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ミステリー小説や食エッセイから、小中学生向けの教養読み物まで、さまざまな興味・関心を刺激する作品を取りそろえています。
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#本がひらく

サボる哲学 リターンズ! 第4回 己を打ちすて、たのしいをとりもどす

我々はなぜ心身を消耗させながら、やりたくない仕事、クソどうでもいい仕事をし、生きるためのカネを稼ぐのか? 当たり前だと思わされてきた労働の未来から、どうすれば身体をズラせるか? 気鋭のアナキスト文人・栗原康さんの『サボる哲学』(NHK出版新書)がWEB連載としてカムバック。万国の大人たちよ、駄々をこねろ! よし、もういちど こんにちは。もう三月になりましたが、遅ればせながらあけましておめでとうございます。年明けから、とんでもないことになっておりましたが、みなさまお元気でしょ

家庭のチャーハンは「ケ」の料理。小さな変化を楽しむ(フリーランサー・稲垣えみ子) 【前編】

家電なし、ガス契約なしで、一食200円の「一汁一菜」生活を送る、元新聞記者の稲垣えみ子さん(59)。3日に一度小鍋でご飯を炊き、2日目はチャーハンだとか。それならば、とインタビューを申し込んだところ一度断られてしまった。そこには、「おいしい」を取り巻く状況への違和感があった。 ■原発事故をきっかけに、ミニマルな「一汁一菜」生活へ──チャーハンのインタビューをお願いしたところ一度断られてしまいました(笑)。 これまでの記事を拝見したら、リードに「チャーハンのことになると、人

何にも起こらない日、おめでとう。「繰り返しの毎日に飽きないために」――料理に心が動いたあの瞬間の記録《自炊の風景》山口祐加

 自炊料理家として多方面で活躍中の山口祐加さんが、日々疑問に思っていることや、料理や他者との関わりの中でふと気づいたことや発見したことなどを、飾らず、そのままに綴った風景の記録。山口さんが自炊の片鱗に触れ、「料理に心が動いた時」はどんな瞬間か。今回は、第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を役所広司さんが受賞したことでも話題の映画「PERFECT DAYS」を観て山口さんが感じたことについてです。 ※第1回から読む方はこちらです。 #3 繰り返しの毎日に飽きないために  20

ひとりの被雇用者として、見て。――「ことぱの観察 #12〔性欲〕」向坂くじら

詩人として、国語専門塾の代表として、数々の活動で注目をあびる向坂くじらさん。この連載では、自身の考える言葉の定義を「ことぱ」と名付け、さまざまな「ことぱ」を観察していきます。 性欲 愛を見分けるために、ここまで近くをうろつくようにして考えてきた。愛のことを考えたかっただけなのに、恋のことを考え、ときめきのことを考えて、ついには欲望のことを考えなければいけなくなってしまった。前回にも書いたけれど、わたしはセックスの欲求というものがおそらく希薄で、実感としてはとても疎い。だから

QUEENが教えてくれたこと――「不安を味方にして生きる」清水研 #18 [中年期に生き方が変わる理由②]

不安、悲しみ、怒り、絶望……。人生にはさまざまな困難が降りかかります。がん患者専門の精神科医として4000人以上の患者や家族と対話してきた清水研さんが、こころに不安や困難を感じているあらゆる人に向けて、抱えている問題を乗り越え、豊かに生きるためのヒントをお伝えします。 *第1回からお読みになる方はこちらです。 #18 中年期に生き方が変わる理由② 前回に続き、人生の中年期を迎えると、なぜmustを手放すようになるのか。あるいはmustを手放す必要性が生じるのかについてお話し

mustの先にあるもの――「不安を味方にして生きる」清水研 #17 [中年期に生き方が変わる理由①]

不安、悲しみ、怒り、絶望……。人生にはさまざまな困難が降りかかります。がん患者専門の精神科医として4000人以上の患者や家族と対話してきた清水研さんが、こころに不安や困難を感じているあらゆる人に向けて、抱えている問題を乗り越え、豊かに生きるためのヒントをお伝えします。 *第1回からお読みになる方はこちらです。 #17 中年期に生き方が変わる理由① 今回は、人生の中盤を迎えると、なぜmustを手放すようになるのか。あるいはmustを手放す必要性が生じるのかについてお話ししたい

「日記の練習」2月 くどうれいん

小説、エッセイ、短歌、俳句とさまざまな文芸ジャンルで活躍する作家、くどうれいんさん。そんなくどうさんの2月の「日記の練習」です。 2月1日 モリユと仕事。大変捗る。札幌に行くためのチケットを取る。夜、21:30からもうひとがんばりしたかったのだが、きゅうっと搾り上げられるように睡魔に襲われていつ寝たか覚えていない。 2月2日 折角重い腰を上げてひとつの手続きをしに来たのに、その手続きをしてみたところ、これからしなければいけない手続きがもう4つあることが判明し窓口で項垂れた

連載 ロジカルコミュニケーション入門――【第11回】論理的思考で神学論争に挑戦しよう!

