戸田山和久『思考の教室──じょうずに考えるレッスン』 ―—さあ、答え合わせをしてみよう!《解答と解説編①》
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戸田山和久『思考の教室──じょうずに考えるレッスン』 ―—さあ、答え合わせをしてみよう!《解答と解説編①》

 練習問題1~5の解答と解説を見ていきましょう。
 ※練習問題1~5はこちらです。

問題1 ツッコミについて考えてみよう
解答と解説

 クロエの両親がどちらもO型であるという根拠だけからは、クロエの血液型もO型だということは、厳密に言えば論理的には出てこない。それは、「O型」をそれ以外の血液型、たとえばA型にとりかえてみるとわかる。

根拠 クロエちゃんのご両親はどちらもA型だからね。
主張 クロエちゃんの血液型はA型だと思うよ。

 これは、はっきりと間違った推論である。A型の両親からはO型の子どもが生まれることがありうるからだ。
 でも、O型の両親からはO型の子どもしか生まれない。両親ともA因子もB因子ももっていないので、子どももA因子、B因子をもてないからだ。
 だから、この根拠を補ってあげないといけない。つまり、

根拠1 クロエちゃんのご両親はどちらもO型だ。
根拠2 どちらもO型の両親からはO型の子どもしか生まれない。
主張  クロエちゃんの血液型はO型だろう。

 問題文にあった推論をした人は、相手も根拠2のことは知っていて、それは常識だからわざわざ言わなくてもいいだろうと思っていた。いわば「暗黙の了解」だ。論理的思考業界(なんじゃそれ、そんなのあるんか)では、「暗黙の前提」ともいう。ツッコミはその暗黙の前提が隠されているじゃないかと指摘したわけだ。それを補うことによって、ツッコミから主張を守ることができる。
 では、これでツッコミどころはなくなったか、というと、そうでもない。クロエが「ご両親」の実子でなければ、根拠1、根拠2が正しくても主張が成り立たないことがありうるからだ(これが反例になる)。「クロエちゃんは養子かもしれないじゃないか」というツッコミからも主張を守りたいなら、さらに次のように補う必要がある。

根拠1 クロエちゃんのご両親はどちらもO型だ。
根拠2 どちらもO型の両親からはO型の子どもしか生まれない。
根拠3 クロエちゃんはご両親の実子である。
主張  クロエちゃんの血液型はO型だろう。

問題2 紙とペンを使って考えてみよう
解答と解説

 まず最初にするべきことは、考えを進めるためのプラットフォームとして、うまい表を描くことだ。というか、うまい表の枠組みを作ることだ。この場合は、週間スケジュールを立てる問題なので、次のような表を作っていけば良いだろう。

月

 そのうえで、6つの条件を満たすように、ヒップホップ、レゲエ、サンバ、ボサノバを配置していくことを考える。これらをそれぞれ「ヒ」「レ」「サ」「ボ」と略記する。
 頭の使いどころは、6つの条件を考えていく順番だ。こういうときは、なるべく制約がキツイものから考慮していくというのが鉄則。4つの音楽のうち、いちばん制約されているのはサンバである。(1)(4)(5)の3つの条件を満たさなければならないからだ。この条件を表に書き込んでみる。「×」は、その枠には演奏できないことを示す。(4)により、サンバは第二ステージには演奏できない。だからすべての第二ステージには「×サ」が書いてある。

火

 さて、(4)によりサンバは3回やらなくてはならない。サンバを配置できるのは4箇所しかなくなった。しかも(5)の条件がある。月と火の両方にサンバを置くことはできない。これにより、次の2つの場合だけが残る。

場合A

 どちらの場合でも、第一ステージに空所はあと二つしかない。(2)(3)により、この2つの空所にヒップホップとレゲエが来るのは決まり。だからこの2つを表に書き入れたくなるが、そこは我慢する。なぜなら、この2種類の音楽を第一ステージに入れる際には、他に満たすべき条件がないから、いちばん最後に開いたところに入れれば良いからだ。
 だから、制約きつめの音楽のことを考える。ボサノバだ。二日続けて第二ステージでやらないといけない。そうすると、土曜日にできない以上、金曜日にもできない。入れられるのは月火か火水の第二ステージということになる。そこで、

場合A1

 もう使わない情報は消しておいた。この段階で使いきっていない条件は(3)だ。これに注目。第二ステージにレゲエを三回入れないといけなくて、空所はもう3つしかないから、自動的に次のようになる。

場合A2

 残りは、第一ステージの2箇所。ここにレゲエとヒップホップを1つずつ入れるのだが、「場合B-2」は困る。なぜなら、月曜日と土曜日のどちらかにはレゲエを入れないといけないが、そうすると第一ステージと第二ステージにレゲエが連続してしまうからである。
 というわけで、次の3つが正解。

場合A3

 ふーん、ヒップホップについての条件はユルそうに見えたけど、いずれにせよ土曜の第一ステージにしか演奏できないのか、なんてこともわかる。
 正解が3つの場合に分かれるので、頭の中だけで考えようとしても、まずできない。手間を惜しまずに表をどんどん描いていくというのがポイント。

問題3 ダメダメ文章改善プロジェクト
解答と解説

(1)
全否定:

「すべて」をどうしても使いたいなら、

・私は母の書棚にある本をすべて読んでいない。
・母の書棚にある本は、私にとってすべて未読である。

でも、全否定したいときには「すべて」はあまり使わないほうがいいかもしれない。むしろ、次のような言い回しがオススメ。

・私は母の書棚にある本をまったく読んでいない。
・私は母の書棚にある本をいっさい読んでいない。
・私は母の書棚にあるいかなる本も読んでいない。

部分否定:

