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宮島未奈『モモヘイ日和』第9回「ひまわりさんの謎」

24年本屋大賞受賞作『成瀬は天下を取りにいく』の作者・宮島未奈さんの新作小説が「基礎英語」テキストにて好評連載中です。「本がひらく」では「基礎英語」テキスト発売日に合わせ、最新話のひとつ前のストーリーを公開いたします。
とある地方都市・白雪町を舞台に、フツーの中学生・エリカたちが巻き起こすドタバタ&ほっこり青春劇!

前回までのあらすじ
「モモヘイ」のマスコットキャラは、圧倒的な画力を誇るアカウント“ ひまわり”さんのイラストに満場一致で決定。百平とトイプードルの魅力をあわせもつキャラに一同大喜び。いっぽう、“ ひまわり”さんのイラストにどこか引っかかるエリカであった。

 ひまわりさんがSNS に投稿しているイラストは、アニメの登場人物やマスコットキャラクターなどさまざまだ。その中に、しらゆき図書館やその橋など白雪町の風景をリアルに描いたものがあった。これって、美術室に貼ってあった絵に似てる……。
 「すごーい、どれも上手だね」
 ミサトは何も気付かず褒めてるみたいだし、わたしの勘違いかな。でもちょっと聞いてみよう。
 「ミサト、これって、メイサちゃんの絵じゃない?」
 わたしが聞くと、ミサトは「えっ?」と言いながらタブレットに顔を近づけた。
 「あぁっ、たしかに!」

 極めつけは、4月下旬に投稿された白雪公園の絵だった。菜の花畑にたくさんちょうちょが飛んでいる。ちょうどその前日にわたしたちは遠足で白雪公園を訪れて、この景色を見ていた。
 「このローズモールの写真、わたしたちが映画を見にいってメイサを見かけた日だ!」
 「すごい、探偵みたいね」
 ミサトの発言に、みずかわさんが目を丸くする。
 「せっかくだから、このキャラクターを『白雪町をよくする会』のマスコットにするっていうのはどうだ?」
 「いいですね! 着ぐるみ作ってみますか?」
 「わしは着ないぞ」
 まわりの盛り上がりに対し、ももへいさんが怒ったように言う。
 「いや、じいちゃんがイヌの耳をつけて交通安全の旗を持つだけでいいんだよ」
 プリンスがモモヘイの話題に乗ってくれているのがうれしい。
 「まずは、わたしからひまわりさんにモモヘイを採用するというダイレクトメッセージを送っておきますね」
 水川さんがスマホを操作する。
 「こういうのはプレスリリースでアピールしたほうがいいですね」
 白雪警察署のまつおかさんが言うと、おじいさんたちが「なんだそりゃ」と反応する。
 「『白雪町をよくする会』のマスコットキャラクターが『モモヘイ』になりましたとマスコミに発信するんです。興味を持ってもらえれば、新聞やテレビに取り上げられます」
 「えっ、百平さんがテレビに出るのかい?」
 「そりゃ絶対やったほうがいいよ」
 いつもの怒り顔でテレビに出る百平さんを想像したらちょっと笑えた。
 「よかったら僕のほうでやっておきますが、どうですか? 交通安全を呼びかけるマスコットなので、警察としてもありがたいですし」
 「ふんっ、勝手にしろ」
 また百平さんの「勝手にしろ」が出た。嫌だったら怒って止めるだろうし、けっこう楽しんでるみたい。
 「テレビに出たら反響がすごいんじゃないか?」
 「百平さんが人気者になっちゃったりしてな」
 おじいさんたちが盛り上がっているのを見ると、わたしまでわくわくしてくる。
 「ひまわりさんからメッセージの返信がありました。発表するときはひまわりというペンネームで、投稿した絵は自由に使ってくださいとのことです」
 水川さんの報告に、会議室内が「わぁっ」と盛り上がった。

* * *

 翌週、授業が終わってミサトと部活に行く途中、廊下の向こうからメイサが歩いてくるのが見えた。学校だから髪はひとつ結びにしてるけど、スカートは短くて、カバンにはキーホルダーがいくつもついている。わたしは思わず目をそらし、ミサトも何も言わずにすれ違った。
 「モモヘイみたいなイラストを応募するタイプには見えないよね」
 ミサトが小声で言うので、わたしも「ほんとほんと」と小さくあいづちを打つ。

