になっており、今後さらに増えると思われる。1500年以降のヨーロッパで夏の気温が高かった年を調べると、上位5年はすべて2002年以降に集中している。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は世界の一部の地域について、夏の屋外活動は健康を損ねると警告した。パリ協定の目標を達成できても、パキスタンのカラチ、インドのコルカタでは、数千人の犠牲者を出した2015年のような殺人熱波が毎年発生するだろう。2003年にヨーロッパを襲い、1日で2000人を殺した熱波が当たり前になる。この年の熱波はヨーロッパの歴史でも例を見ない気象災害で、フランスだけで1万4000人、大陸全体で3万5000人が死亡した。

 将来はこれがもっとひどくなる。コロンビア大学のイーサン・コフェルの研究チームが2017年に発表した「何も手を打たなかった場合」のシナリオによると、過去の年最高気温を上回る日数が、2080年には100倍、ひょっとすると250倍に増えるという。ここでの日数とは「人日(にんにち)」で、影響を受ける人数も入っている。毎年、湿球温度で現在最も過酷な状態が1億5000万~7億5000万人日になる―─平たくいえば、死の熱波が世界を襲うということだ。そのうち100万人日では、人間の生存能力を超える湿球温度に達するだろう。

 気温上昇の問題に拍車をかけるのが、世界の人口の大多数が暮らす都市の存在である。アスファルトとコンクリートは熱を吸収してためこむ。これが問題だ。というのも熱波のときは、夜に気温が下がることで人の身体は回復する。しかし気温があまり下がらなかったり、下がる時間が短かったりすると、身体は加熱される状態がずっと続く。アスファルトとコンクリートは、昼間に大量の熱をためこんで夜に放出するので気温が下がらない―─いわゆるヒートアイランド現象だ。

 いうまでもなく、世界では都市化が急速に進んでいる。2050年までに総人口の3分の2が都市に居住すると国連は予測する。25億人が新たに都市に流れこむ計算だ。
 アメリカでは、犯罪の多さに辟易した住民が都市から出ていく現象が見られたが、気候変動で同じことが起きないともかぎらない。あまりの暑さに道路の舗装が溶け、線路が曲がったという話はすでに聞くが、今後数十年でさまざまな影響が噴出するにちがいない。

 現在、夏の平均最高気温が35℃に達する都市は世界に354か所あるが、2050年には970に増え、生命にかかわる暑さにさらされる人は8倍の16億人になる。アメリカでは、仕事中に重い熱中症になった人が1992年以降7万人になる。2050年にはその数が世界中で25万5000人になると予測される。

 現時点でも10億人がヒートストレスを受け、総人口の3分の1が毎年少なくとも20日は熱波で死ぬ危険にさらされている。2100年には総人口の半分にまで増えるだろう。平均気温の上昇を2℃未満に抑えたとしてもだ。そうでなければ、世界の人口の4分の3が熱波の影響を受ける。

水没する世界

 二酸化炭素の排出増加が止まらなければ、2100年には世界の人口の5パーセントが毎年洪水に見舞われるだろう。インドネシアの首都ジャカルタは、人口1000万で成長著しい都市だが、洪水と地盤沈下のせいで早くて2050年には完全に水没する。すでに中国の珠江デルタでは、毎年夏になると洪水を避けて数十万人が避難している。

 海面が上昇すれば、20年もしないうちにインターネットを支えるインフラの多くは水没するとも言われている。スマートフォンの一大製造拠点である深センはまさに珠江デルタに位置していて、こちらも頻発する洪水の被害を受ける。

 グリーンランドの氷床は、わずか1.2℃の温暖化で融解が止まらなくなる臨界点に達するという研究もある(すでに平均気温は1.1℃上昇しているから、もう後がない)。この氷床が融けるだけで、海面は6メートル上がり、マイアミとマンハッタン、ロンドン、上海、バンコク、ムンバイが水没する。このまま無制限に二酸化炭素を排出していたら、2100年までに平均気温は4℃以上高くなる。ただし上昇幅は一様ではなく、北極ではなんと13℃にもなる。

 科学ジャーナリストのピーター・ブラネンによると、地球の温度がいまより4℃高かった時代、南極にも北極にも氷は存在せず、海面は79メートル高かった。北極圏にヤシが生えていたのだ。赤道付近がどんな環境だったか、想像もしたくない。

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プロフィール

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ⓒBeowulf Sheehan

デイビッド・ウォレス・ウェルズ(David Wallace-Wells)
アメリカのシンクタンク〈新米国研究機構〉ナショナル・フェロー。ニューヨーク・マガジン副編集長。パリ・レヴュー誌元副編集長。2017年7月、気候変動の最悪の予測を明らかにした特集記事The Uninhabitable Earthをニューヨーク・マガジンに発表、同誌史上最高の閲覧数を獲得した。2019年、記事と同タイトルの書籍(邦題『地球に住めなくなる日―「気候崩壊」の避けられない真実』NHK出版)を上梓。ニューヨーク・タイムズ、サンデー・タイムズ両紙のベストセラーリストにランクインするなど世界で大反響を呼んだ。「ニューヨーク・タイムズ紙、2019年ベストブック100」選出。ニューヨーク在住。

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多彩な執筆陣による連載小説・エッセイ、教養・ノンフィクション読み物や、朝ドラ・大河ドラマの出演者や著者インタビューなどをお届けします。新刊情報も随時更新。ときどき編集部裏話も!  *NHK出版HP → https://www.nhk-book.co.jp/

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コメント (1)
環境より経済優先、想像力の欠落、政治的な怠慢等々。何が幸せなのか、何のために生きるのか、何故今の仕事を選んだのか、哲学が必要な時代だと思う。科学は、東洋哲学に帰結する、と。
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