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小説・エッセイ

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人気・実力を兼ね備えた執筆陣によるバラエティー豊かな作品や、著者インタビュー、近刊情報などを掲載。
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2024年3月の記事一覧

半分ずつをお互いに持ちあう――「ことぱの観察 #13〔つきあう〕」向坂くじら

詩人として、国語専門塾の代表として、数々の活動で注目をあびる向坂くじらさん。この連載では、自身の考える言葉の定義を「ことぱ」と名付け、さまざまな「ことぱ」を観察していきます。 つきあう 「わたしたちって、つきあってるってことで、いいんだよね?」  と聞いたら、 「ちがう……んじゃないか……!?」  と言われて、気まずかった。夫にである。恋人になる前のことではない。つい先月、ふたりで暮らすリビングでのことだ。「なんでじゃ」と返す。 「つきあってるだろうが。かれこれ十年経つ

ミステリーハンターとして「まだ見つけられるのを待っているふしぎがある」――昆虫・動物だけじゃない、篠原かをりの「卒業式、走って帰った」

動物作家・昆虫研究家として、さまざまなメディアに登場する篠原かをりさん。その博識さや生き物への偏愛ぶりで人気を集めていますが、この連載では「篠原かをり」にフォーカス! 忘れがたい経験や自身に影響を与えた印象深い人々、作家・研究者としての自分、プライベートとしての自分の現在とこれからなど、心のままにつづります。第8回は今月でレギュラー放送が終了する「ふしぎ発見!」のお話です。 ※第1回から読む方はこちらです。 #8 まだ見つけられるのを待っているふしぎがある 38年にわたり、

宝塚元雪組男役スターへ捧ぐ「さよなら大好きな人」――昆虫・動物だけじゃない、篠原かをりの「卒業式、走って帰った」

動物作家・昆虫研究家として、さまざまなメディアに登場する篠原かをりさん。その博識さや生き物への偏愛ぶりで人気を集めていますが、この連載では「篠原かをり」にフォーカス! 忘れがたい経験や自身に影響を与えた印象深い人々、作家・研究者としての自分、プライベートとしての自分の現在とこれからなど、心のままにつづります。第7回は先日惜しまれつつ退団した篠原さんのご贔屓のお話です。 ※第1回から読む方はこちらです。 #7 さよなら大好きな人 2月11日、贔屓が卒業した。  贔屓というのは

「日記の本番」2月 くどうれいん

小説、エッセイ、短歌、俳句とさまざまな文芸ジャンルで活躍する作家、くどうれいんさん。くどうさんの2月の「日記の練習」をもとにしたエッセイ、「日記の本番」です。 オーブンレンジということはオーブン機能もあるということなのに、日ごろ暮らしていてオーブンレンジのレンジ機能しか使っていない。バレンタインデーを前に久々にケーキでも焼いてみようかと思ったのはなかしましほさんのレシピを見たからで、バターではなく油でよいというところが魅力的だった。 義弟が夫の誕生日プレゼントとしてブレンダ

自分をいたわる日に食べる、やば焼きそば――料理と食を通して日常を考察するエッセイ「とりあえずお湯わかせ」柚木麻子

『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『マジカルグランマ』など、数々のヒット作でおなじみの小説家、柚木麻子さん。寒暖差が激しいこの時期、何もしたくない日の柚木さんの過ごし方についてです。 ※当記事は連載の第36回です。最初から読む方はこちらです。 #36 布団で過ごす一日 この日曜日は、冷たい雨が降っていた。  上手くいかないことが重なり、私はすっかり塞ぎ込んでしまった。寒暖差が激しいのも手伝って、もう何もしたくなくなってしまう。そうなると、過去の色々な嫌なことや、自分の

何にも起こらない日、おめでとう。「繰り返しの毎日に飽きないために」――料理に心が動いたあの瞬間の記録《自炊の風景》山口祐加

 自炊料理家として多方面で活躍中の山口祐加さんが、日々疑問に思っていることや、料理や他者との関わりの中でふと気づいたことや発見したことなどを、飾らず、そのままに綴った風景の記録。山口さんが自炊の片鱗に触れ、「料理に心が動いた時」はどんな瞬間か。今回は、第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を役所広司さんが受賞したことでも話題の映画「PERFECT DAYS」を観て山口さんが感じたことについてです。 ※第1回から読む方はこちらです。 #3 繰り返しの毎日に飽きないために  20

