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運動嫌いな人たちが語る数々の「運動をしない言いわけ」にプロのフィジカルトレーナーが本気で対話したら、はたして心に響くのか?

「疲れの原因は、“動きすぎ”ではなく“動かなすぎ”」
「筋肉貯金のない40代、60歳で要介護の可能性あり」
「効率的な運動なら週1回でも効果あり」
 健康診断で運動を勧められたので通勤のときに一駅手前で降りて歩いている、という経験がある方も多いのではないでしょうか? でもそれでは、運動の負荷が低くて健康増進の効果がないどころか、「私は運動をしている」と安心してしまうことにつながっています。
 青山学院大学駅伝チームのフィジカルトレーナーを務め、数々のトップアスリートの指導をしてきた中野ジェームズ修一さんが、さまざまな“運動をしない言い訳”を口にする運動嫌いの人たちと対話したら、運動嫌いが直るのか? 当記事では、そんな素朴な疑問をもとに企画がスタートした書籍『中野ジェームズ修一×運動嫌い 〜わかっちゃいるけど、できません、続きません。』より、中野さんと客室乗務員の方々との本気の対話を全2回にわたってお送りします。

《客室乗務員編》
リフレッシュはマッサージにエステ。でも最近、それじゃまずい気もして……

*座談会参加者
キミさん(40代女性)/客室乗務員。子育てのブランクを経て、20年ぶりに復帰。今のところ運動はしていないが、腕を引き締めたいのでエクササイズに興味あり。
トモさん(40代女性)/客室乗務員として働いた後、最近まで空港で地上勤務をしていた。ピラティスに通っていたが、ぎっくり腰になってしまい、お休み中。
マツさん(40代女性)/トモさん同様、客室乗務員の後、地上勤務をしていた。パーソナルトレーニングに通っているが、マッサージとおしゃべりが中心。体重増加が悩み。
オガさん(40代女性)/元・客室乗務員。現在はかつての同僚が開いたクリニックで受付業務をしている。ぎっくり腰になったのを機にジムに通い始める。

