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《寄稿》気象情報をより深く理解できれば、自分や大切な人を守れる――気象キャスター・斉田季実治

 局地的な大雨、大型台風、記録的猛暑、そして巨大地震――激甚化する自然災害に私たちはどう対処すればよいのか。NHK「ニュースウオッチ9」の人気気象キャスターであり、現在放送中の連続テレビ小説「おかえりモネ」で気象考証を担当する斉田季実治さんが、気象情報の読み方と防災の必須知識をわかりやすく解説したNHK出版新書『新・いのちを守る気象情報』が好評発売中です。刊行に寄せて、そのいきさつや本書への思いを斉田さんが綴ります。

 NHK出版新書『いのちを守る気象情報』の改訂版を出しませんか? とお話をいただいたのは昨年10月、朝の連続テレビ小説「おかえりモネ」がクランクインした直後で、気象考証の仕事がますます忙しくなってきたころでした。
「気象考証」とは、歴史ドラマの時代考証と同じように、脚本に基づいて、気象のありとあらゆることを確認していく業務です。「おかえりモネ」は気象予報士を目指す少女の奮闘を描いた、現代の物語なので、気象情報の正確さや専門的な知識にこだわって制作しています。たとえばある出来事が起こったときのドラマに登場する地域の天気は、晴れだったのか曇りだったのか、細かくリサーチします。気象キャスターという私の仕事がお役に立てるならとお引き受けしたのですが、初めての経験なので、四苦八苦していました。
 そのような慌ただしい中での依頼に、なぜこのタイミングで!? と当初は思いました。しかし、前著から8年が経ち、その間に大規模な自然災害がいくつも起こり、気象情報も大きく変わりました。そのため、みなさんに新たな情報をお伝えしなければという思いが常々あり、かつ、「おかえりモネ」で気象予報が注目される時期だからこそ、本を多くの方に読んでもらうチャンスになるし、双方を効率的に進めることもできると考えて、改訂版の執筆をお引き受けしました。
「おかえりモネ」は時代としては、東日本大震災から3年後の2014年から現代までを描いていきます。清原果耶さん演じる主人公の永浦百音は震災時に被災地となった故郷に不在で、「自分は何もできなかった」と後ろめたさを感じています。その後、「誰かのために何ができるのか」と模索する中で、天気の仕事と出会います。
 私が8年前に『いのちを守る気象情報』を書こうと思ったのも、東日本大震災がきっかけでした。自分の無力さを痛感したあのときの思いが執筆に繋がり、その思いは「おかえりモネ」の物語にも少なからず反映されています。そして、「おかえりモネ」の物語は、震災から今に至る気象災害の歴史でもあります。
 執筆に取り掛かる前にまず行ったのは、震災から10年の間に発生した、局地的な大雨や大型台風の被害、記録的な猛暑、巨大地震などのリスト化でした。そして、激甚化した自然災害に対応するようにして発展してきた気象情報の取り組みを時系列でまとめました。 
 この資料をもとに『新・いのちを守る気象情報』は前著の情報を7割以上更新して加筆を施したのですが、同時に「おかえりモネ」に出てくる気象災害や西島秀俊さん演じる気象予報士の台詞の中でも活かされています。
 ほかにも、天気予報のシーンの撮影では、西島さんに私のやり方を何度か実演し、指し棒の使い方などもお伝えしていますので、「ニュースウオッチ9」をご覧の方は、私の気象コーナーに似ていると思うかもしれません。
 本書を片手に「おかえりモネ」をご覧いただくことで、楽しんでいただけることはもちろん、より物語の背景がわかり、自然災害対策の重要性が理解できると思います。
 今年は梅雨入りが大幅に早く、すでに大雨への備えが必要になっています。梅雨の時期には、毎年のように土砂災害や河川の氾濫などの災害が発生しますので、対策を進めてください。
 日々の生活に欠かせない天気予報ですが、気象情報をより深く理解できれば、みなさんやみなさんの大切な人を守ることができます。本書が、そのために、少しでも役立つことを願っています。

写真=田中亜紀

プロフィール
斉田季実治(さいた・きみはる)

1975年、東京都生まれ。気象キャスター。現在はNHK「ニュースウオッチ9」に出演、連続テレビ小説「おかえりモネ」の気象考証を担当。著書に『いのちを守る気象情報』『知識ゼロからの異常気象入門』など。

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