 「ていうか、ひまわりさんってほんとにメイサなのかな」
 ミサトの疑惑にはっとした。絵のタッチや、遠足で行った場所、ローズモールに行った日から推測しただけで、実は全然違うという可能性もある。
 「でも、さっきメイサちゃんのカバンに『ぴいたん』ついてたよね。ひまわりさんもぴいたんのイラスト投稿してなかった?」
 「してた!」
 ぴいたんはピンクのキャラクターで、ウサギのようなクマのような見た目が特徴だ。仲間たちと森の中で木の実を集めて暮らしている。マンガやアニメが人気で、いろんな場所でグッズを見かける。
 メイサがかわいいキャラクターを好きなら、モモヘイを描いたのも納得できる。
 「どっちにしてもメイサはわたしたちが『白雪町をよくする会』にいることを知らないし、このままそっとしておいたほうがいいかもね」
 ミサトが結論づける。わたしに話しかける勇気があったら、「モモヘイ、すごくかわいいね」って直接言いたいんだけどな。
 渡り廊下を歩いていると、今度は体育館の入口にプリンスが見えた。ミサトも気付いたようで、「どうしよう」とわたしの腕をポンポン叩く。離れた場所から見ても発光しているみたいにかっこいい。プリンスはサッカー部で、体育館に用はないはずなんだけど……。
 「いずみさん、はなおかさん!」
 プリンスに呼びかけられて、胸がきゅっとなる。何も言えなくなっているミサトを横目に、わたしは「はいっ」と返事した。
 「モモヘイの取材依頼が入ったらしくて『白雪町をよくする会』のメンバーに集まってほしいんだって。土曜日の10 時から、来れる?」
 土曜の午前中は部活だけど、けっこう重要な用事だし、休んでもいいだろうか。迷うわたしの代わりに、ミサトが「行きます!」と元気よく応える。「それじゃ、いつもと同じ白雪公民館で。よろしくね」
 プリンスはほほみながら手を振って去っていく。その様子を見ていたバスケ部の仲間たちから詳しく事情を聞かれたが、「ちょっとね」とごまかした。

* * *

 モモヘイの取材に来たのはローカルテレビ局だった。翌週水曜日の夕方、ローカルニュースで交通安全を呼びかけるご当地キャラが生まれたと紹介するらしい。水川さんはひまわりさんにも出てもらえないかメッセージを送ったけれど、断られたとのことだった。
 いつもの会議室も、テレビカメラが来ていると特別な場所みたいに思える。まずは打ち合わせをすることになり、水川さんや松岡さんが質問に答えた。
 「マスコットキャラクターを作ろうというのはどなたのアイデアですか?」
 スタッフの問いかけに、よくする会メンバーの視線がわたしに集まる。
 「あ、えっと、言い出したのはわたしですが……水川さんとミサトと、ここにいるみんなで考えました!」
 まさかわたしが取材を受ける側になるなんて。本番では質問に答えるので精一杯で、まわりからどう見えるか考える余裕はなかった。
 ニュースでモモヘイが放送される日、お父さんは朝からそわそわして、レコーダーで録画予約ができているか5回ぐらい確認してから会社に行った。お母さんも友だちや親戚にわたしがテレビに出ることを伝えたらしい。そこまで盛り上がって全然映らなかったらどうしようと不安になったけれど、わたしが話したところはばっちり使われていた。
 「中学生からお年寄りまで集まる『白雪町をよくする会』。モモヘイの今後の活躍が楽しみですね」
 スタジオのアナウンサーが笑顔で締めくくり、わたしはほっと胸をなでおろす。お母さんは「あとでお父さんとマサキにも見せなきゃ」とニコニコ顔だ。きっと百平さんも怒りながら喜んでいるに違いない。メイサも見てくれているといいなと思った。


この続きは「中学生の基礎英語レベル1」「中学生の基礎英語レベル2」「中高生の基礎英語 in English」1月号(3誌とも同内容が掲載されています)でお楽しみください。

プロフィール
宮島未奈
(みやじま・みな)
1983年静岡県生まれ。滋賀県在住。2021年「ありがとう西武大津店」で第20回「R-18文学賞」大賞・読者賞・友近賞をトリプル受賞。同作を含む『成瀬は天下を取りにいく』が大ヒット、続編『成瀬は信じた道をいく』(ともに新潮社)も発売中。元・基礎英語リスナーでもある。

イラスト・スケラッコ

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