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唯一無二の文人・町田康、はじめての「自分語り」! 自身の創作の原点とは。

本がひらく

 独特な文体・語法と奇想天外な物語で幅広い読者を有し、多数のヒット作を発表してきた作家・町田康。一度読んだらやみつきになる、あの唯一無二の文学世界は、いかにして生まれ、進化してきたのか。町田ファンならずとも、文芸ファンなら誰もが気になる謎について、作家自らが内面を「暴露」した注目の一冊、『私の文学史~なぜ俺はこんな人間になったのか?』

 人生初の試みという「自分語り」。幼少期から還暦を迎えた現在まで、好きだった本や作家、自身の作品解説といった文学世界はもちろん、影響を受けた民謡・浪曲・落語・ロックなどの芸能世界も取り込みながら、徹頭徹尾、町田ワールドを全開していきます。

 グルーヴに満ちた町田さんの語りは、「なんで、俺はこんな人間になってしまったのか」という問いからはじまります。


自分語りはみっともない

 今回は、全体のタイトルが「私の文学史」ということで話します。今まで、いろんなことを歌ったり、小説を書いたり、随筆、紀行を書いたり、童話みたいなものを書いたりしてきたんですが、そんな中で、自分の話というものはやったことがなかったんですね。私がどうのこうのした「私の文学遍歴」みたいな、そんな話はしたことがなかったんです。
 なんでそういうことをしなかったかというと、自分語りはみっともないという気持ちがあるからで、自分がそもそも最初から小説家だったらそんなことは思わなかったかもしれないんですが、もともと僕はロック歌手、パンク歌手みたいなことをしていて、その関係で、よく雑誌なんかに、ミュージシャンが、つまらん人生をとくとくと語るというのをよく見たんです。それを、通俗心理学みたいなので、その心理を分析して、それを作品に結びつけて意味ありげに語るといった記事です。
 もちろんそんなもの真面目に読むわけじゃないですけど、「なんか、実にくだらんな」と思って、それ以来、自分語りに対する嫌悪感というのが生じて、そんなことを常に思っていたわけじゃないんですが、忘れていたまま、ずっと心の中にあって、「自分語りなんかはバカやな」と。「おもろない、お前の人生、おもろないんじゃ、こら。おもろない人生をとくとくと語るな、アホ。聞いているお前も、なんか、はあとか言って、重要なように聞くな、ボケ」と思っていて、それでやっていなかったんです。
 でも、今回、「こんなん、どうですか」と訊かれたときに、「そういえばやっていなかったな」と思って。自分自身も、そんなことを言いながら、なんか、自己を語りたい欲求というのがあるんですね。人前では言わないけれど、人と話していて、たとえば「私、この間、パリに行ってきて、帰ってきてん」と誰かが言うたとしたら、「俺もパリ、行ったときな」と、自分の話をしたがるんですね。だから、自分の話をしたくないかといったら、したいんです、やっぱり。相手が何か言うたら、自分のことを言って、自分を相手にわかってほしいという気持ちはあるんだなということに気がついて。もう、そんなに意地張ってなくて、自分の話をとくとくと、なんの意味もないことを意味あるように言ってもええかなと。我慢するのはやめて、今回は自分の話を、延々と十二回にわたってお話ししようかなと思っているんですけど、それが役に立つか、立たないかというのは、どんなにつまらん話でも、聞いて、役に立てるのは聞いた人ですから、何かの役に立ったらええな
と思うんです。

なんで、俺はこんな人間になってしまったのか

 第一回目は、子どもの頃の文学、読書体験、こういうことになっています。子どもの頃ですから、なんと言うのですかね、何も自分で意識して小説を読むとか、こういう本を読んでみようと考えて読むというよりは、なんとなく、自然にそこらへんにあったものを手に取って読むというのがあります。
 いろいろ考えるんですがその中でもよく思うのは、「なんで、俺は、こんな人間になってしまったのかな」ということです。よほど変だったのか、そもそもがクズだったのか、途中からクズになったのか、理由があってクズになったのか、考えてもわからないんですが、でも、一つ言えるのは、とにかく、人のせいにしたいんですけど、考えてみたら、ほとんど自分のせいだということです。自分で選んでやってきたことがほとんどだから、人のせいにしたいんですけど、やっぱり、自分のせいなんです。でも、やはり人のせいにしたい。そう思って考えると、読んだ本とかで変になってもうたんちゃうかなと思いついたんです。「あ、本が悪かったんや。本をあんな読めへんかったら、こんなやつになっていなかったかもしれん」と。
 今だったら、引っ越しするといったら、だいたいはプロの引越屋の人に頼むでしょう。でも、二十~三十年前は、自分らぐらいの引っ越しやったら、荷物もそんなないし、知り合いに頼んだんです。僕も引っ越しするときにバンドのメンバーに頼んで、メンバーが五人ぐらい、どこかからトラック借りてきて、手伝いに来てくれたんです。僕は事前に、荷物を段ボールに入れたり、本は紐で縛ったりして、用意して待っていたんですが、そうしたら、みんなが途中で「本が多すぎる。普通、こんなに本はない」と言って怒りだしたんです。
 それで、「町蔵は、だから駄目なんだよ。こんな、本ばっかり読んでいるから、あいつはバカなんだよ」と言われました。そのときは内心で、「いや、そんなことはない、本を読んだら賢くなる」と思ったんですが、今となったらそうかもしれない、本のせいで俺はバカになったんだというふうにちょっと思っているところもあります。
 そこで以下、だったら、どんな本を読んで、こんな風になってしまったのかという話をしようかなと思います。

