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見えないからといって、存在していないわけじゃない。「見えないもの」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく

「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
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#9 見えないもの

 こどくは幼少のころから、妄想するのがすきだった。ここでいう「妄想」は、統合失調症の症状の「妄想」ではなく、なにかについて思いを巡らす、統合失調症ではないひともする「妄想」だ。
 たとえば、よる、みんなが寝しずまったあとに、ぬいぐるみたちがひみつのお茶会を開いているだとか。太陽は、本当は空という天井にくっついたからくりじかけのおおきな時計だとか。この折り紙で折った鶴はしゃべれないだけで、じつは感情があるだとか。とにかく、つねに、ありえないことを想像しては、ひとりでくすっとわらったりしていた。
 そのなかに、長らく妄想していたものがふたつある。
 ひとつは、イマジナリーペット。じつは、こどくはちいさなりすを飼っていたのだ。だれも知らないし、だれにも見えないけれども、そのりすはつねにこどくのこころのなかにいた。さみしいときはずっと隣にいてくれたし、たのしいときはいっしょに飛び跳ねてくれた。いつからか、こどくのもとからは去ってしまったけれども、その子はだいじなおともだちだった。
 もうひとつの、妄想。それは、こどくが見ている世界と、他人が見ている世界は、じつはまったく別のもの、という妄想だ。たとえば、こどくにとって、「赤い」と感じるものがあるとする。他人にとっても、それは「赤い」が、そのふたつの「赤」がまったく同じものだと、どうして言えるだろうか。犬と人間の見ている世界が同じではないように、人間同士でもちがうものが見えている可能性はないだろうか。
 こどくには、そういう「だれにもわからない世界」が存在していた。その世界のなかで、育まれたものはおおきいと思う。見えないからといって、存在していないわけじゃない。見えているからといって、同じものが見えているわけではないのかもしれない。
 そんな「見えない」ものたちが、こどくに影響を与えたのだろうか。こどくはいまでは、統合失調症という「見えない」病気と闘っている。

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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。

プロフィール

もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。

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