客室乗務員は元が丈夫で元気

中野 客室乗務員の方は長時間のフライトや時差もあって、肉体的にきつい仕事という印象があります。常に乗客から見られるので、外見にも気を遣うでしょうし、いろいろなプレッシャーがあるのではないかと思います。その中で、健康維持や体調管理のためにどんな工夫をしているのか? 運動を採り入れているのか? そのあたりから聞かせてください。
キミ 私は運動をして疲れるのはあまり好きではないので、若いときはフライトを終えて東京に戻ってくると、よくサウナに行っていました。サウナと水風呂を交互に3回以上繰り返して汗をかくと、リフレッシュできるし、体重も維持できていましたからね。今はステイ先ではあかすりに行ったり、マッサージを受けることが多いです。それが楽しみで仕事をしているようなところもあります。
中野 確かに客室乗務員といえば、サウナやスパが好きというイメージがありますけど、実際にそうなんですね。
トモ 運動よりも、マッサージとかエステで体をキープするという感じですかね。現役で飛んでいるときは、運動で健康を維持しようと考えたことはなかったです。
中野 海外のホテルには必ずと言っていいほど、フィットネスクラブがありますよね。それを利用することはありますか?
オガ ジムに行くとなると、それなりに準備が必要になりますよね。トレーニングウェアやシューズをわざわざ持っていくのもちょっとおっくうで……。
中野 スーツケースに入り切らない感じですか。
オガ シューズってけっこうかさばりますよね、と言いながら、ゴルフシューズは持って行ってました(笑)。ゴルフは別物というか、太陽の下でみんなでおしゃべりしながら楽しくプレーしていると、リフレッシュできるんですよね。海外のホテルでジムに行ったことはありますけど、サウナに入ったら、タオル1枚の男性が入ってきたことがあって、ちょっと怖かったんですよ。だから、そんなに利用しなかったです。
キミ この前一緒に飛んだ若い子は、真っ暗なところでキックボクシングをやっていると言っていました。そういうのがはやっていると聞いて驚きました。
中野 ステイ先では誰にも会いたくないから、部屋に籠もって外には出ない人もいると聞いたことがあるんですが。
マツ 私も時々そうしてました。雑誌をたくさん持ち込んで、ずっとベッドから降りずに1日過ごしたり。そのほうがリラックスできるから。
キミ 最近はスーツケースに水やインスタント食品をたくさん詰め込んで、部屋に籠もる子も増えているみたいです。でも、私たちはわりと外に出ていたかな。
中野 客室乗務員やパイロットは入社するときも厳しいテストや健康診断があるわけですよね。そうすると、もともと運動をしていたり、体力に自信のある人が多いですか?
マツ 多いと思います。大学のときに運動部の主将をやっていたという人もけっこういます。
キミ 体力テストも厳しかったよね。踏み台昇降とか反復横跳びとか延々とやらされました。
マツ そうね。だから、どんくさい子はあまりいなかった。
中野 やっぱり基本的に丈夫な人たちなんですね。フライト中の緊急事態に備えて、特別なトレーニングもしているんですか?
キミ 1年に1回、必ず訓練があります。機内サービスも大事ですけど、救命・保安要員としての仕事が何より大切ですからね。
中野 テストもあるんですか?
キミ あります。それに合格しないと乗務停止になります。筆記と実技があって、筆記はすごい量を覚えなければいけないので、テストの前は1か月ぐらい必死に勉強するんです。
中野 実技はどんなことを?
キミ お客様の誘導から、緊急脱出用スライドを滑り下りるところまで、必要な動きをすべてやります。
中野 そういう訓練の中で、体力的には何がいちばん大変ですか?
キミ 緊急時の訓練よりも、普段の仕事のほうがつらいですね。荷物を棚に上げたり下ろしたりしていて、時々「あっ」とつりそうになったり。やっぱり腰かな。
マツ 機内食のトレーの出し入れとか、中腰の姿勢でやる作業も多いので、腰に負担がかかるんですよね。私は腰を痛めてコルセットをしていた時期がありました。
中野 肉体的な疲れは次のフライトまでにリカバリーできますか。それとも疲れを残したまま飛ぶ感じですか?
キミ 疲れに関しては、気持ちの切り替え方によるところも大きいと思うんですよね。運動についても同じで、「フライト自体を運動」と気持ちを切り替えて体力をつけようという人もいます。私もいろんな作業を運動のように考えて、リズムをつけてテンポよく動くようにしています。
オガ 客室乗務員には前向きな人が多いよね。そうやって仕事を運動と考えたり、着いたあとゴルフや買い物を楽しんだり。
キミ グループみんなでごはんを食べるのも楽しいし、そこから活力を得る感じ。辞めようと思えばいつでも辞められるのに、ここまで続けているということは、この仕事がやっぱり好きなんだと思う。
マツ いや、元気だから続けられているのよ。辞めた子の中には仕事は好きだけど体がついていかなかったという子もいるし、特に時差に関してはどうにもできないことがあるから。
中野 確かに時差に合わせられるかどうかは、その人の体質によるところがありますよね。
キミ 私は時差ボケがないんです。寝たいときに寝られる。
トモ 寝れば解消できるよね。
中野 じゃあ、皆さんの場合、長時間のフライトや時差でぐったりしてしまうということはそんなにないですか?
一同 そんなにはないよね。
キミ この前、韓国で3時間ぐらいしか寝ないで、ずっと買い物と食事をしていたら、仕事より疲れましたけど(苦笑)。
マツ 体力もそうだけど、気力というか、好奇心が強い人は多いですね。
オガ だから、今も元クルーとかのほうが遊びのペースが合うかも。
トモ そう、興味がたくさんあって、買い物もしたいし、おいしいものも食べに行きたいし、そのかわり運動をする時間はあまりないという感じですかね。
中野 会社側としては、皆さんが体調を崩したら大変な損失でもあるわけじゃないですか。健康維持について会社として取り組んでいることはありますか?
マツ 私たちの時代は、最初は寮生活をしなければいけなかったんです。その寮の中に、スカッシュルームとかバレーボールができる部屋があって、コーチが来て指導してくれるという日もありましたね。やっている人はあんまりいなかったですけど、そういう福利厚生は整っていたほうだと思います。
トモ 定期的にメディカルチェックを受けるようにと会社から言われていましたけど、いちばん言われたのは自己管理を徹底しなさいということですね。体の具合が悪くて飛べなければ、それは自分の責任。だから、とにかく大切なのは自己管理だと。その意識はすごく植えつけられました。
中野 会社にもっとこういうことをしてほしいという希望はありますか?
キミ 体調管理に関しては特にないかな。今は会社の中にマッサージルームもあって、時間制ですけど無料で使えますし、カウンセリングも受けられますから。
トモ 健康維持というと、運動よりもやっぱりリラクゼーションのほうに行きますね。

