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加速する異常気象とコロナ。生態系を痛めつけた人間がやるべきこと――『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』をいまこそ読んでほしい理由

 2020年3月発売の『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』(デイビッド・ウォレス・ウェルズ、藤井留美訳)。「今世紀末までに世界の多くの地域が居住不可能」「平均気温が4℃上昇すると100以上の都市が浸水する」など、気候変動をめぐる数々の衝撃的な事実をまとめた本書は、発売以来大きな話題となっています。
 よりどころのない不安を抱えるいまこそ手にとっていただきたいという想いをこめて、担当編集者が本書の内容についてご紹介します。

いま何が起きているのか?

 頻発するゲリラ豪雨に猛暑を超えた酷暑の夏。大規模な山火事や洪水がもたらす甚大な被害の数々……。「こんな異常気象や自然災害は、昔はなかった」と、気候変動を誰もが実感しているのではないでしょうか?
 新型コロナウイルスのために目をそらされがちですが、人類はかつてない気候変動の脅威にさらされています。本書の著者デイビッド・ウォレス・ウェルズは、21世紀は気候変動と温暖化に支配される時代と言います。私たちはその只中で生きていかなくてはなりません。気候変動という「強敵」について理解し、指針とすべき知識を学べるのが本書です。

 本書は「気候変動の実態は思った以上に深刻だ」と始まりますが、その一文が内容を象徴的に表しています。
 本書の原著は2019年の刊行直後から英米でベストセラーとなり、多くのメディアでその年のベストブックに選ばれるなど大反響を呼びました。日本版の『地球に住めなくなる日』もドキッとするような書名ですが、原題も直訳すると「人の住めない地球」というセンセーショナルなものです。

 内容的にも「温暖化が進むと、世界の一部をのぞいて住む場所がなくなる」「平均気温2℃の上昇で死者が1億5000万人増加」といった衝撃的な事実がまとめられています。膨大な調査や科学的データをもとに、気候変動によって世界でいま何が起きているのか、私たちの生活はどう変わるのかについて具体的にわかりやすく解説しているのが最大の特徴です。
 どれほど地球が危機的状況にあるのか、本書では次のように述べられています。

 地球上では、過去に大量絶滅が5度起きていて、そのたびに主要な動物が完全に入れかわり、進化がリセットされた。恐竜の絶滅は例外として、それ以外の大量絶滅には、温室効果ガスが引きおこした気候変動が関わっていた。
 私たちはいま、大量絶滅のときの少なくとも10倍の勢いで二酸化炭素を出している。産業革命以前にくらべると100倍だ。すでに大気中の二酸化炭素は、過去80万年、いや1500万年で最も高いレベルになっている。
 産業革命の開始から積みあがってきた道徳的・経済的なツケを、何百年もあとで自分たちが払わされている――多くの人は地球温暖化をそうとらえている。だが化石燃料を燃やして大気中に放出された二酸化炭素は、この30年に発生したものが半分以上を占める。
 つまり地球の運命を揺るがし、人間の生命と文明の維持をあやうくさせているのは過去のどの時代でもなく、いま生きている私たちのしわざということだ。

 地球温暖化は遠い未来のことと思われる場合も多いですが、現状の二酸化炭素排出ペースであれば、早ければ2030年に平均気温が1.5℃上昇するとされています。誰にとっても他人事ではなく、私たち全員が関係者と言えます。2050年までに、気候変動による難民が2億人となり、10億人以上が貧困にあえぐという予測もあります。
 さらに、今世紀末までに平均気温が4℃上昇するという予測も現実味を帯びてきています。そうなると本書で述べられているように「アフリカ大陸、オーストラリアとアメリカ、南米のパタゴニアより北、アジアのシベリアより南」は、高温と砂漠化、洪水で住めなくなり、まさに「地球に住めなくなる日」がきてしまうのです。

 生命科学者の仲野徹さんは、「2050年頃、地球温暖化と人口減少によるダメージは新型コロナウイルスどころではないはず」とツイートしています。

 人類にとって温暖化は、それほど重要で逼迫した問題なのです。

気候変動がウイルスを変える

 温暖化と聞くと海面上昇をイメージしがちですが、気候変動はさまざまな影響をもたらします。本書ではおもな12の影響を取りあげていますが、そのひとつであるグローバル化する感染症について、以下のように言及しています。

 疫学研究者が憂慮するのは昔の病気の復活よりも、むしろいまある病気が場所を変えたり、変質したり、再進化することだ。地球温暖化で生態系がひっかきまわされると、病原体は防護壁をやすやすと乗りこえる。たとえば蚊が媒介する感染症は、いまはまだ熱帯地域に限定されている。しかし温暖化のせいで、熱帯域は10年に50キロメートル弱の勢いで拡大している。

 音楽評論家・作詞家の湯川れい子さんは、本書について「冷静に環境学者や新聞のデータを集めた本。このまま温暖化が進むと、感染症もグローバル化するという。重要な視点だ」とTwitterでコメントしています。

湯川さんキャプチャー修正

 さらに、ウイルスの突然変異や過去に経験のない感染症の可能性も著者は指摘。また地球上でまだ発見されていないウイルスは100万種を超えるとも言います。気候変動がウイルスに対してどんな影響を与えるかは解明されていませんが、たしかなのは暑い地域ほどウイルスは活発になるということなのです。

