見出し画像

大河ドラマ「麒麟がくる」放送再開目前! いま改めて復習したいファンは必読、主演・長谷川博己インタビュー全文紹介

 待ちに待ったNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の放送が、2020年8月30日(日)より再開! 新たなキャラクターも続々登場する中、明智光秀の麒麟探しが再び始まります。 混沌とした世の中に、“麒麟”を連れてくるのは一体誰なのか……。
 当記事では、『NHK大河ドラマ・ガイド 麒麟がくる 後編』より、主演を務める長谷川博己さんへのインタビューを全文お届けします。長谷川さんが思い描く光秀像とは、どのようなものなのでしょうか――。

求められているのは沈黙の芝居、そして「見る」光秀

 以前、脚本の池端俊策先生にこう言われたことがあります。「光秀のセリフは『……』という無言がとても多い。しかしその心中では感情がめまぐるしく動いている。この沈黙を演じる長谷川さんは難儀であろうと思いながら脚本を書いている」と。今改めて、光秀役に求められているのは、沈黙の芝居だと感じています。ですから、たとえセリフのないシーンでも表情の機微で胸の内が伝わるようにと演じているつもりです。その一方で、自分の胸の内を光秀自身が測りかねているところがある気がしています。この感覚は当初からずっとあり、もどかしい反面、光秀という謎めいた人物を演じる醍醐味にもなっています。
 また、光秀は沈黙の中で「見る」人だと思います。主君だった斎藤道三をはじめ、織田信長や松永久秀、さらには将軍家の人々などをじっと見て、彼らの人格を吸収し、刺激を受けていく。特に道三は、のちに知将として名をあげる光秀の礎となる存在だと思います。若い頃の光秀は裏表がないように見えますが、きっとどこかで道三の老獪さや泥臭さに影響を受け、ときとして手のひら返しも必要と学んだのではないでしょうか。
 そして光秀と向き合った武将たちは、なぜか光秀に心の内を見せ、思いの丈を語る。そうさせてしまう素質が光秀にはあるのでしょうね。ただ、主役の光秀が狂言回しのように見えてはいけないと思っています。人を惹きつけ、人に語らせる人間味だけでなく、どこか飛び越えないといけない。ステレオタイプな人物造形とは違うアプローチをしていかねば、と。それは言葉で説明できるものではなく、演じていく過程の中で突破口が見出せるものと信じています。
 「長良川の戦い」では、光秀は道三方につきました。幼なじみでともに学んできた斎藤高政(義龍)と戦うのですから、思いは複雑でした。敗れた光秀は、美濃を追われて越前で暮らし始めますが、寺子屋で学問を教えはするものの、一介の牢人としてくすぶる日々だったと思います。越前を治める朝倉義景の使いとして京に赴く機会が増えてくると、情報だけは耳に入ってくる。時勢に取り残された気分は一層募ったでしょう。でも、のちのちを思うと、必ずしも無駄な日々ではなく、信長のブレーンたりえる、策士としての素養を育む時期でもあった気がします。
 また、光秀は牢人の身でありながら、足利将軍家を信長に支えてもらおうと奔走するんです。光秀にとって将軍は特別な存在で、恐らく亡き父からの教育でその意識がはっきりと植えつけられていたのではないでしょうか。光秀が心を通わせた足利義輝は無念にも討たれてしまい、義輝の弟・義昭が朝倉家を頼ったとき、光秀は義景ではなく信長を頼るようにと義昭に進言します。信長と義景、それぞれの国づくりの考え方や人としての器を比較したとき、信長のほうに可能性を感じたのかもしれません。いずれにしても将軍家と信長との間で奔走する光秀は見どころになっていくと思います。

画像2

画像3

脚本を丹念に追い、謎めいた光秀の人物像を浮き彫りにしたい

 中盤以降は、光秀の名が史料にのぼる時代が描かれていきます。史料を調べると、光秀を悪く言う家臣は見当たりませんし、最後の「山崎の合戦」でも、家臣たちは光秀のために劣勢明らかな戦を戦い抜いています。また光秀は家族から愛され、親族間で争った形跡もない。才覚だけでなく思いやりのある人物だったから、近しい人々に慕われたのだと想像しています。また、駒、望月東庵、菊丸、伊呂波太夫など〝庶民〟との関わりからも光秀の人柄が分かる気がします。
 もしかすると光秀は、外面よりも〝内面〟のほうがよかったのかも。ゆくゆくは織田家臣団の一員になりますが、独自の知識や教養を身につけた光秀は、周囲から見るとどこか異質に感じられたのでは。新参者の彼に対し、いろいろな嫉妬もあったのかなと。信長を長とする競争社会では生きにくいタイプだったのかもしれません。とはいえ、私自身も先が見えていない部分が大いにあるので、池端先生の繊細な脚本を丹念に追い、謎めいた光秀の人物像を浮き彫りにしていきたいと思っています。

(『NHK大河ドラマ・ガイド 麒麟がくる 後編』より再録)

プロフィール

DSC8374_トリミング

写真=平岩 享

長谷川博己(はせがわ・ひろき)
1977年生まれ、東京都出身。文学座附属演劇研究所に入所し、2002年に「BENT」で初舞台。以降、テレビや映画で活躍中。主な出演作に、ドラマ「家政婦のミタ」「運命の人」「MOZU」「デート~恋とはどんなものかしら~」「小さな巨人」、映画「シン・ゴジラ」「半世界」「サムライマラソン」など。NHKでは、連続テレビ小説「まんぷく」、「セカンドバージン」「夏目漱石の妻」「獄門島」など。大河ドラマ「八重の桜」では主人公の最初の夫・川崎尚之助役を熱演。

*NHK出版「大河ドラマ・ガイド 麒麟がくる」公式Twitterはこちら

関連書籍

関連コンテンツ

※「本がひらく」公式Twitterでは更新情報などを随時発信中です。ぜひこちらもチェックしてみてください!