様々な健康不安に加えコロナ禍に脅かされる現代人はいま、その不安にどう対処すればよいのか──。58万部突破のベストセラー著者が指南!
年を重ねると、若い頃より無理がきかなくなったり、不調が続いたり、自分の健康に不安を感じる人が多くなります。さらにいま、生活や健康がコロナ禍で脅かされている中で、私たちは、その不安とどのように向き合っていけばよいのでしょうか。
58万部突破のベストセラーNHK出版新書『脳が冴える15の習慣』の著者・築山節さん が、脳と身体の関係を見直し、私たちが抱える健康不安を乗り切るための「脳」のつくり方を、著者の実践例も紹介しながら、伝授します。
当記事は、10月10日刊行のNHK出版新書『「冴える脳」をつくる5つのステップ~ゆっくり急ぐ生き方の実践』より、その一部を抜粋してお届けします。
私たちの運動を可能にする筋肉──骨格筋は、脳からの指示によって活動します。また、運動を骨格筋に命令する神経の活動は、脳の局所血流量と比例関係にあります。つまり、私たちが筋肉を動かせば動かすほど、脳ではより豊富な血液が流れるようになっています。
「運動が脳の働きを活性化する」──この意味は、筋肉が私たちの指示通りに動き、その運動が、脳の全体の活性化に役立つということです。
具体的にみてみましょう。
「作業興奮」──散歩が脳を活性化する
まず、「作業興奮」の言葉の意味から説明します。作業興奮とは、どんな種類の仕事であれ、作業をしはじめると脳の中に興奮状態が起き、そのために脳が活発に働きはじめるということです。
誰にも 「今日はどうしても気分が乗らない」という日があると思います。でもみなさん、その気持ちは横に置いて、とにかく何かの仕事を始めましょう。すると不思議なことですが、仕事をしているうちに、最初の嫌な気持ちはどこかに行ってしまいます。
実はこれには理由があります。仕事や運動を始めて心拍数が高まってくると交感神経系の働きが活性化し︑誰でもポジティブになれるのです。これが「作業興奮」です。
「うーん、なるほど」とうなずく方、自分もそうしているという方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
私にも、「今日はどうしても気分が乗らない」という日があります。そんな日であっても、その気持ちは置いておいて、朝起きたら、とにかく何らかの仕事を始めてしまいます。
私の毎朝のシェイプアップ方法は、愛犬アンとの散歩ですが、前日の仕事の疲れが溜まっていたり、前夜遅くなってしまったときには、どうにもこうにも行きたくない日があります。
しかし、そんなときでも、愛犬ととにかく足を一歩、家の外へ踏み出すようにしています。すると、300メートル、500メートルと歩いているうちに、気持ちがいつしかポジティブになってくるのです。
気分が乗らない日、愛犬との散歩であれば、「今日は、アンとの朝の散歩、お願いします」と言って、同居する息子に頼んでもいいのです。しかしそれでは、せっかくの脳活性化法である「作業興奮」の機会を逃してしまいます。
実際、アンとの朝の散歩のあと、私の脳は、確実に活発に働きはじめています。その後、自宅を出て勤務先の北品川クリニックに着くまで、一連の作業興奮、朝のルーチンは続きます。そして、職場ではいつもの快調な毎日が始まります。
毎朝、私は、このようにして自分の脳をスタートアップし、活性化した脳をつくり出しています。
その方法は、犬の散歩でも猫と遊ぶでもラジオ体操でも、みなさんのお好きな方法でいいです。とにかく朝、身体を動かしてみてください。たった一つの朝の習慣で、脳は確実に動きはじめることができます。
筋肉は、健康のカギの一つ
「運動が、脳の活性化につながっている」──そう理解できると、毎日鍛えて筋肉の量を確保していること、いつもうまく使えるように、頑張ってスポーツの練習を行い、身体についているそれぞれの筋肉の機能を維持していることは、結果的に、脳の健康保持に役立っていると理解できると思います。
しかし、身体を構成している筋肉のそれぞれが、健康のカギの一つであることを、みなさんはあまり意識していないと思います。当たり前だと思われていることをあえて言いますが、私たちが自由に動けるのは、身体に備わった多くの筋肉があるからなのです。
最近は多くの人が、スポーツジムに通って筋肉を鍛き たえて、量と質を保つように努力されています。
私も、毎日一定量の歩行数を保つようにしています。そして、歩くときも歩行速度に気をつけ、時には急ぎ足で歩くようにしています。
みなさんの中には、社会人になっても、学生時代と同じように、スポーツに参加している方も多いのではないでしょうか?
このように普段から努めて運動をし、日常生活を過ごしていると、身体は自由に動かすことができます。いつも十分な筋肉量で、十分な筋肉の機能レベルに保つことができます。
人間は、空気から酸素を取って、食事から栄養をとって、それらをエネルギー源として身体を動かしています。もし、息切れしていたら、おなかが痛かったら、それだけでも自由に身体を動かすことはできません。
ですから、自由に動かすことのできる身体を持っているということは、健康である証明でもあります。その意味で、筋肉は健康のカギの一つと言えるのです。
最近の研究で、骨格筋の量と機能を十分に維持できている人は︑病気になりにくく、長生きする傾向にあることが明らかになってきています。
結論的な言い方をしますが、筋肉は、スポーツ選手がその能力を発揮するためだけに必要なものではなく、あらゆる年代の人たちが、毎日健康的に生活を送るためにも、極めて重要なものと考えます。
『「冴える脳」をつくる5つのステップ』【目次】
はじめに──「ゆっくり急ぐ」という生き方へ
ステップ1 健康──いつまでも元気で暮らすために
1 健康には「無関心」がいちばんの大敵
2 現代は、高齢者も健康管理に努めている
3 軽い風邪でも「油断」はしない
4 新型コロナウイルス感染症への向き合い方
ステップ2 自立──運動が脳の働きを活性化する
1 運動が脳の働きを活性化し、正常化する
2 運動と脳血流の関係は比例する
3 身体を構成する筋肉の働き
ステップ3 自律──脳と腸の関係を知る
1 自律神経の仕組みを知ろう
2 「脳腸相関」とセロトニンで考える、私たちの健康
3 腸の健康を保つには──腸内フローラの整え方
ステップ4 管理──脳の健康状態を保つ
1 疲労過多で、脳は不健康になる
2 「記憶」の限界を知ろう
3 「記録」を味方につけよう
ステップ5 対策──ゆっくり急いで「冴える脳」になる
1 「肥満」と向き合おう──ステップ1の対策
2 脳機能の活性化対策──ステップ2の対策
3 善玉菌の効率的な増やし方──ステップ3の対策
4 記録で自己表現力をつけよう──ステップ4の対策
5 私自身の対策──「安全地帯」をつくる
おわりに──「断念する、諦める」は大切なこと
了
※続きはNHK出版新書『「冴える脳」をつくる5つのステップ~ゆっくり急ぐ生き方の実践』でお楽しみください。
プロフィール
築山 節(つきやま・たかし)
1950年、愛知県生まれ。公益財団法人河野臨床医学研究所附属北品川クリニック・予防医学センター所長。医学博士。脳神経外科専門医として活躍後、脳疾患後の脳機能回復をはかる「高次脳機能外来」を開設。著書に『脳が冴える15の習慣』『脳を守る、たった1つの習慣』(NHK出版新書)など多数。
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