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ミステリー小説や食エッセイから、小中学生向けの教養読み物まで、さまざまな興味・関心を刺激する作品を取りそろえています。
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#エッセイ

何にも起こらない日、おめでとう。「繰り返しの毎日に飽きないために」――料理に心が動いたあの瞬間の記録《自炊の風景》山口祐加

 自炊料理家として多方面で活躍中の山口祐加さんが、日々疑問に思っていることや、料理や他者との関わりの中でふと気づいたことや発見したことなどを、飾らず、そのままに綴った風景の記録。山口さんが自炊の片鱗に触れ、「料理に心が動いた時」はどんな瞬間か。今回は、第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を役所広司さんが受賞したことでも話題の映画「PERFECT DAYS」を観て山口さんが感じたことについてです。 ※第1回から読む方はこちらです。 #3 繰り返しの毎日に飽きないために  20

ひとりの被雇用者として、見て。――「ことぱの観察 #12〔性欲〕」向坂くじら

詩人として、国語専門塾の代表として、数々の活動で注目をあびる向坂くじらさん。この連載では、自身の考える言葉の定義を「ことぱ」と名付け、さまざまな「ことぱ」を観察していきます。 性欲 愛を見分けるために、ここまで近くをうろつくようにして考えてきた。愛のことを考えたかっただけなのに、恋のことを考え、ときめきのことを考えて、ついには欲望のことを考えなければいけなくなってしまった。前回にも書いたけれど、わたしはセックスの欲求というものがおそらく希薄で、実感としてはとても疎い。だから

QUEENが教えてくれたこと――「不安を味方にして生きる」清水研 #18 [中年期に生き方が変わる理由②]

不安、悲しみ、怒り、絶望……。人生にはさまざまな困難が降りかかります。がん患者専門の精神科医として4000人以上の患者や家族と対話してきた清水研さんが、こころに不安や困難を感じているあらゆる人に向けて、抱えている問題を乗り越え、豊かに生きるためのヒントをお伝えします。 *第1回からお読みになる方はこちらです。 #18 中年期に生き方が変わる理由② 前回に続き、人生の中年期を迎えると、なぜmustを手放すようになるのか。あるいはmustを手放す必要性が生じるのかについてお話し

mustの先にあるもの――「不安を味方にして生きる」清水研 #17 [中年期に生き方が変わる理由①]

不安、悲しみ、怒り、絶望……。人生にはさまざまな困難が降りかかります。がん患者専門の精神科医として4000人以上の患者や家族と対話してきた清水研さんが、こころに不安や困難を感じているあらゆる人に向けて、抱えている問題を乗り越え、豊かに生きるためのヒントをお伝えします。 *第1回からお読みになる方はこちらです。 #17 中年期に生き方が変わる理由① 今回は、人生の中盤を迎えると、なぜmustを手放すようになるのか。あるいはmustを手放す必要性が生じるのかについてお話ししたい

連載 ロジカルコミュニケーション入門――【第11回】論理的思考で神学論争に挑戦しよう!

●論理的思考の意味 本連載【第1回】「論理的思考で視野を広げよう!」では、「論理的思考」が「思考の筋道を整理して明らかにする」ことであると解説した。たとえば「男女の三角関係」のように複雑な問題であっても、思考の筋道を整理して明らかにしていく過程で、発想の幅が広がり、それまで気づかなかった新たな論点が見えてくる思考法である。  【第2回】「論理的思考で自分の価値観を見極めよう!」では、「ロジカルコミュニケーション」によって新たな論点を探し、反論にも公平に耳を傾け、最終的に自

人生の楔のような料理のある幸せ。「おばあちゃんの質素なお雑煮」――料理に心が動いたあの瞬間の記録《自炊の風景》山口祐加

 自炊料理家として多方面で活躍中の山口祐加さんが、日々疑問に思っていることや、料理や他者との関わりの中でふと気づいたことや発見したことなどを、飾らず、そのままに綴った風景の記録。山口さんが自炊の片鱗に触れ、「料理に心が動いた時」はどんな瞬間か。今回は、山口さんにとっておばあさんとの思い出深い一品にまつわるお話。 #2 おばあちゃんの質素なお雑煮  私のおばあちゃんが作るお雑煮は、これ以上ないくらい質素です。好きな個数を伝えて入れてもらう餅にきれいなおだしがそそがれ、菊菜(春

これが、セックスの欲望?――「ことぱの観察 #11〔ときめき〕」向坂くじら

詩人として、国語専門塾の代表として、数々の活動で注目をあびる向坂くじらさん。この連載では、自身の考える言葉の定義を「ことぱ」と名付け、さまざまな「ことぱ」を観察していきます。 ときめき 「ドキドキしたりしないの?」と聞かれるたびに疑問に思うのは、ある相手のことを好きなのかどうかを判別しようとするときに、どうして身体のリアクションをあてにするほかないのか、ということだ。好きになるという現象は心のなかで起きることであるはずなのに、それが身体にまで波及していなければ好きということ