存在をゆるがす危機

 上にあげた「グローバル化する感染症」以外でも、熱波、飢餓、洪水、山火事、大気汚染、経済破綻など、気候変動によるさまざまな脅威を多角的にとらえているのも本書の特徴です。これほどのことが気候変動によりもたらされるのかと、個人的にも衝撃でした。
 予測の一例をあげれば、いま夏の最高気温が35℃に達する都市は世界に354か所ありますが、このままの二酸化炭素排出ペースであれば、2050年にはそれが970か所に増え、生命に関わる暑さにさらされる人は8倍の16憶人になります。

 日本においてはどうでしょうか? 江守正多氏(国立環境研究所地球環境研究センター副センター長)は、本書の巻末解説で次のように説明しています。

 日本は海に囲まれているので、陸上のなかでは、比較的、温度上昇は穏やかでしょう。ただし、都市においては、さらにヒートアイランド現象が重なります。たとえば、東京都心ではヒートアイランドだけでも、すでに2℃くらい温度が上昇しています。2010年や2018年の猛暑で日本も年間1500人を超える熱中症の死者がすでに出ていますが、温暖化が進めば2050年頃の日本では年間5000人を超える熱関連死亡が起きうると予測されています。
 平均気温が4℃上昇すると約1メートル、世界平均の海面水位が上昇すると予測されます。1メートルの海面上昇があると、護岸の状況にもよりますが、日本でも東京や大阪などの大都市をはじめ、沿岸部の多くの都市が高潮などの水害に見舞われます。特に低い平地で人口と資産が集中している地域が問題になるでしょう。

 解説のなかで江守氏は「世界平均気温の上昇という場合は、国や地域に関係なく、海も陸も全部を含めて地球表面全体で平均していること」であると注意をうながしていますが、気候変動の影響をまぬがれる地域はないことを改めて実感します。

「いま何が起きているのか?」の項で「平均気温2℃の上昇で死者が1億5000万人増加」についてあげましたが、本書では、わずか0.5℃のちがいで影響が大きく変わることについてもふれられています。

 2018年、専門誌ネイチャー・クライメート・チェンジに発表された研究が、温暖化が1.5℃か2℃かで、被害がどう変わるかを割りだしている。それによると、わずか0.5℃のちがいで、大気汚染による死者が1億5000万人以上増えるという。同年、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した試算では、その数は数億人に増えた。
 1億5000万人というとホロコースト25回に相当する。歴史上最も多くの犠牲者を生んだ第二次世界大戦全体の死者と比較しても、2倍以上である。気候変動が「存在をゆるがす危機」と呼ばれるのはこういう理由によるだろう。

 戦慄をおぼえる事実ですが、逆に言えば、平均気温上昇を1.5℃に抑えられれば気候変動により深刻な影響を受ける人数を数億減らすことができる――そこに希望を見出すこともできるのではないでしょうか?

人間の力はなによりも強い

 気候変動の問題は最重要事項であり、一人の例外もなく、私たちの生活は気候変動に支配されると著者は言います。このままでは未来の地球は「いまとは違う場所」になる、だから自分たちの世代で食い止めなくてはならないと。
 では私たちに何ができるでしょうか? ひとりひとりが正しく行動するために「気候変動によって何が起きるのか」を知ることの大切さを、著者は繰りかえし訴えかけています。どんなに困難に見えても人類には打ち勝つ力がある、本書で描かれている戦慄の未来も、それは「団結して行動せよという号令」として受けとめるべきだと言うのです。

 フリーライターの永江朗さんは、本書についてこのようなコメントをしています。
「現状の気候変動の原因となった“この30年のツケ”ならなんとかなる。本書は、絶望の本ではなく希望の本として読める」NHK「ラジオ深夜便」(2020/4/19放送)

気候問題は複雑で不確かなものですが、環境の変化は私たちの行動の結果です。温暖化を避けることはできなくても、行動しだいで最悪の事態は避けられます。絶望の現実を描くことで希望の未来につながる――それが本書にこめられたメッセージであり、より良い未来を形づくる行動を選択する一助となることを心より願っています。

*記事中に使用した本書からの引用は、一部を編集しています。

プロフィール
デイビッド・ウォレス・ウェルズ(David Wallace-Wells)

アメリカのシンクタンク〈新米国研究機構〉ナショナル・フェロー。ニューヨーク・マガジン副編集長。パリ・レヴュー誌元副編集長。2017年7月、気候変動の最悪の予測を明らかにした特集記事The Uninhabitable Earthをニューヨーク・マガジンに発表、同誌史上最高の閲覧数を獲得した。2019年、記事と同タイトルの書籍(邦題『地球に住めなくなる日―「気候崩壊」の避けられない真実』NHK出版)を上梓。ニューヨーク・タイムズ、サンデー・タイムズ両紙のベストセラーリストにランクインするなど世界で大反響を呼んだ。「ニューヨーク・タイムズ紙、2019年ベストブック100」選出。ニューヨーク在住。

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ⓒBeowulf Sheehan

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