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「置いてみたら売れた」。今どきそんな本が?! ……あるんです、本当に。--NHKブックス「名著復刊」20タイトル

 本が売れないと言われてすでに四半世紀。じゃあ本がなくなるかといえば全然そんなことはないわけで、地道に売れる本はけっこうあるのです。でも、そのことが知られているとは言えませんから、この記事ではそんな本を作っている人間の立場から、その実例をお知らせします。書店に行って本を買う人が「そういうのも、いいかな」と思ってくれることが目標です。

 「置いてみたら売れた」と、広告でよく見かけるような見出しになってしまいました。でも本当のことです。NHKブックスという「シリーズ」の本、それも数年前までに出た20タイトルです。「まだまだ読者がいるはず」と思われた本を20冊選んで、この6月に一斉に復刊(増刷)ました。そのリストを全国に配って、いくつかの書店で置いてもらうと……売れたそうなのです。

 とある大都市の、しかし中心部ではなく住宅街ちかくにある書店から「NHKブックスをこれまで置いたことがなかったが、置いてみたら売れた。潜在的なお客さんがいることがわかった」という意見が寄せられました。これを読んだとき担当者は内心「よっしゃ!」と叫んだものです。……「内心にとどめておくことはない、公開すべし」との指示が出て、このサイトへ、詳しいお知らせを上げることになりました。いまどき「置いたら売れる」ってどんな本なのか? 「シリーズ」という言葉も分かりやすく説明してみます。

 まずは、20冊を並べてみます。知っている本があるでしょうか;

『日本語の特質』
『絵画を読む』
『日本人の行動パターン』
『西行の風景』
『フェルメールの世界』
『生態系を蘇らせる』
『子どもに伝えたい〈三つの力〉』
『確率的発想法』 
『戦場の精神史』
『集中講義! 日本の現代思想』
『カント 信じるための哲学』
『天孫降臨の夢』
『文明を変えた植物たち』
『道元の思想』
『団地の空間政治学』
『自民党政治の変容』
『「自由」はいかに可能か』
『未承認国家と覇権なき世界』
『納豆の起源』
『自然・人類・文明』

 知らない本ばかり……であっても何の問題ありません。だいたい本というのは、10万部ぐらい売れないと認識されないものだと思います。ここに挙げた20点はそういう部数に至っていません。(今のところ。あと少し……というものはあります)

 上のタイトルだけ見ると、面白そう! という人も、そうでない人もいることでしょう。次に著者の名前を併記してみます;

『日本語の特質』……金田一春彦
『絵画を読む』……若桑みどり
『日本人の行動パターン』……ルース・ベネディクト
『西行の風景』……桑子敏雄
『フェルメールの世界』……小林頼子
『生態系を蘇らせる』……鷲谷いづみ
『子どもに伝えたい〈三つの力〉』……齋藤 孝
『確率的発想法』……小島寛之
『戦場の精神史』……佐伯真一
『集中講義! 日本の現代思想』……仲正昌樹
『カント 信じるための哲学』……石川輝吉
『天孫降臨の夢』……大山誠一
『文明を変えた植物たち』……酒井伸雄
『道元の思想』……頼住光子
『団地の空間政治学』……原 武史
『自民党政治の変容』……中北浩爾
『「自由」はいかに可能か』……苫野一徳
『未承認国家と覇権なき世界』……廣瀬陽子
『納豆の起源』……横山 智
『自然・人類・文明』……フリードリヒ・ハイエク+今西錦司

 どうでしょうか、著者の名前なら知っているという方は少なくないかもしれません。そうです、実力派の方々が書いているのがNHKブックスというシリーズなのです。ちなみに、当社NHK出版が「日本放送出版協会」という社名だった頃から、58年間にわたって1,273冊のタイトルを刊行してきている、「選書」と呼ばれる連続的な刊行物が、シリーズ「NHKブックス」です。

 その1,273冊目は山口健介著『ミャンマー 「民主化」を問い直す』で、その次、この8月に出る1,274冊目は大澤絢子著『「修養」の日本近代』です。

 さてこの記事は、上記の20点を復刊した「名著復刊フェア」をお知らせすることを通じて、読んだ方に「この本読んでみようかな」と思っていただくことが目標でした。以上で、その目標は達成されたのではないかと思います。よろしくお願い…