原作者が尊重され、守られるように――料理と食を通して日常を考察するエッセイ「とりあえずお湯わかせ」柚木麻子

『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『マジカルグランマ』など、数々のヒット作でおなじみの小説家、柚木麻子さん。今月は、映像化の際に原作者に大きくかかる負担について、小説家であり、かつて脚本家志望だった柚木さんからの提言です。 ※当記事は連載の第35回です。最初から読む方はこちらです。 #35 映像化と原作者  テレビドラマにもなった漫画「セクシー田中さん」の原作者・芦原妃名子さんがお亡くなりになった。映像化にあたっての条件が守られず原作が改変されてしまい、それを防ぐた

「日記の本番」1月 くどうれいん

小説、エッセイ、短歌、俳句とさまざまな文芸ジャンルで活躍する作家、くどうれいんさん。くどうさんの1月の「日記の練習」をもとにしたエッセイ、「日記の本番」です。  数年前から、自分の悩みをジャンルに分けず、いま抱えている悩みのすべてを話せる相手が少なくなっていくような感覚がある。それはわたしが作家を仕事にしているからではなく、年を重ねるごとに、自分とそっくりそのまま同じような境遇の人はどんどん減っていくのだから仕方のないことだと思う。小学生の時は、結構だれとでも話が合った。毎

恋かもしれん。――「ことぱの観察 #10〔恋(後編)〕」向坂くじら

詩人として、国語専門塾の代表として、数々の活動で注目をあびる向坂くじらさん。この連載では、自身の考える言葉の定義を「ことぱ」と名付け、さまざまな「ことぱ」を観察していきます。 恋(後編) かように恋に疎いわたしだが、一度、これは恋だろうかと思ったことがある。  通っていた大学のキャンパスには、建物の裏手に一本の銀杏の木が立っていた。ふだん講義を受けたりサークル活動をしたりするときには通らない道を、さらに並木の中へ分け入ったところに、その木はある。わたしはときどきその木の足元

料理の「コツ」ってなんだろう?――料理に心が動いたあの瞬間の記録「自炊の風景」山口祐加

#1 料理の「コツ」ってなんだろう? 初めまして、自炊料理家の山口祐加です。「自炊する人を増やす」をモットーに、初心者向けの料理教室「自炊レッスン」やレシピの制作、書籍の執筆、音声配信などの活動をしています。この連載では、「料理に心が動いた時」というテーマを通じて、日々疑問に思っていることや、料理や他者との関わりの中でふと気づいたことや発見したことなどを、飾らず、そのままに綴っていきます。  いつもと同じキッチンで料理し、同じ食卓で食べていても、季節や天候、その日の気持ちによ

人見知りでも仲良くなりたい! 「来れネクストジェネレーション」――昆虫・動物だけじゃない、篠原かをりの「卒業式、走って帰った」

動物作家・昆虫研究家として、さまざまなメディアに登場する篠原かをりさん。その博識さや生き物への偏愛ぶりで人気を集めていますが、この連載では「篠原かをり」にフォーカス! 忘れがたい経験や自身に影響を与えた印象深い人々、作家・研究者としての自分、プライベートとしての自分の現在とこれからなど、心のままにつづります。第5回は人見知りな篠原さんが仲良くなりたい人のお話です。 ※第1回から読む方はこちらです。 #5 来れネクストジェネレーション 今年、私は親になる予定である。夏の初めく

「日記の練習」1月 くどうれいん

小説、エッセイ、短歌、俳句とさまざまな文芸ジャンルで活躍する作家、くどうれいんさん。そんなくどうさんの1月の「日記の練習」です。 1月1日 初詣のために夕方母と小高い山の上の神社へ行き、戻ってきたらテレビ局がみんなおなじ警報を表示していて、こたつにいる父が「津波」と言った。 ツイッター見てツイートしてこれでいいのかわからない。そわそわして3000字書いてだれにも見せない。たくさんの「祈ります」に、それは祈りをした、をしているだけではないかと思ってしまう。でもそれ以外の方法が

凍りついたこころを溶かすふたつの変化――「不安を味方にして生きる」清水研 #16 [「こうあるべき」からの解放②]

不安、悲しみ、怒り、絶望……。人生にはさまざまな困難が降りかかります。がん患者専門の精神科医として4000人以上の患者や家族と対話してきた清水研さんが、こころに不安や困難を感じているあらゆる人に向けて、抱えている問題を乗り越え、豊かに生きるためのヒントをお伝えします。 *第1回からお読みになる方はこちらです。 #16 「こうあるべき」からの解放②ふたつの変化――①怒りの感情  第15回では、カウンセリングでのやりとりと私の経験をもとに、「must(~しなくてはならない)」