「エビデンス」の噓

中野 先ほどサウナの話が出ましたけど、私はサウナについては以前から不思議に思っているんです。暑い部屋でただじっとして汗をかくのって、疲れるだけじゃないですか。
トモ 代謝がよくなって、悪いものが出ている気はしますよね。だから、今ホットヨガも人気があるんだと思います。
中野 ホットヨガで何が出ると思いますか?
トモ 汗です。私は普段あまり汗をかかないので、汗をかける場所があるのはいいなと思って、通っていた時期があります。走ったりして汗をかくのはちょっとイヤなんですよ。スタジオでたくさん汗をかいて、そのあとすぐシャワーを浴びて帰ってくる。そうすると気持ちいいし、やった気になるんです。
マツ 痩せられるんじゃないかという期待感もあります。
中野 でも、痩せないんですよね。水分が出ただけで体脂肪は減っていないので。
トモ 私の場合、ホットヨガは純粋に汗をかくのが気持ちいいから行っていたので、それにお金を払ってもいいかなと思っていたんです。でも、筋肉がつくとは思わなかったので、途中からピラティスにしました。ピラティスをやっている友達に、「年をとったらお金より、友達より、筋肉だよ」と言われて(笑)。
中野 いいお友達ですね(笑)。正しい選択です。でも、その前は筋肉をつけようとは思わなかったんですね?
トモ 思わなかったですね。昔は、筋トレとかは特別な人がやるものという感じがしたから。
キミ 私は息子がアメフトを始めて、この数か月で体がかなり変わるのを実際に見てきたんですよ。ジムに通って、栄養指導も受けて、そのとおりにやっていると確実に変わっていくんですよね。驚きました。
中野 それを見て、自分もやってみたいと思いましたか?
キミ そんなにたくさん筋肉はつけたくないですけど、少しつけてきれいに痩せたいというのはあります。
マツ 私は年をとってきて、腰痛やいろいろ問題が増えてきて、本当に筋肉をつけないとまずいなと感じてます。楽して筋肉をつけたいと思って、「貼っているだけで腹筋がつくグッズ」を何年も前に買ったんです。寝ている間に何とかならないかなと期待して。
中野 あれではつかないんですけどね(苦笑)。
キミ サイボーグみたいな器具を着けてやるトレーニング、あれはどうですか? 息子が一度やったんですけど。
中野 ものすごく低筋力になっている人であれば、もしかしたら効果はあるかもしれません。でも、日常生活を普通に送れている人の場合は、筋肉はつかないでしょうね。もしああいうものが本当に効果的なら、保険適用になって医療やリハビリの現場でも積極的に使われるはずですが、そうなっていませんよね。皆さん、美や健康への意識が高いので、そういう機械が気になるのだと思いますが、疑ってみるということはないですか?
キミ 若い頃は雑誌で紹介されていたり、巷でいいといわれているものには、疑問も抱かずに飛びついていましたけど、最近ちょっと疑うようになりました。医学的・科学的に実証されていないものは怪しいなと。今はSNSもあるし、「テレビでいいといわれているけど、本当はこうですよ」とか、いろいろ情報が手に入るじゃないですか。痩せたければ走るより筋肉をつけたほうがいいとか、炭水化物をカットするのがはやっているけれど、やりすぎは危険だとか。
中野 たくさんある情報の中から、「これをやってみよう」と選ぶときのポイントは何ですか?
マツ 本当に効果がありそうで、自分にもできそうな都合のいいものですかね(笑)。特に「こういう実験結果が出てます」というデータが載っているものは信用できる気がします。
中野 ただ、ああいうデータにはいい加減なものも多いんです。「海外の何とか大学でこういう研究結果が出た」と書いてあっても、その大学に許可を取っていないこともあったり、誰がどのように研究したか、ちゃんと説明してあるものも少ない。本に引用されているデータも、誰かが元の論文に照らし合わせて裏をとっているかというと、行われていないということもあるようです。調べてみたら、本来2000人レベルで実験しなければエビデンスとはいえないにもかかわらず、4人でしか試していないというようなお粗末な研究もあります。うそではないかもしれないけれど、とても真実とはいえない。日本の場合、そういう本が平気で出版されてしまっているという問題があります。
マツ そんなにひどいんですか!?
中野 残念ながら、医学博士と名乗っている人たちの中にも、そういうことをしている人がいるそうです。テレビに出てとんでもないことを言っている人もいますが、それで医学博士の資格が剝奪されるわけではないので、何でもできてしまうんですよね。もちろん業界内では問題になっていて、学会へ出入りしにくくなっているドクターもいます。でも、その人たちは世間的には有名な人だったりするので、一般の人はどうしても信じてしまうのです。
マツ そういう情報にだまされないためにはどうしたらいいんですか?
中野 そこが難しいんですよね。私たちは自分の所属している学会や、専門家向けのサイトで情報を精査しますが、一般の方はそこまでできないですから、信用できる著者を見つけるしかないかもしれません。私自身も、栄養系だったらこの先生、心臓系だったらこの先生というふうに決めて、その他の専門家については本も見ないし、講演も聞かないというふうにしています。

〔4月21日公開予定の後編へつづく〕

プロフィール

中野ジェームズ修一(なかの・じぇーむず・しゅういち)
1971 年生まれ。フィジカルトレーナー、米国スポーツ医学会認定運動生理学士。日本では数少ない、メンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナー。トップアスリートから一般人まで数多くのクライアントを持つ。2014 年から青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。東京・神楽坂の会員制パーソナルトレーニング施設で技術責任者を務める。『世界一伸びるストレッチ』(サンマーク出版)、『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経BP)、『“ ものすごく” 体が硬い人のための柔軟講座』(NHK 出版)など著書も多数。

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