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最高の走りを体感せよ!――『BORN TO RUN』チームによる究極のトレーニング
楽に、軽く、スムーズに――
秘境の長距離ランナー、ララムリ(タラウマラ族)の秘密はそこにあった!
全米20万人の走りを変えた世界的ベストセラー『BORN TO RUN 走るために生まれた』。前作のスピリットが息づく待望の実践書『BORN TO RUN 2――〝走る民族″から学ぶ究極のトレーニングガイド』(クリストファー・マクドゥーガル、エリック・オートン/近藤隆文訳、NHK出版)が2025年1月27日に発売となります。
伝説の〝走る民族〞の教え、長年にわたる調査、世界各地のランナーの経験が結集。「ランを再起動する7つの柱」「革新的な食事とエクササイズ」「仕上げの90日間プログラム」、さらには故障の予防と治療まで解説した決定版ガイドブックです。
発売を記念し、本書の一部を特別公開します。*本記事は、本書から一部抜粋・再構成したものです。
「ラン・フリー」の感覚
『BORN TO RUN』が世に出てからというもの、私は世界じゅうからメッセージを受け取ってきた。多くは同じことを伝えるものだ。
「ありがとう! あなたはわたしの人生を変えてくれた」
私はこう答える。
「その気持ちはよくわかりますよ」
なぜなら私も同じ境遇(シューズ)だったからだ。いまでも同じ境遇にある――シューズはいっさい履いていないとしても。『BORN TO RUN』は山あり谷ありの冒険物語と受け止められることがあって、現に〈白馬(カバーヨ・ブランコ)〉と呼ばれる謎めいた一匹狼が50マイル〔約80キロ〕のフットレースを、伝説の民族を相手にふたつの凶悪な麻薬カルテルの鼻先で開催するあたりは、そのとおりだろう。
だが本当のところ、『BORN TO RUN』はまったく別のものだ。それは変革の物語、挫折から希望へ、やがて力へといたる上昇の物語だ。その力とはリアルな、人生を変える力。外に出て、あなた自身の2本の足で世界を探検し、どこでも、好きなだけ、気の向くままに走るパワーだ。
それがどんなスーパーパワーかを心から理解するには、一度試してみるしかなくて、試さないかぎり一生わからない。そういう人たちの声がよく届く。もう一度チャンスがあることを発見して狂喜する元ランナーや、スタートを切るのに必要なインスピレーションをついに受けたビギナーたちだ。
独特の痛快さで『BORN TO RUN』は、何歳だろうと、どんな状態だろうと、過去にどんな故障や挫折を経験していようと、あなたのランニング最盛期はまだ先にあると示してみせた。「人は年をとるから走るのをやめるのではない」と94歳のトレイルランナー、ジャック・カーク、通称〝ディップシーの鬼(ディーモン)〞がよく言っていたとおり。「走るのをやめるから年をとるのだ」
でも一夜にしてディーモンになれる人はいない。ランニングとはダンスで、ステップを学ぶのにしばらくかかる。
人はただ走りたいのではない。走るのが好きになりたいのだ。われわれ狂人どもが焼けつく太陽の下、峡谷の底で長く危険なレースの最中に感じたのと同じ喜びを探し求めている。「自由に走れ(ラン・フリー)!」とカバーヨ・ブランコがよく唱えた2語からなる鬨の声に、それは申し分なく集約される。〝フリー〞は〝好き勝手〞に近いけれど、同じではない。カバーヨが言いたかったのは、けがからの自由。ストレスからの自由。法外な価格のシューズやギアやレース参加料からの自由だ。ラン・フリー、休み時間に外に飛び出していく子供のように……あるいは現代世界を捨て、ちっぽけな小屋と奇天烈ながらも愛情にあふれるララムリの家族を選んだ不機嫌な一匹狼のように。
〝走る民族″の教え
さかのぼって90年代なかば、カバーヨがコロラド州レッドヴィルにいたときのことだ。ララムリの一団がレッドヴィル・トレイル100――ロッキー山脈の頂上を走る100マイルのフットレース――のスターティングラインに現れたかと思うと、並みいる敵を打ちのめし、トップ10のうち8人を占めてみせた。翌年、ララムリはその驚異的なパフォーマンスを再現する……が、ふたたび峡谷の奥へと姿を消し、二度と戻ってくることはなかった。
カバーヨは跡を追った。ねらいは、どういうわけでララムリはごく簡素なサンダルしか履かずに長い距離を走り、高齢になっても溌剌として、われわれと同じけがや無気力、肉体の衰弱に悩まされないのか、を知ることだった。もしランニングがわれわれの膝によくないのなら、と彼は思案した。彼らの膝にもよくないはずじゃないか? どうしてララムリに凝ったシューズや補正装具は要らないのか? 私はその答えをかいま見た気がしていたが、〈白馬〉に確かめないわけにはいかなかった。ついに見つけたとき、彼はすでに峡谷地帯で10年以上をすごし、川から手で運びあげた石を使った手造りの小屋に暮らしていた。
彼は私の話を最後まで聞き、そして首を振った。
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それでは正しい答えは得られない、とカバーヨは言った。質問が間違っているからだと。なぜララムリがわれわれと大いにちがっているかは気にしなくていい、と彼は説明した。なぜ彼らはたがいによく似ているかに注目することだ。
