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社会を変える、政治への想像力とは?――三牧聖子『Z世代のアメリカ』

NHK出版新書にて、国際政治学者である三牧聖子さんの新著『Z世代のアメリカ』が刊行されました。アメリカが世界の中で例外的な強さを誇った時代が終わり、国内外でその矛盾や欺瞞が厳しく問いなおされている中で、人口の2割を占め、社会変革の主体として注目されているアメリカのZ世代の視点から、未来のアメリカ、未来の平和を考える一冊です。本記事では刊行を記念して、本書の「はじめに」を公開します。


 アメリカは今、政治・外交・社会、さまざまな意味で転換期にある。本書はこの転換期のアメリカを、1997年から2012年の間に生まれ、今後いよいよアメリカ社会の中心となっていくZ世代の視点に注目しながら考えていく。現在アメリカの人口の2割を占めているZ世代にとって、社会の多様性はデフォルト(初期値)である。アメリカは2040年代には、非ヒスパニック系の白人がマイノリティとなり、ますます人種的に多様な社会になると見込まれている。多様化しているのは人種構成だけではない。宗教や価値観、ライフスタイル、国家観や世界認識も多様化している。

 本書がこの世代に注目する最大の理由は、この世代が、歴史的にアメリカの政治外交を特徴づけてきた「例外主義(exceptionalism)」的な観念に囚われず、新たなアイデンティティや世界との関わり方を模索する世代だからだ。第一章で詳述するが、「例外主義」とは、アメリカの比類のないパワーや道義性を誇り、アメリカを諸国家を導く存在とみなす観念のことである。こうした観念はしばしば独善的な対外行動となってあらわれ、アメリカと世界との関わり方に多くの歪みを生み出してきた。

 しかし、この観念に変化が起きている。もちろん今日でもアメリカは依然として強国で、特にその軍事力は世界でも突出している。しかしZ世代の肌感覚では、「豊かで強いアメリカ」は過去のものになりつつある。世論調査会社ギャラップの2020年の調査によれば、「アメリカ人であることを非常に誇りに思う」と回答したZ世代の若者は、他の世代より突出して低く、わずか20%だった。

 彼らが生きてきたこの20年間のアメリカを考えれば、自国への肯定感の低さは納得がいく。アメリカは、人種差別や富の格差、脆弱な社会保障など、深刻な国内問題に向き合うことなく、アフガニスタンやイラクなど、世界各地で軍事行動に乗り出し、巨額のお金を浪費して、多くの人命を犠牲にしてきた。肥大化する軍事費は社会保障費を圧迫し、教育費は高騰を続ける。格差は拡大を続け、人種差別や憎悪に基づく暴力が蔓延まんえんしている。この世代にとっては、国内に山積する問題にもがき苦しむ「弱いアメリカ」こそが現実なのである。

 しかし、若者たちは絶望しているばかりではない。この世代は、アメリカが抱える問題や、過去に行ってきた不正義を見据える強さも持っている。声をあげ、さまざまなアクションを起こして、新しいアメリカを求めている。これらの世代がアメリカ社会の中心になっていくとき、どのような新しいアメリカが生まれるだろうか。そのアメリカは、今世界が切に求めている平和に、どのように貢献する存在になるだろうか。

 もちろんよりよい未来への希望は、「アメリカのZ世代」の行動だけに託されているわけではない。より年長の私たちは、この世代からの問題提起をどのように受け止め、「Z世代のアメリカ」「Z世代の平和」に向けて、どのように協働していけるだろうか。本書は、Z世代に生まれつつある新しい認識や動きに着目しながら、未来のアメリカ、未来の平和を展望しようとするものである。

※この続きは『Z世代のアメリカ』でお楽しみください。

プロフィール
三牧 聖子(みまき・せいこ)

1981年生まれ。国際政治学者、同志社大学大学院准教授。東京大学教養学部卒業、同大学院総合文化研究科博士課程修了。米ハーバード大学日米関係プログラム・アカデミックアソシエイト、高崎経済大学准教授などを経て現職。専門はアメリカ政治外交史、平和研究。著書に『戦争違法化運動の時代』(名古屋大学出版会)、共著に『私たちが声をあげるとき――アメリカを変えた10の問い』(集英社新書)、共訳書に『リベラリズム 失われた歴史と現在』(青土社)がある。

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