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目の前のことをむりなくがんばって、その結果だけを、たいせつにしよう。「だいすきだよ」――《こどく、と、生きる》統合失調症VTuber もりのこどく

「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続けるもりのこどくさん。高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴ったエッセイ連載です。
※#0から読む方はこちらです。


#24 だいすきだよ

 こどくの座右の銘は、長らく「為せば成る」だった。なんでもかんでも、「やればできる」、と、そう信じて疑わなかった。
 それは、こどくが全力少女で、努力さえすればなんにでもなれる、と思っていたときのはなしだ。
 こどくには、夢があった。ずっと、その夢を追いかけて、全力だった。そして、その努力は実力として、ちゃんとこどくの身に付いた。それがたのしかった。一生これをして生きてゆくのだと、当たり前のように思っていた。
 しかし、統合失調症の症状が出はじめたとき、一気にその夢がくずれていった。
 認知機能障害のせいで、なんどくりかえしても覚えられない。努力しても、身に付かない。陰性症状のせいで、練習にも行けない。陽性症状のせいで、そもそも家を出られない。
 そしてこどくは、夢を諦めた。
 そこでようやく、こどくは気が付いた。「為しても成らない」ことは、あるのだと。
 この世のなか、「為さねば成らぬ」ことは山ほどあるだろう。でも、なぜか、こどくは「為しても成らない」ことがあるとは、考えたことがなかったのだ。
 テレビで、新聞で、雑誌で、動画で、成功したひとたちは口を揃えて言う。
「わたしでもできたんだから、みんなにもできます。諦めなければ、夢はかないます」
 では、がんばってもがんばっても、夢がかなわないひとは? こどくのように、諦めざるを得なかったひとは?
 たしかに、諦めれば夢はかなわない。でも、諦めなかったからといって、夢がかなうわけではない。
 こどくはそれを知って、楽になった。
 こどくは諦めてもいいんだと、その夢はもうかなわないんだと、胸のなかに落ち着いたとき、「諦めたからかなわなかったんだ」と、ずっと罪悪感を抱えていたこどく自身に対しての後悔が、やっと、なくなったのだ。
 それから、こどくは、将来について、あまり深く考えることをやめた。とにかく目の前のことをむりなくがんばって、その結果だけを、たいせつにしよう。そう考えるようになった。
 未来のこどくは、未来のこどくで、きっと、むりなくがんばってくれるはずだから。
 夢がなくなって、こどくは、よかった。全力で、生きていたころのこどく。あのころのこどくも、もちろんだいすきだけれども、こどくは、今のこどくも、だいすきだよ。

#25へ続く
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※本連載は毎週月曜日に更新予定です。

プロフィール

もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。

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