『物語日本史 2』との出会い

 小学校に通っているときは、家の近所、歩いて行ける範囲に本屋さんが四軒ぐらいありました。学校からちょっと住宅街のほうに行って、国道からちょっと一本入ったような道にポツンと一軒、横に府道があって、府道沿いの細い横に入った角にラーメン屋があって、その横の横ぐらいに、ちっちゃい本屋さんがありました。あとは、家の近所に市場があり、その市場の先に商店街があって、その商店街に三軒ほど本屋さんがありました。それぞれ特色があったのかなかったのか、その四軒のうちの一軒が上野書店という本屋で、そこへ行くときは、「ちょっと上野の図書館、行ってくるわ」と符牒ふちょうで言うて、行っていたんです。もちろん、そんな田舎町の個人書店なんか、だいたいが潰れていますけど、この間、久しぶりに通りがかったら、そのうちの一軒が、まだやっていましたね。どうしてやっていけるのかなと思いましたけど、そんなところに毎日のように通っていたんです。
 小遣いとは別に月に一回、五百円をもらいまして、それで、今月はなにをうてこましたろかな、みたいな感じで選んで読むわけです。読んでいる本は、別にそんなに変わった、難しいものを読んでいたわけじゃなくて、子どもが読んでいる、児童図書みたいな、普通の本を読んでいたんですね。だからたぶん、子どものコーナーみたいなところを見ていたと思うんですが、そこでパッと見つけたのが、今日持ってきたんですけど、これで
す、『物語日本史 2』。
「遣唐船物語」「羅城門らじょうもんと怪盗」─「羅生門らしょうもん」という映画がありますけど、これは「羅城門と怪盗」で、どんなものかというと、「2」と書いてあるように、シリーズで『物語日本史』全十巻というのがあるんですが、その第二巻だけが、なんか知らんけど、そこで売っていたんです。売っていた第二巻だけをなんで買うたんか知らんけど、「おもろそうや」と思って買うたんでしょうね。「物語」と書いてあったからかもしれませんが、それが小学校二年のときだったんです。五百五十円ですね、箱入りで。一九六七年三月二十日第一刷発行で、一九六九年十一月二十日に、出て二年ぐらいして第三刷が発行されていますから、売れていた本なんでしょうね。この第二巻だけを見つけて買ったんですが、これをものすごく気に入って読んだんです。

※続きは『私の文学史~なぜ俺はこんな人間になったのか?』でお楽しみください。

目次
第1回 本との出会い――書店で見つけた『物語日本史 2』
第2回 夢中になった作家たち――北杜夫と筒井康隆
第3回 歌手デビュー――パンクと笑いと文学
第4回 詩人として――詩の言葉とは何か
第5回 小説家の誕生――独自の文体を作ったもの
第6回 創作の背景――短編小説集『浄土』をめぐって
第7回 作家が読む文学――井伏鱒二の魅力
第8回 芸能の影響――民謡・浪曲・歌謡曲・ロック
第9回 エッセイのおもしろさ――随筆と小説のあいだ
第10回 なぜ古典に惹かれるか――言葉でつながるよろこび
第11回 古典の現代語訳に挑む
第12回 これからの日本文学

プロフィール
町田康

作家。1962年、大阪府生まれ。81年レコードデビュー。92年に詩集『供花』発表。96年「くっすん大黒」で作家デビューし、同作でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。2000年「きれぎれ」で芥川賞、01年『土間の四十八滝』で萩原朔太郎賞、02年に短編「権現の踊り子」で川端康成文学賞、05年『告白』で谷崎潤一郎賞、08年『宿屋めぐり』で野間文芸賞を受賞。近年は『宇治拾遺物語』の現代語訳や『義経記』を翻案した『ギケイキ』などにも取り組む。小社刊に、中原中也の詩に言葉を寄せた『残響』がある。

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