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スペインベスト児童書賞作品『夜明けをまつどうぶつたち』を熱帯森林保護団体代表の南研子さんにお読みいただきました。

2019年、南米アマゾンの森林で起きた大規模火災に胸を痛めたペルー出身の作家が描いた絵本の翻訳本『夜明けをまつどうぶつたち』が5月27日、NHK出版から刊行されます。発売を記念し、熱帯森林保護団体(RFJ)の代表、南研子さんのインタビュー記事をお届けします。


Q:この絵本は南さんが保護活動をされているアマゾンに生きる動物たちが主人公に描かれた絵本です。まず、お読みいただいた絵本の感想をお聞かせくださいますか。
──発売前のゲラを拝見したとき、本当にすてきな絵本だと思い編集者の方に「感動した!」とすぐに連絡しました。何しろ、絵が魅力的ですよね。黒い表紙はインパクトがあります。文章は詩的で、簡潔、とにかく語りすぎていないのがいい。スーっと心に響きました。絵本のなかには、メッセージがやや押しつけがましいと感じられるものがありますが、この絵本は決してそうではありませんでした。

アマゾンアートが飾られている事務所にて

Q:南さんは絵本に描かれている動物たちにも遭遇されているわけですね?
──はい。森林の保護活動は35年続けていて、アマゾンには2000日以上滞在しましたので、いろいろな動物に出会いました。この絵本のなかに描かれている動物はもちろん、ワニやアナコンダ、きれいな羽をもったオウム、見たことのない動物たちもたくさんいます。そういう意味でも、アマゾンは本当に貴重な場所なのです。

アマゾンで出会った迫力満点のワニ

Q:どのぺージがお好きですか。
──動物たちが、太陽が現れないのを不思議に思って探しにでかけるこのシーンかな。静寂のなかで「これから何が始まるんだろう」という緊張感があります。絵本ですから動物たちは、かわいらしく描かれていますが、実際はもっと野性味あふれていて、「こわい」と感じることもあります。ジャングルのなかでは、人間が偉いなんてことはもちろんなく、「お邪魔しています」という気持ちで遠慮がちに歩きます。深刻な森林火災を扱っているけれど、決してメッセージはネガティブではないところがいいですね。

太陽が火災の煙で隠れていることに気づかず、探しに行く動物たち
火災がおさまり、森が再生するシーン

Q:絵本から少し離れてお話をうかがいます。森林の保護活動とは、具体的にどういうことをされているのでしょう?
──森林への不法侵入者を防いだり、見回りを強化したり、現地の消防団が各集落で活動できるように資金面での支援をしています。その資金は、企業から受ける助成や個人から受ける寄付などからなりたっていて、わたしたちの活動内容はリーフレットやフェイスブックなどを使って、みなさんに共有しています。

Q:南さんにとってアマゾンとはどのような存在ですか?
──アマゾンは、いまや故郷です。支援の対象は2万人いるけれど、感覚としては親戚のおじさん、おばさんが困っている。「じゃあ、何かできることはないかしら」という感じで関わってきました。長年現地に通い続けたこともあって、近頃では集落の子どもに、「今度はいつ帰ってくるの?」と言われるようになりました。

集落の子どもたち

Q:昨今、SDGsの意識も高まり、「自然との共生」ということがうたわれますが、南さんはどうお考えですか?
──人間本位で「自然を守りましょう」というのは、少しちがうと思っています。自然との共生なんてことは、本当はできない。わたしたちにできるのは、自然への服従なのです。仮に、できることがあるとすれば、「知ること」。たとえば、スーパーで売られている安いお豆腐、あるいは鶏肉は、どこから来ていると思いますか? 大豆はブラジルから北米に送られ、加工後、日本に届くものもあります。国産ではない安価な鶏肉の多くはブラジル産です。それらは、ビジネスをする人たちが森林を伐採し、工場や農場をつくって、生産されます。静かに森に暮らしている人たちの地域に、侵入者が来ることで、火事が起き、広大な森が消滅し、多くの生物が命を奪われます。そうした事実を知ったあと、どう行動するかはその人次第。素通りをしてもいいし、ちょっと高いけれど、国産品を選ぶということもできるでしょう。残念なのは「知らない」こと。そういう意味で、この絵本をきっかけにして、なぜ世界各地で森林火災が起きているのか、親子で考える時間が生まれるといいですね。