それだ。ここでようやく私は自分が目にしたものを理解した。数日前、ララムリの子供たちが土のトレイルを走りまわり、木製の球をサンダルのつま先ではじき合うのを見た。不思議な点がひとつ、印象に残った。
子供たちはみんな同じ走り方をしているのだ。
速い者もいれば遅めの者もいるが、こと走法に関してはララムリの子供たちはほとんどいっしょだった。べつにたいしたことじゃないと思うなら、いつか地元の10キロレースを見物してみたらいい。100人の出走者が通過するごとに、100の創作ダンスを目にすること請け合いだ。あるランナーは踵で着地し、別のランナーはつま先で、多くは背中を丸め、少数は直立し、全員が腕と脚と頭を自分にだけ聞こえるリズムに合わせて揺らしている。一度きりの実験を探しているなら、並みのロードレースにまさるものはない。
「この子たちは何かコツをつかんでいるのかもしれない」と私は彼らの走りを眺めながら思った。それが確信に変わったのはその朝のうちに、ララムリの大人たちがトレイルに姿を見せたときだ。彼らは全員、子供たちと同じ軽い足取りで、膝を前に出すスタイルで駆けていた。
それがカバーヨをここまで誘い出した秘訣だった。「学びたいって?」と彼はやがてうなるように言った。「教えてやろう」
翌日の明け方、カバーヨは私を連れて土のトレイルに向かい、くねくねとマツの森に分け入っていった。私が後れをとると6つの単語を発し、それが私の人生を引っくり返すことになる。「ぴったりつけ(スティック・タイト)。私がやるとおりにやれ(ドゥ・ワット・アイ・ドゥ)」
カバーヨがいきなり速足になった。私は数ヤード後ろをついていった。
「もっと近く」と指示が飛んだ。
ぴったり寄りつくと、彼の踵が危うく私の膝を蹴りそうになる。
「そこだ」カバーヨが言った。
長身のわりに、彼の歩幅(ストライド)はやけに短く、ポン、ポン、ポンと小気味よく弾むようでもあった。着地がダンサーのように静かなのも道理で、履いているのはクッション付きのランニングシューズではなく、使い古した〈テバ〉のサンダルだった。
「さあ、〝楽に〞と考えるんだ」とカバーヨが前から声をかけてきた。「まずは〝楽に〞から。それだけ身につければ、まあなんとかなる。つぎに〝軽く〞に取り組む。軽々と走れるように、丘の高さとか目的地の遠さとかは気にしないことだ。それをしばらく練習して、練習していることを忘れるくらいになったら、〝スムーーーズ〞だ。最後の項目については心配しなくていい――その3つがそろえば、きっと〝速く〞なる」
3つの目標
〈ラン・フリー〉プログラム全体でいちばん簡単なところは、いちばん難儀に思われがちな部分だ。
すなわち、物事を変えることである。
われわれは、習慣を変えるのはつらく退屈だと信じるよう条件づけられてきた。まるで全身ギプスがはずれたあとに歩き方を学び直すようなものなのだと。だがここにランニングの真理がある。つまり、それが困難で複雑なものだったとしたら、われわれは絶滅しているということだ。人間が生存のために頼りにしたからには、走ることは幼児として学び、老人として当てにできるスキルでなければならなかった。水に戻された魚の感覚さながらの楽しさと解放感がなければならなかった。
だからもしこれは大変そうだと思ったなら、元気を出してほしい。あなたのランニングをリブートしてカバーヨ・ブランコの足跡をたどるには、つぎの3つの目標に焦点を合わせればいい。
・フットウェアをフラットにする。
・ケイデンスを速める。
・仲間を見つける。
トリックの臭いがする? そんな簡単なはずはないと思う? だとしたらどうか試してほしい。ここに〈ラン・フリー〉のランニングフォームを身につけるのはいかにむずかしいかを示そう。まずは、スケジュールをあけたほうがいい、というのも、これに要する時間は概算で……10分だ。
やることは以下のとおり。
1 B-52sの曲〈Rock Lobster(ロック・ロブスター)〉を用意する。
2 壁を背に、1歩ほど離れて立つ。
3 大音量で曲を鳴らす。
4 ビートに合わせてその場ランニング。
以上。完璧なランニングフォームを習得するにはそれだけでいい。
その場で走るなら、踵着地(ヒールストライク)もオーバーストライド〔歩幅が大きく、重心より前すぎる着地になること〕もありえない。背中を壁に近づけていれば、蹴り上げ(キックバック)もバランスをくずすこともない。そしてB52sのおかげで、1分間の歩数をいくつにすべきか考えずにすむ。
姿勢、フットストライク、ケイデンス。完璧なフォームの3要素は、おぼえやすく、しくじることはありえない。
熟達するのは別の問題だが、それもまた楽しいところだ。ドアから外に出るたび、うまくいったときの喜びがたちまちわき起こるようになる。ジャンプショットを決めたりバックハンドを打ち抜いたりするのが簡単だったら、バスケットボールやテニスのコートはからっぽになっているだろう。われわれを何度も立ち戻らせるもの、それは夢を実現すること、自分の動きをイメージと一致させようとするチャレンジだ。
