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ミステリー小説や食エッセイから、小中学生向けの教養読み物まで、さまざまな興味・関心を刺激する作品を取りそろえています。
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2020年4月の記事一覧

「愛と性と存在のはなし」第8回 〔男か女に生まれることの避けられない痛み〕 赤坂真理

※連載第1回から読む方はこちら  わたしのことを話さなければならない。わたし自身の最も深い苦悩について。  わたしの苦悩と、そのいちばんの核に隠された可能性について。  その可能性について語るために、わたしはこのすべてをしている。 耐え難さと生きていくために  それは、そうすべき対話の時間だった。相手が、誠心誠意そうしてくれるのを聞いていた。驚くべき告白を、聞いていた。息をするのも忘れて。わずかな息で、わたしは空気を吸うというよりは、言葉のエッセンスを吸う。それはわたしの

中野京子「異形のものたち――絵画のなかの怪を読む 《人間以外のものとの合体(2)》」

 画家のイマジネーションの飛翔から生まれ、鑑賞者に長く熱く支持されてきた、名画の中の「異形のものたち」。  大人気「怖い絵」シリーズの作家が、そこに秘められた真実を読む。  ※当記事は連載第2回です。第1回から読む方はこちらです。 半人半馬、人面豚  太古の昔、人間は野生馬を狩っていた。食料として、また皮を得るために。やがて家畜化し、ある時、誰かが――歴史を変えた冒険家と言えよう――乗りこなせることに気づく。この画期的発見により、馬は生きたオートバイとなる。重装備で遠くまで

「鈴川絢子のママYouTuber子育てノート」

 「国内外の鉄道の魅力を広めたい」とはじめたYouTubeが、現在ではチャンネル登録者数が79万人にものぼり、人気YouTuberとして知られる鈴川絢子さん。鈴川さんの動画が人気を得ているのは、鉄道に対する造詣の深さだけではありません。  家族と一緒に大好きな鉄道をどうやって満喫するか、2児の母として日々の子育てをいかに楽しいものにするか。そんな子どもたちとの時間の過ごし方を、のびのびと前向きに伝える姿が、とくに鉄道好きの子どもたちを持つお母さんたちに支持され、ファンの心を離

インテリヤクザと被災者支援NPO法人の代表の過去とは? 情報化社会の闇を描いた長編ミステリー小説――「境界線」中山七里

 1999年4月、高校2年生に進級した五代良則の同じクラスには鵠沼駿がいた。校内で有名な札付きのワルだった五代と、クラス委員長を務める優等生の鵠沼。交わるはずのないふたりだったが、五代が暴力団の組員に襲われ瀕死の重傷を負っているところを、鵠沼が助けたことでふたりの関係性に変化が訪れようとしていた。  ※本記事は連載第8回です。 最初から読む 境界線 第8回連載第9回へ進む 連載第7回へ戻る 関連コンテンツ プロフィール 中山七里(なかやま・しちり) 1961年生ま

エッセイ「日比谷で本を売っている。」 〔赤いスカートと緑のエプロン〕新井見枝香

日比谷で働く書店員のリアルな日常、日比谷の情景、そして、本の話(第4回)。 ※最初から読む方はこちらです。  以前勤めていた書店では、制服を着て働いていた。ワイシャツだけはなぜかピンクと水色と黄色から選べたが、紺色のベストとスカートを貸与されれば、自分らしさを出す気にもならない。今日は何色のシャツを着ようかと悩んだところで、どのみち同じ色を着ている人はいるし、時には全員、店内が黄色で揃ってしまうこともある。シャツを第二ボタンまで開ければ、ただの「だらしない」人だし、ガーター

「愛と性と存在のはなし」第7回 〔最も深い苦悩を語るということ〕 赤坂真理

※連載第1回から読む方はこちら  「あなたの秘密を書いてください」  そう言われたら、あなたは何を書くだろうか。  正直になれるだろうか? 目の前の人に。  いや、  正直になれるだろうか? ほかならぬ自分に。  自分のために。    そんな課題を、2019年度、教えていた大学生の創作の課題に出した。  何年か創作の教師をして、創造性には、この課題がいちばんよかった。いちばん変容が起きた。いろいろな課題を出したけれど、いちばん厄介なのは、才能の欠如でもテクニックの欠如でも