タレントのレシピ本から学べること――料理と食を通して日常を考察するエッセイ「とりあえずお湯わかせ」柚木麻子
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タレントのレシピ本から学べること――料理と食を通して日常を考察するエッセイ「とりあえずお湯わかせ」柚木麻子

本がひらく

『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『マジカルグランマ』など、数々のヒット作でおなじみの小説家、柚木麻子さん。今月は柚木さんがこよなく愛する、有名人のレシピ本についてです。
※当記事は連載の第13回です。最初から読む方はこちらです。


#13 有名人のレシピ本

 料理家の土井善晴先生がラッパーで料理好きで知られるスヌープ・ドッグの料理本についての書評を出した。一読して私はえ?と首をかしげた。いろいろと問題なところはあるが、一番良くないのはアメリカの食文化や人種問題はもとより、スヌープ・ドッグ本人にも土井先生が興味を持っていない点ではないか。土井先生のファンなだけにとても残念だった。
 そもそも、私は有名人が出すレシピが大好きなのだ。インスタやブログにあげられているものはもちろん、本になったらほぼどんな人のものでも購入し、実際に作ってみる。フードコーディネーターがついているのだろうが、食に関してはプロではない人のレシピというのは、人柄や本質がはっきり現れ、味わい深い。拙作『BUTTER』でも、レシピにはそれぞれの人生がにじむ、ということに触れている。
 たとえば、俳優のグウィネス・パルトロウさんのレシピは一見いかにもヘルシーできさくなのに、食材はほとんどが私の生活圏内では手に入らず、一つ一つがとても高級で、作ることが叶わなかった。グウィネスさんのオシャレなフードも扱うポップアップショップが六本木に上陸した時、親友と食べにいくまで、その味を知らずじまいだった。一連の全体バランスの不思議なちぐはぐさが、高級なせいか低カロリーでもリッチな味わいのサラダやスウィーツとともにいつまでも印象に残った。映画やゴシップ記事で知るグウィネスさんをより深く知れたような気がする。芸能人だった頃の木下優樹菜さんの『ユキナ飯。』は、彼女のあけっぴろげでパワフルな性格、中華料理店だったこともあるという実家のにぎやかな雰囲気が伝わってきた。豚の薄切りを巻いて作る酢豚、レモンたっぷりの塩焼きそばや、買ってきたとんかつをナルトと一緒にたまごでとじた母直伝のカツ丼。家族との楽しそうなグラビアからは、大勢でわいわい食べることを大切にする雰囲気、反面どんな感情でも周囲とシェアせずにはいられない、彼女の性格までもがにじみ出ていたような気がする。ローラさんのヘルシーなレシピのおかげで私は、幼い頃絵本で知った、ギーという食材を初めて口にすることになる。当時の彼女の活躍の場は国内のバラエティ番組で、天然キャラとして人気だったのだが、レシピを読むと知性や広い視野が感じられて、すっかり見方が変わった。バングラデシュにもルーツのある彼女の生い立ちはもちろん、環境や健康への意識の高さは至るところに現れていて、現在の活躍を物語っている。最近買った中で、一番印象に残っている本といえば元AKB48グループ総監督の高橋みなみさんの『たかみなの毎日食べたくなる そこそこごはん』だろうか。「そこそこでいい」「手抜きでいい」といいながら、彼女はメインと小鉢で四つは並べないと気がすまないという。いずれのレシピも野菜もタンパク質もたっぷり、ご飯によくあう味で、彼女の家族への愛情が伝わってくる。しかし、一週間作り続けた結果、私はへとへとになった。一品一品は簡単なものでも、小鉢を複数並べるとなると、洗い物が大変なことになる。結果、頑張らないといけない。「努力は必ず報われる」という総選挙の時の彼女の言葉を思い出した。一見、親しみやすい手軽そうに見えるレシピだが、たかみなの燃えるスピリットはいっこうに衰える気配がないことが感じられる名著だと思った。
 最近の有名人発のレシピの話題といえば、まさに本人の人柄やしゃべり言葉の面白さを生かしきった滝沢カレンさんがかっさらっている印象だが、私が注目しているのは、有名人の子どもたちがネットで発表している料理である。辻希美さんのお嬢さんがインスタにあげているお菓子は本格的なだけではなく、知性やセンスもにじむ、時間のかかるものばかりだ。大ファンであるともさかりえさんの息子さんが作るパスタや煮込み料理は時々、お母様のインスタで紹介されるが、美味しそうなだけではなくプレヤッサ*など珍しいものも多く、異文化への興味や視野の広さが伝わってくる。芸能界から発されるレシピは「手軽」「親しみやすい」がメインであることを考えると、どちらも新しい潮流だ。まだまだ目が離せない有名人発の料理レシピ、その魅力はやっぱり、調理を通じて本人と直に対話できる豊かさにあると思うのだ。

*レモンでマリネした鶏肉を焼いてたまねぎと煮たセネガル料理。

FIN

題字・イラスト:朝野ペコ

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ダメ出し続きの新人作家に話しかける菊池寛の銅像、自身の作品の舞台をなったホテルに再訪し、小さい子どもを連れた男性と触れ合う老作家……柚木さん初の独立短編集が好評発売中!

プロフィール
柚木麻子(ゆずき・あさこ)

1981年、東京都生まれ。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、2010年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。 2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。『ランチのアッコちゃん』『伊藤くんA to E』『BUTTER』『らんたん』など著書多数。最新短編集『ついでにジェントルメン』が発売中。

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NHK出版の書籍編集部が、多彩な執筆陣による連載小説・エッセイ、教養・ノンフィクション読み物や、朝ドラ・大河ドラマの出演者や著者インタビューなどをお届けします。新刊情報も随時更新。ときどき編集部裏話も!