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呉座勇一×春日太一『大河ドラマの黄金時代』刊行記念対談「日本史は大河ドラマでつくられる?」

 映画史・時代劇研究家の春日太一さんの新刊『大河ドラマの黄金時代』(NHK出版新書)の刊行を記念して、2月16日に歴史学者の呉座勇一さんと春日さんの対談が行われました(ロフトプラスワン、配信は終了)。『麒麟がくる』を振り返り、互いの「フェイバリット大河」について語り合う――3時間におよんだ熱い対談から、当記事ではその模様をダイジェストでお届けします。大河ドラマ好き、歴史好きは必読です!

歴史の「顔」は役者で決まる

春日 今日は大河ドラマをテーマに、ざっくばらんに話そうということで、よろしくお願いします。
呉座 よろしくお願いします。春日さんの今回のご本を読ませていただいて、よくわかったのが、まず大河の作り手はたんに「大河の伝統」を踏襲するのではなく、常に新しいことをやろうと模索しているということ。それと振り子のように、王道と変化球、テーマ性の強いものと純粋に娯楽的なもの、リアル路線と様式美など対極を行き来していることです。
春日 そうなんですよ。プロデューサーやディレクターたちは、それぞれドラマ作りに一家言もっておられますから。
呉座 戦国時代ものなど何度も繰り返し描かれた事件・人物で、どう新しく見せるのか。昨年の『麒麟がくる』でも、これまでの大河にない新たな信長像が現れました。
春日 秀吉像にも驚きましたよね。呉座さんもかねてからおっしゃっていた、若い頃から「悪い」秀吉が初めて描かれた。
呉座 佐々木蔵之介の秀吉は素晴らしいと思いました。私のイメージする秀吉はまさにあんな感じです。笑顔がメチャ怖い秀吉。
春日 染谷将太の信長も、見事にやりきりましたね。
呉座 今でこそ絶賛されていますが、キャスティングが発表された時は、「信長らしくない」という声もあがりました。しかし大河はこれまでにも、意外性のあるキャスティングをやってきたんですよね。『徳川家康』(1983年)のときの滝田栄とか。「狸親父」と正反対の爽やかな二枚目ですからね。
春日 冒険自体がひとつの伝統だったりするのが大河ドラマじゃないかと思います。中井貴一の『武田信玄』(1988年)も当初は意外でした。
呉座 春日さんのご研究は役者よりも裏方、制作側に視点を置いているので、キャスティングする側のねらいがわかって面白いです。歴史上の人物をどう描くか、熱心に考えているんですね。
春日 信長や秀吉以上に、『太平記』(1991年)の佐々木道誉などのように、初めて映像化される作品で歴史上の人物のイメージも決まってしまうこともあります。
呉座 私は日本史の研究者ですけれど、佐々木道誉はもはや大河の陣内孝則のイメージなんです(笑)。北条高時は片岡鶴太郎だし、長崎円喜はフランキー堺。
 長崎円喜など、肖像画がなくて教科書にも載らない武将は特に、大河の役者の顔でイメージが決まる。『花の乱』(1994年)でいえば、応仁の乱の西軍の総大将である山名宗全がどんな顔をしていたか、実はわからないんです。同時代の肖像画が残っていないから。江戸時代に想像で描かれたものだけ。そうすると萬屋錦之介の顔でイメージすることになる。盗賊の親分で足軽大将の骨皮道賢も当然肖像画なんてないから、ルー大柴になっちゃう(笑)。
春日 字面でしかなかった人物が、こういう人なのか、と。彼は実は芝居ができる人ですし。
呉座 大河を見ると歴史の勉強になるのは、名前だけだと覚えられない人物が、役者の顔で覚えやすくなるからですね。
春日 『太平記』のヒーロー足利尊氏=真田広之をめぐる人物の構図など、キャストの顔を見るだけでキャラクターがわかります。
呉座 最近の研究では、尊氏の執事の高師直はそれほど悪人ではなかったとされているのですが、私たち研究者にとっても、柄本明の演じた師直のいやらしいイメージが強烈で、いまだに抜けません。
春日 実際の師直は戦歴のある武将なのに、江戸時代に吉良上野介を師直に置き換えた『仮名手本忠臣蔵』以来、悪いイメージが定着してしまった。それを踏襲したのでしょうね。
『麒麟がくる』で片岡鶴太郎が演じた摂津晴門も斬新でした。鶴太郎は、大河でいつも腹に一物あって搔き回すような役で。
呉座 しかも凄いのか馬鹿なのかよくわからない。そういう怪しい人物も大河には必要なんですよ。