 ……失礼しました、書目と著者名を並べただけじゃダメでしょ。と、中の人に指摘されたのでもう少し書かせてください。こんどは各タイトルに、通巻番号を付けてみます。No.617は1991年、No.794は1997年、No.991は2004年、No.1184は2011年、No.1224は2014年の刊行で、そこから継続して売れています。説明文を付けます;

617 『日本語の特質』……金田一春彦
  そば屋で「もりかけ」と言ったら「かけうどん」が出てきたのはなぜ?
668 『絵画を読む』……若桑みどり
  この分野を切り開いた大家による手取り足取りの本格的入門書
794 『日本人の行動パターン』……ルース・ベネディクト
  恩と義理と自己鍛練――日本文化への洞察が今なお有効
857 『西行の風景』……桑子敏雄
  「浅く見える言葉で深い意味を表す」西行の歌、その仕掛けとは?
870 『フェルメールの世界』……小林頼子
  ブームに先鞭。画家の神話を解体し名画の背景を解き明かす労作
916 『生態系を蘇らせる』……鷲谷いづみ
  今やれば間に合うことは確実にある。時代に先んじた警告の書!
928 『子どもに伝えたい〈三つの力〉』……齋藤 孝
  「生きる力」とは具体的に何のことかを明快に伝える納得の教育論
991 『確率的発想法』……小島寛之
  世界の解像度を上げ、人生のとらえ方を一変させる「欲張りな本」
998 『戦場の精神史』……佐伯真一
  「だまし討ち」上等! 武士はずるい。ようこそ、「本当の中世」へ!
1072『集中講義! 日本の現代思想』……仲正昌樹
  なぜポストモダン思想家がみんな「左」になってしまったのか?
1137『カント 信じるための哲学』……石川輝吉
   中高生向け哲学入門書が評判になった著者の、超・カント入門!
1146『天孫降臨の夢』……大山誠一
   宗教的権威として古代天皇を利用するための「壮大な作り話」とは
1183『文明を変えた植物たち』……酒井伸雄
   食卓上の作物の歴史を楽しくたどる歴史読み物。教養の王道路線
1184『道元の思想』……頼住光子
   日本思想の最高峰『正法眼蔵』から、無常とは何かを明らかにする
1195『団地の空間政治学』……原 武史
   「政治と建築」はかくも密接。魅惑的な戦後史の語りを識者も絶賛
1217『自民党政治の変容』……中北浩爾
   政治時評に欠かせなくい著者の“自民党政権三部作”の第一作
1218『「自由」はいかに可能か』……苫野一徳
   今や超人気の哲学者が「私の哲学著作の原点」とする迫力の名著
1220『未承認国家と覇権なき世界』……廣瀬陽子
   ウクライナ情勢を見事に予測。今や知らぬ人のいない著者の力作
1223『納豆の起源』……横山 智
   地理学関係トリプル受賞! 前人未到・発酵美味の目くるめく世界
1224『自然・人類・文明』……フリードリヒ・ハイエク+今西錦司
  “仲良し対談”に飽きた現代読者へ。これが本物の知性的討論だ

全20冊の書影もご覧あれ!

 担当者と出版社の願いは、「息の長い本を掘り起こしてほしい」ということに尽きます。ここに挙げた「名著復刊」20タイトルは、分量も内容も読みごたえのあるものです。腰を据えて、骨のあるものを読むと、目に映る世界は変わります。「変わってもいいかな」と思われる方は、夏の休みに、秋の夜長に――何なら年末の休みに――読む一冊へ加えるのはいかがでしょうか。もっと言えば、1991年(31年前)の本が今も読まれ続けているのですから、「積ん読」で31年後、2054年に読んでいただくのも面白いかもしれません。
 「なんか面白い本ないかな」。そう思ったときにNHKブックスをご検討ください。これからも息の長い「定番」を刊行していきます。ご注目ください。

(NHKブックス編集部・記)

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