スウェーデン人作家と日本人アーティストの共作絵本。ブランディングコピーライターの坂本和加さんが翻訳を担当!
本日10月25日、NHK出版からスウェーデン発の絵本『ヌードルたべるプードル』がいよいよ刊行されます。発売を記念しまして、訳を担当した坂本和加さんからお話をうかがいました。
──まず、編集担当者に刊行までの経緯を聞いてみましょう。この絵本とは、どこで出会ったのですか?
編集者:2022年の秋、スウェーデン大使館主催のスタディツアーに参加し、ストックホルムのエージェントオフィスを訪ねたときです。プードルの表紙に一目ぼれという感じでした。絵を描かれている方が日本人の方だと知り、さらに興味をもちました。
──当初、日本語版の版権取得には反対の意見もあったと聞きました。
編集者:はい。作品の魅力は会議のメンバーにも共有できていました。ただ、原書の英文はpoodlesとnoodlesといったように、韻が踏まれているのが特長です。英語と訳語の音が同じでないかぎり、その特長はいかすことができません。しかし、このすてきな絵本をぜひ日本の読者にも届けたいと思いまして……。営業チームとも検討した結果、巻末に原書の英文を掲載しつつ、絵は訳と一緒に楽しめるようにしました。
──そこで、ブランディングコピーライターの坂本和加さんに訳をお願いしたのですね。
編集者:そうなんです。原書の文を尊重しつつ、タカハシモグさんのポップな絵にあった印象的な訳を考えてくださる方として、坂本さんは適任だと思いました。
──坂本さん、絵本の翻訳の依頼があったとき、どのようにお感じになりましたか?
坂本:すてきな絵本に携われることに感激し、光栄なことだと思いました。「日本語の楽しさもいっしょに伝わるようにしたいですね」とすぐに返答したのを覚えています。これまで幼児番組の挿入歌の作詞を担当したり、小学生向けに言葉の楽しさを伝えたりする機会はありましたが、翻訳の経験はありませんでした。不安はありましたが、絵本のなかの短い文章ということで、チャレンジすることにしました。
──どのようにして、翻訳の作業を進められたのでしょうか。
坂本:子ども向けに書かれた英語なので、内容的には難しくはありませんが、わたしに求められているのは直訳ではありません。何度も英文を音読して絵をながめながら、試しに1文に対し、いくつかの翻訳サンプルを並べてみて、編集者さんと検討しました。そうして方向性を決めたあと、数日に1~2フレーズずつ訳しては送り、あれこれやりとりしながら少しずつ詰めていきました。「これいいね!」と思えるものもあれば、なかなかしっくりこないものもあり、数日寝かせてはもう一度考え直すといったようなことをしました。
──商品のコピーを考えるときと、絵本の文章を考えるときはちがいましたか?
坂本:コピーライターはクライアントがだれかに伝えたいことを、そのクライアントなりかわって伝えるという仕事です。そうした意味では今回の翻訳という作業も普段わたしがしている仕事と似ています。ただ、今回はすでに英語の文章がありますので、原書の世界を壊さないように努めました。通常、コピーを考える際は、商品やサービス内容を深くリサーチし、その後マーケットを大きく捉えていきます。今回も、まずは「この絵本ならではの楽しさやかわいさ」を把握したうえで、時代の空気をはらませながら言葉を選んでいきました。
──どのページがお好きですか?
坂本:どのページもものすごくかわいいですよね。特にトップのページが好きです。「おめかし」というワードは、食パンが履いているハイヒールから連想した言葉です。ふつう、チョコレートスプレッドが顔についたら「お行儀が悪い」ですが、食パンはどこかほこらしげ。「おめかし」というチャーミングな表現がぴったりです。
──どのページの訳がむずかしかったですか?
坂本:ダントツで「9」のページです。原書の英文はkitty catsとpretty hatsに韻が踏まれていて、「かわいい帽子を販売する9匹の子猫」が直訳になります。この「売る」という行為がかわいらしく、あるいはリズミカルに表現できず、検討にもっとも時間をかけました。ヒントを求めて子猫の頭の上にある帽子を数えてみたものの、なかなかいい案は浮かびません。ちなみに帽子は130個! 最終的には、小さな子どもが好きな「お店屋さんごっこ」に結びつけて、「かわいい ぼうしの おみせやさん」という文にしました。
──坂本さんは、Eテレの「いないいないばあっ!」で作詞を担当されたことがおありですね。子ども向けのコンテンツにご興味をおもちですか?
坂本:子どもたちのためにできる大人たちの仕事は「楽しくわかりやすく伝えること」だと考えています。よりよく生きるための知恵や工夫を──です。あとから歩いてくる小さな人たちの歩みがスムーズなら人間はより進歩するわけで、それは大人の役目だと思いますし、それにかかわれることは幸せです。
──プロフィールにも「日本語の楽しさを広く一般向けに伝えつづけている」とありましたが、この絵本もその一環になるでしょうか?
坂本:もちろんです! 日本語にはたくさんの数の数え方があるだけじゃなく、一つの漢字がたくさんの「読み」や「意味」を抱えています。それは“捉え方の自由さ”そのものでもあると感じます。この絵本には、数をかぞえるにとどまらない楽しさがあふれていて、まさに捉え方の自由さという意味でもひらかれています。本を読み始めの小さなお子さんが、繰り返し「読んで!」とせがむような光景が目に浮かびます。
──坂本さん、楽しいお話をありがとうございました。では、最後に編集担当者からアピールポイントを聞いて、終わりにしたいと思います。
編集者:タカハシさんの絵と坂本さんの訳を楽しんでいただいたあとは、巻末にある原書の英文、さらにはQRコードから英語版動画をお楽しみください。一粒で3度もおいしいこの絵本は、プレゼントにも最適です。また、お子さんだけでなく、大人のタカハシさんファンにも届くとよいなと思っています。坂本さん、ありがとうございました。
エマ・ヴィルケ(文)
2010年に絵本作家としてデビュー。スウェーデンにおいて権威ある「アウグスト賞」に2回ノミネートされた経験をもつ。創造的で遊び心あふれる作家としてだけでなく、詩的な物語を創作する作家としても知られる。2013年にはボローニャ児童書ブックフェアに、スウェーデンを代表する31人のアーティストの一人として参加。2017年にはスウェーデンの優れた作家に贈られる「エルサ・ベスコフ賞」を受賞。
タカハシ モグ(絵)
日本人アーティスト。ドローイング、ペインティング、彫刻、あらゆる視覚的表現において、ユーモラスで遊び心のある作品は国内外展覧会をとおし、ファンを魅了。2018年にはスウェーデン政府の招致でストックホルムにてスピーチを行う。そのほかGUCCIやSHISEIDOといったブランドとコラボレーションするなど、幅広く活動をしている。
坂本和加(さかもと・わか)(訳)
ブランディングコピーライター/クリエイティブディレクター。主な仕事に「カラダにピース」「健康にアイデアを」「行くぜ、東北。」「WAON」「イット!」などがある。Eテレ「いないいないばあっ!」で「いっこにこだっこ」の作詞を担当。NHK for School 「アッ!とメディア」には講師として出演。本業のかたわら、考えることや想像することのおもしろさ、日本語の楽しさを広く一般向けに伝えつづけている。