ひとりの被雇用者として、見て。――「ことぱの観察 #12〔性欲〕」向坂くじら

詩人として、国語専門塾の代表として、数々の活動で注目をあびる向坂くじらさん。この連載では、自身の考える言葉の定義を「ことぱ」と名付け、さまざまな「ことぱ」を観察していきます。 性欲 愛を見分けるために、ここまで近くをうろつくようにして考えてきた。愛のことを考えたかっただけなのに、恋のことを考え、ときめきのことを考えて、ついには欲望のことを考えなければいけなくなってしまった。前回にも書いたけれど、わたしはセックスの欲求というものがおそらく希薄で、実感としてはとても疎い。だから

QUEENが教えてくれたこと――「不安を味方にして生きる」清水研 #18 [中年期に生き方が変わる理由②]

不安、悲しみ、怒り、絶望……。人生にはさまざまな困難が降りかかります。がん患者専門の精神科医として4000人以上の患者や家族と対話してきた清水研さんが、こころに不安や困難を感じているあらゆる人に向けて、抱えている問題を乗り越え、豊かに生きるためのヒントをお伝えします。 *第1回からお読みになる方はこちらです。 #18 中年期に生き方が変わる理由② 前回に続き、人生の中年期を迎えると、なぜmustを手放すようになるのか。あるいはmustを手放す必要性が生じるのかについてお話し

mustの先にあるもの――「不安を味方にして生きる」清水研 #17 [中年期に生き方が変わる理由①]

不安、悲しみ、怒り、絶望……。人生にはさまざまな困難が降りかかります。がん患者専門の精神科医として4000人以上の患者や家族と対話してきた清水研さんが、こころに不安や困難を感じているあらゆる人に向けて、抱えている問題を乗り越え、豊かに生きるためのヒントをお伝えします。 *第1回からお読みになる方はこちらです。 #17 中年期に生き方が変わる理由① 今回は、人生の中盤を迎えると、なぜmustを手放すようになるのか。あるいはmustを手放す必要性が生じるのかについてお話ししたい

「日記の練習」2月 くどうれいん

小説、エッセイ、短歌、俳句とさまざまな文芸ジャンルで活躍する作家、くどうれいんさん。そんなくどうさんの2月の「日記の練習」です。 2月1日 モリユと仕事。大変捗る。札幌に行くためのチケットを取る。夜、21:30からもうひとがんばりしたかったのだが、きゅうっと搾り上げられるように睡魔に襲われていつ寝たか覚えていない。 2月2日 折角重い腰を上げてひとつの手続きをしに来たのに、その手続きをしてみたところ、これからしなければいけない手続きがもう4つあることが判明し窓口で項垂れた

名場面・名文句から読み解く、イギリス小説の傑作——ジェイン・オースティン『高慢と偏見』

オースティン『高慢と偏見』、ブロンテ『嵐が丘』、イシグロ『日の名残り』――。名前は知っているあの傑作小説を、名場面の優れた英文と濃密な文法解説を通してじっくり精読。斎藤兆史氏(東京大学名誉教授)と髙橋和子氏(明星大学教授)の共著による『名場面の英語で味わう イギリス小説の傑作 英文読解力をみがく10講』は、英文の裏側にある意図にまで踏み込んで解釈することで、作品をより深く味わいながら本質的な英文読解力をみがくことのできる一冊です。3月14 日に発売となる本書の刊行を記念して、

人生の楔のような料理のある幸せ。「おばあちゃんの質素なお雑煮」――料理に心が動いたあの瞬間の記録《自炊の風景》山口祐加

 自炊料理家として多方面で活躍中の山口祐加さんが、日々疑問に思っていることや、料理や他者との関わりの中でふと気づいたことや発見したことなどを、飾らず、そのままに綴った風景の記録。山口さんが自炊の片鱗に触れ、「料理に心が動いた時」はどんな瞬間か。今回は、山口さんにとっておばあさんとの思い出深い一品にまつわるお話。 #2 おばあちゃんの質素なお雑煮  私のおばあちゃんが作るお雑煮は、これ以上ないくらい質素です。好きな個数を伝えて入れてもらう餅にきれいなおだしがそそがれ、菊菜(春