Q:最後にうかがいます。わたしたちにできることは?
──この絵本をとおして、アマゾンのことに興味をもつ人が出てきてくれたら、それはそれでうれしいですが、森林の保護活動でなくてもいいんですよ。その前に、まずは自分の幸せを徹底的に追求する。自分が幸せではないのに、だれかを幸せにすることはできないから。とにかく気構えないこと。わたしだっておいしいものも食べたいし、好きな洋服も買いたい、旅にも行きたい。でも、片手はだれかのために空けておいて、困っている人がいれば、その片手を使って差しのべる。たとえば、独り暮らしのお年寄りがいたら夕飯の買物を手伝うとか、捨て猫を拾ってきて育てるでもいいし、飢餓を救うために募金をしてもいい。なんでもいいけれど、こういうことって片手が空いていないとできないでしょ? そのかわり、始めたことは途中でやめない。そういう精神でわたしは保護活動を続けています。継続は力なり。この絵本も多くの人に届くといいですね。

夕焼け時に水浴びをする人々

南研子(みなみ・けんこ)
特定非営利活動法人・熱帯森林保護団体(RFJ)代表。1989年、イギリスの歌手スティングのワールドツアー「アマゾンを守ろう」にスタッフとして関わったことをきっかけに、団体を立ち上げる。活動は今年で35年を迎え、アマゾンに滞在し、現地の人たちと寝食をともにした日数は2000日をこえる。著書に『アマゾン、インディオからの伝言』『アマゾン、森の精霊からの声』(ともに本の木)新刊に『アマゾンのふしぎな森へようこそ! 先住民の声に耳をすませば』(合同出版社)。2014年毎日新聞「地球未来賞」受賞。https://www.rainforestjp.com

<書誌情報>
『夜明けをまつどうぶつたち』
作者:ファビオラ・アンチョレナ/訳者:あみのまきこ
出版社:NHK出版
発売日:2024年5月27日
定価:2,090円(税込)
仕様:A4変型判上製 34ページ(オール4C)
ISBN:978-4-14-036155-9

<作品情報>
世界最大の熱帯雨林をもち、「地球の肺」と呼ばれるアマゾンで、2019年に大規模な森林火災が発生。広大な森が焼失し、多くの生きものが命を落としたことに心を痛めた作者が、動物の視点で描いた「ナラティブ・ノンフィクション絵本(事実に基づいた語り形式の作品)」。本書は、2022年スペインにおいて権威ある「コンポステーラ国際絵本賞」を受賞、スポーツ・文化庁が選ぶその年の最優秀編集図書(児童書部門)としても高く評価された。現在、スペイン国内の諸言語を含め9言語に訳されている。巻末では、著者が絵本を創作するにいたった経緯に触れつつ、世界各国で発生、頻度を増している森林火災について実情を伝え、森林保護に取り組む人々に敬意を表する。動物たちの祈りにあふれた一冊。

<帯に寄せられた上白石萌音さんのコメント>
この作品には「黒い余白」があります。動物たちのこと、木々や花々のこと、わたしたちも暮らす地球のことを、自分の目で捉えるための余白だと感じます。豊かな色彩の尊さに気づかされ、遠いアマゾンの森に心が引き寄せられました。あなたもぜひ、絵本とともに思いを馳せてみてください。
──上白石萌音