・私は母の書棚にある本のすべてを読んだわけではない。
・母の書棚にある本のうちには、私が読んでいないものもある。

ちょっと曖昧さが残るけど

・私は母の書棚にある本をすべて読んでいない。

「は」があるかないかで、全否定っぽくなったり部分否定っぽくなったりする。微妙だ。

(2)
お母さんも見過ごさない人だった場合:

・母と同様、私も世の中の不正を見過ごすことができない。
・母のように、私も世の中の不正を見過ごすことができない。

お母さんも見過ごす人だった場合:

・私は世の中の不正を母のように見過ごすことはできない。
・母のようには、世の中の不正を私は見過ごすことができない。
・世の中の不正を、私は母のようには見過ごすことができない。
・世の中の不正を母のように見過ごすことは、私にはできない。

「ように」が曖昧な文を生み出すという指摘は、阿部圭一・冨永敦子『「伝わる日本語」練習帳』(近代科学社)で学んだ。

問題4 会議のルールをつくってみよう
解答と解説

(1)事前準備なしで会議をやるとこうなる。アイディア出しの場合、その場で提案してもらうのではなく、前もってメンバーに考えてきてもらうとよい。しかも、「考えてきてね」と言っても、考えてこない人が多いので、あらかじめアイディアを提出してもらう。それを資料にまとめたうえで、その中からどれを選ぶか、あるいはどう変更するかを議論すればよい。

(2)記録をとりながら会議をやらないとこうなる。書記を決める。書記は会議の最後に議事録をつくるのではなく、会議中にも決まったことがらをホワイトボードなどに、つねに会議参加者全員が見ることのできるような仕方で記録していく。それを見ながら議論する。

(3)どの範囲のことがらを決めればよいのか、どこから先は現場や担当者に任せるのかを決めておかないで会議をやるとこうなる。決定すべきことがらのリストを前もってシェアしておく。そのリストにないことがらは、任せる。文句を言わない。

(4)声のでかい人、弁が立つ人、押しが強い人、目上の人、議論をリードするためだけに議論する人が、いつのまにか議論を仕切るようになってしまう。これも「会議あるある」だ。こういう議論破壊者対策には、「ビブリオバトル」の発案者でもある情報工学者の谷口忠大さんが提唱する「発話権取引」が有効ではないかと思う。詳しくは『思考の教室』303~304ページを見てもらうことにして、ここでは簡単に紹介。

手順1 全員に発話権カードを何枚かずつ配る。
手順2 発言したい人は、一枚ずつ発話権カードを使って発言する、自分には発言したいことはないが、この人の意見が聞きたいという場合、他の人にカードをわたしてもよい。
手順3 手順2を繰り返した後に、すべての発話権カードを使い切ったら、議論は終了。

 このルールに基づいて議論してもらったときとそうでないときを比べると、発話権取引を導入したほうが、年長者の思い出話が減り、自分の意見にちゃんとサポートを与える論理的な発話が増えるということがわかったそうだ。

問題5 言葉で考えることと、図で考えることの違いを実感してみよう
解答と解説

 まず問題を考える前に、「文章の内容を頭に入れておこう」とか、軽く言ってくれちゃってるけど、それが難しいじゃん。このように思ってほしい。でも、ここまで付き合ってくれた人には分かっているはずだが、そういうときには、紙とペンで私たちの記憶力を増強すればいいんだ。
 というわけで、次のような人物相関図というか系図もどきというか、それを作りながら再度読むことになるはずだ。

関係図

 いったんこの図を描いてしまえば、問いに答えるのはかんたん。
(a)アンティゴネから見て、ライオスは祖父であると同時に母の前夫にあたる。
(b)ハイモンとアンティゴネはいとこ同士。ただし、ハイモンから見ると、オイディプスもいとこになるので、アンティゴネはいとこの子でもある。
(c)ハイモンとアンティゴネの間に子どもが生まれたら、その子はオイディプスの孫にあたる。ただし、アンティゴネはオイディプスの母(イオカステ)の子だから、オイディプスのきょうだいでもある。だから、アンティゴネの子はオイディプスの甥(または姪)でもある。また、オイディプスとハイモンはいとこなので、ハイモンの子はオイディプスから見ていとこの子でもある。つまり、この子は、オイディプスの孫であり、甥か姪であり、いとこの子である。
(d)クレオンから見て、エウリュディケは妻、ハイモンは息子(これはシンプル)。アンティゴネは息子の妻であるが、きょうだいのイオカステの娘であるから姪でもある。しかも、甥のオイディプスの娘であるから、甥の娘でもある。しかしだとすると、ハイモンだってクレオンの姪の夫でもあるし、甥の娘の夫でもある(うひー。ややこしい)。

練習問題編②へ続く

プロフィール
戸田山和久(とだやま・かずひさ)

1958年東京都生まれ。89年、東京大学大学院人文科学研究科単位取得退学。専攻は科学哲学。現在、名古屋大学大学院情報学研究科教授。著書に『新版 論文の教室』『科学哲学の冒険』(以上、NHKブックス)、『「科学的思考」のレッスン』『恐怖の哲学』(以上、NHK出版新書)、『論理学をつくる』『科学的実在論を擁護する』(以上、名古屋大学出版会)、『知識の哲学』(産業図書)、『哲学入門』(ちくま新書)、『教養の書』(筑摩書房)など。

関連書籍

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