それには練習が必要であり、練習こそが熟達の肝となる。でも習得するのは? その部分は簡単だ。
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フットコアを鍛える
腹部の体幹を鍛えろとはよくいわれるが、足の幹についていわれることはない。だがおそらくこちらのほうがさらに重要だ。この決定的な筋トレこそ、健康とパフォーマンスのカギである。足を鍛えるだけで相当な運動機能不全が取り除かれるからだ。地面の上の安定性は、ほかの筋肉をどう活性化させるかに影響する。
片脚裸足バランス ONE-LEG BAREFOOT BALANCE
• 片脚で表面が硬い場所に立ち、その前足部でバランスをとりながら踵を少し浮かし、土踏まず(アーチ)に強く力がかかるようにする。
• 必要に応じて壁や椅子、パートナーを使って姿勢を安定させる。
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メモ:これは足で上下運動をするカーフ・レイズ〔ふくらはぎの筋トレ〕ではない。動きはなく、ただ安定させる。
回数:片足30~90秒、または疲れるまで。
特別な注意点:どこが敏感か。足の筋力に難がある人もいれば、足は強く、ふくらはぎや大臀筋にいちばん疲れを感じる人もいる。
サイドリフト SIDE LIFT
• 裸足の右前足部でバランスをとり、壁や椅子、パートナーを使って身体を安定させる。
• 右脚をまっすぐ伸ばしたまま、左脚を横に上げる(はさみの刃の片方を開く要領で)。
• 左脚をできるだけ高く上げ、腰を水平に保ちながら、最初の位置に戻る。
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メモ:これは立ち脚を安定させるエクササイズで、動かす脚の可動域エクササイズではない。
回数:15~25回、逆の脚で繰り返す。
ニーリフト KNEE LIFT
• 裸足の右前足部でバランスをとり、壁や椅子、パートナーを使って安定させる。
• 右脚をまっすぐ伸ばしたまま、右の踵を少し上げる。
• つぎに、左膝を前にできるだけ高く上げてから、もとの位置に戻す。ゆるやかな、コントロールされた動き方を保つこと。
•重点を置くのは立ち脚で、動かす脚ではない。
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回数:15~25回、そのあと逆の脚で繰り返す。
続きは『BORN TO RUN 2――〝走る民族″から学ぶ究極のトレーニングガイド』でお楽しみください。
『BORN TO RUN 2――〝走る民族″から学ぶ究極のトレーニングガイド』
上田瑠偉氏(プロ山岳ランナー)絶賛!
「僕の原点! 僕とトレイルランニングを引き合わせてくれた『Born to Run』。
第二弾となる本書は実践的な内容が記され、不調からの脱却、ランニングがさらに楽しくなるヒントが満載です! 僕もちょうど足に不調を抱えていて、さっそくいくつか実践しています」
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■『BORN TO RUN 2――〝走る民族″から学ぶ究極のトレーニングガイド』目次より
1 〈ラン・フリー〉の感覚
2 揺れを追い払う
3 原点回帰の旅─―10分間で
4 さあ、はじめよう
5 プリゲーム――ムーブメント・スナック
6 フード――フォークはあなたのコーチではない
7 フィットネス――熟練メカニックになる
8 フォーム――イージーの技術
9 フォーカス――もっと速く、もっと遠く、もっとずっと長く
10 フットウェア――なにより、害をなすなかれ
11 ファン――仕事みたいに思えたら、あなたはがんばりすぎている
12 ファミリー――ともに汗かく者はともに天翔ける
13 ファイナルレッスンを白馬より――自由に走れ、カバーヨ
14 ザ・プラン
15 故障――パンクを修理する
著者
クリストファー・マクドゥーガル Christopher McDougall
作家・ジャーナリスト。AP通信の外国特派員としてルワンダやアンゴラの戦争取材を行い、その後Men’s Health誌のライター兼編集者となる。著書に『BORN TO RUN 走るために生まれた』『ナチュラル・ボーン・ヒーローズ』(ともにNHK出版)など。ウルトラマラソン・ランナーでもある。20年にわたるペンシルヴェニア州郊外での生活をへて、現在は妻の出身州ハワイに暮らす。
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エリック・オートン Eric Orton
ワイオミング州出身のアドベンチャースポーツコーチ。『BORN TO RUN 走るために生まれた』にも登場し、故障しがちな著者クリストファー・マクドゥーガルの身体をウルトラマラソン向けに鍛え直した。著書にThe Cool Impossibleがある。
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