●論理的思考の意味 本連載【第1回】「論理的思考で視野を広げよう!」では、「論理的思考」が「思考の筋道を整理して明らかにする」ことであると解説した。たとえば「男女の三角関係」のように複雑な問題であっても、思考の筋道を整理して明らかにしていく過程で、発想の幅が広がり、それまで気づかなかった新たな論点が見えてくる思考法である。  【第2回】「論理的思考で自分の価値観を見極めよう!」では、「ロジカルコミュニケーション」によって新たな論点を探し、反論にも公平に耳を傾け、最終的に自

人生の楔のような料理のある幸せ。「おばあちゃんの質素なお雑煮」――料理に心が動いたあの瞬間の記録《自炊の風景》山口祐加

 自炊料理家として多方面で活躍中の山口祐加さんが、日々疑問に思っていることや、料理や他者との関わりの中でふと気づいたことや発見したことなどを、飾らず、そのままに綴った風景の記録。山口さんが自炊の片鱗に触れ、「料理に心が動いた時」はどんな瞬間か。今回は、山口さんにとっておばあさんとの思い出深い一品にまつわるお話。 #2 おばあちゃんの質素なお雑煮  私のおばあちゃんが作るお雑煮は、これ以上ないくらい質素です。好きな個数を伝えて入れてもらう餅にきれいなおだしがそそがれ、菊菜(春

これが、セックスの欲望?――「ことぱの観察 #11〔ときめき〕」向坂くじら

詩人として、国語専門塾の代表として、数々の活動で注目をあびる向坂くじらさん。この連載では、自身の考える言葉の定義を「ことぱ」と名付け、さまざまな「ことぱ」を観察していきます。 ときめき 「ドキドキしたりしないの?」と聞かれるたびに疑問に思うのは、ある相手のことを好きなのかどうかを判別しようとするときに、どうして身体のリアクションをあてにするほかないのか、ということだ。好きになるという現象は心のなかで起きることであるはずなのに、それが身体にまで波及していなければ好きということ

原作者が尊重され、守られるように――料理と食を通して日常を考察するエッセイ「とりあえずお湯わかせ」柚木麻子

『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『マジカルグランマ』など、数々のヒット作でおなじみの小説家、柚木麻子さん。今月は、映像化の際に原作者に大きくかかる負担について、小説家であり、かつて脚本家志望だった柚木さんからの提言です。 ※当記事は連載の第35回です。最初から読む方はこちらです。 #35 映像化と原作者  テレビドラマにもなった漫画「セクシー田中さん」の原作者・芦原妃名子さんがお亡くなりになった。映像化にあたっての条件が守られず原作が改変されてしまい、それを防ぐた

「日記の本番」1月 くどうれいん

小説、エッセイ、短歌、俳句とさまざまな文芸ジャンルで活躍する作家、くどうれいんさん。くどうさんの1月の「日記の練習」をもとにしたエッセイ、「日記の本番」です。  数年前から、自分の悩みをジャンルに分けず、いま抱えている悩みのすべてを話せる相手が少なくなっていくような感覚がある。それはわたしが作家を仕事にしているからではなく、年を重ねるごとに、自分とそっくりそのまま同じような境遇の人はどんどん減っていくのだから仕方のないことだと思う。小学生の時は、結構だれとでも話が合った。毎

進化を求められない「一番いいポジション」にいるのがチャーハン(大衆食ライター・刈部山本) 【後編】

「おいしいチャーハンはしっとり」とTBS系「マツコの知らない世界」で、パラパラブームに一石を投じた大衆食ライターの刈部山本さん(48/ 前編)。チャーハン好きの一方、ラーメンの著書もあります。「ラーメンとチャーハンの違い」や「話題を呼んだミニコミ」について伺います。 ■ラーメン嫌いだった子ども時代  ──山本さんは、東京ラーメンの歴史をたどった『東京ラーメン系譜学』の本を出されています。ラーメンも好きなんですか? 子どもの頃はあまり好きでなくて、ラーメンに目覚めたのは大学

恋かもしれん。――「ことぱの観察 #10〔恋(後編)〕」向坂くじら

詩人として、国語専門塾の代表として、数々の活動で注目をあびる向坂くじらさん。この連載では、自身の考える言葉の定義を「ことぱ」と名付け、さまざまな「ことぱ」を観察していきます。 恋(後編) かように恋に疎いわたしだが、一度、これは恋だろうかと思ったことがある。  通っていた大学のキャンパスには、建物の裏手に一本の銀杏の木が立っていた。ふだん講義を受けたりサークル活動をしたりするときには通らない道を、さらに並木の中へ分け入ったところに、その木はある。わたしはときどきその木の足元