<あらすじ>
長いあいだ雨が降らないジャングルに火災が発生し、煙によって太陽の姿が動物たちから見えない。動物たちは太陽が一向に昇ってこないことを不思議に思い、太陽を探しながら森のなかを歩き続ける。やがて激しい熱さを感じ、太陽が戻ってきたと思いきや、それは彼らが「待ち望んでいた夜明け」ではなかった。動物たちは必死で逃げ惑うが、火は燃え広がり、あたりは無情にも焼き尽くされていく。その後、ぽつりぽつりと雨が降り、森には静けさが訪れる。そして、新たな姿に生まれかわった森が現れる。動物たちは祈る──。「黄色い太陽がもう二度と姿をけしませんように。赤いインコも、青いチョウも、この緑の森も、どうかなくなることがありませんように。いつまでもずっと」

<NetGalley*に寄せられたレビュー>*発売前のゲラの試し読みができる販促ツール

・黒いページから、再生のページにうつり色や空気までが戻ってきたのもわかる、見事な絵。
再生して終わり、ではなくこれから、についても考えていかねばならないことをこの絵本は訴えてきます。(教育関係者)

・動物たちの表情がとても愛しく描かれていて、作者の思いがひしひしと伝わってきました。ジャングルの、自然の描写がなんとも美しく、それがまた災害のおそろしさを強く伝えてくれます。素晴らしい絵本でした。読ませていただきありがとうございました。(レビュアー)

・読み終えた後も、炎に照らされて呆然とする動物たちの姿が目に焼き付いています。夜の黒の中に飛び交う火の粉のオレンジも恐ろしかった。どうにか逃げ延びた動物たちがたどり着いた緑豊かな森が消えませんように、と、祈らずにはいられません。この絵本が少しでも多くの人に森林火災の現状を知らせて、環境問題解決に取り組む人々への支援が広がることを願います。(図書館関係者)
 
・太陽を求めた密林の動物たちが見たもの。現実であると認めたくはないけれど、地球上の、これが現実のひとつ。破壊される大自然。どうしてそれが起きるのか? 動物たちにはわからない。我々人間にはもうわかっている。森林火災の後の自然の再生はもちろん喜ばしいことだが、それに頼りきりになってしまうのはどう考えてもおかしい。あとがきから溢れて来る地球の未来への憂慮。動物たちのまっすぐな視線をわたしたちはどう受け止めるのか。喫緊の課題が見えます。(レビュアー)

・途中までまわりはこれ以上ないほど真っ黒。そこにいる動物たちは息づかいが聞こえそう。選び抜かれた言葉は短くきっぱりと。すべてがていねいにえがかれていると思います。
実際に起こっていることなのですね。「夜明け」ってそういうことなのですね。それを知って、この絵本の制作に関わったみなさんの「熱」を感じました。(レビュアー)

<著者情報>
作:ファビオラ・アンチョレナ
1983年、ペルーのリマで生まれ、ペルーとアメリカ合衆国で育つ。大学で建築を学んだあと、イラストレーターとして⾃然をテーマにした作品づくりに取り組む。2020年からはメキシコやチリの大学で絵本製作に関するディプロマを取得。スペインの出版社から刊行された本書『ESPERANDO EL AMANECER』は、2022年スペインにおいて権威ある「コンポステーラ国際絵本賞」を受賞、スポーツ・文化庁が選ぶその年の最優秀編集図書(児童書部門)としても高く評価され、スペイン国内の諸言語を含め、現在9言語に訳されている。作品に『MI PATINETA SE ATASCO(動かなくなったスケートボード)』(2020年)『ME QUEDE ENCERRADA EN EL MUSEO(博物館にとじこめられて)』(2022年)。いずれも共著で未邦訳。

訳:あみのまきこ
1958年生まれ。上智大学、東京外国語大学大学院にてスペイン語・スペイン語文学を学ぶ。大学でスペイン語の教鞭をとりながら、スペイン語圏の児童書や昔話の研究、紹介に取り組む。縁あってペルーをたびたび訪れるうちに、その人々と文化に魅せられる。趣味はペルー料理をつくって食べること。翻訳絵本に『カピバラがやってきた』(岩崎書店、第14回ようちえん絵本大賞)、訳書に『ブニュエル、ロルカ、ダリ――果てしなき謎』(白水社、共訳)など。

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