なぜ幕末ものは当たりにくいのか?

春日 幕末ものが当たりにくいのは、戦国と違って、複雑な人間関係に政治思想が絡んでややこしいからではないかと。尊王攘夷を唱えていた長州が開国に回って、開国派だった幕府が守旧派になるとか。寺田屋事件でなぜ薩摩藩内の殺し合いが起きるのかとか。
『翔ぶが如く』(1990年)では丁寧に描いていましたけど、やっぱりわかりにくい。でも、その前の年が橋田壽賀子脚本の『春日局』なので、視聴率はそちらに任せてやりたいことをやろうと思ったそうです。
呉座 実は幕府も長州も薩摩も、みんな「尊王攘夷」をスローガンにしているんですよ。ただ、今すぐ攘夷するか、いったん開国して力をつけてから攘夷するか、といった中味が違う。そこがややこしい。
 それにしても橋田壽賀子への絶大な信頼はすごいですね。ところがご本人は歴史を知らないというので、衝撃を受けました。
春日 大奥がホームドラマになる。ある作品では歴史ものに馴染みのない脚本家が「××城リビング」と書いたそうです。
 でも大河はスタッフの脚本家へのサポートが厚くて、ディレクターが難解な古文書を読み解いて資料を作ったり、プロデューサーが年表を作ったり。
呉座 ある大河では、時代考証の方がアイディアを出したとか。脚本のサポート体制でもドラマの出来が変わるのかもしれません。
春日 幕末大河の話に戻ると、当たらないもう一つの理由として、「画が汚い」からという指摘もあります。戦国武将の衣装や鎧は豪華で色鮮やかなのですが、幕末は下級武士が主役になりがちなので粗末な衣装。しかも暗がりで政治談議や暗殺をしているという。
呉座 合戦と違って、暗殺やテロはイメージが暗いですしね。
春日 でも『龍馬伝』(2010年)が幕末ものなのに視聴率を取ったのは、龍馬を演じたのが福山雅治というのもあるでしょう。あの爽やかさで幕末でも画が汚くならない。

架空キャラはOKか?

春日 『麒麟がくる』でも駒ちゃん(門脇麦)など実在しない架空キャラが登場しましたが、それについてのお考えは?
呉座 時代考証に参加してみて、架空キャラの必要性が見えてきました。ひとつは「集約系」。話をわかりやすくするために、複数の人物をまとめて一人にしてしまう。それから「忍者系」。情報収集係や連絡係は物語を進める上でやはり便利です。もうひとつは駒ちゃんみたいな「庶民系」。視聴者の分身として、史料にはあまり出てこない庶民の視線を入れることができる。
春日 『草燃える』(1979年)で脚本の中島丈博さんが大きく膨らませた伊東祐之(滝田栄)という人物は、鎌倉の御家人から始まり最後は琵琶法師となり、いろんな場面に自由に現れる狂言回し的存在でした。それが時代の光と闇を体現する。そんな風に作り手の思想を込めた架空キャラはいいと思う。でも都合よく便利に使うだけではよくないでしょう。
呉座 架空キャラが次々と難題を解決しちゃったら、ただの御都合主義になってしまいますからね。

「原作なし」の大河が増えた理由

春日 ところで事前に呉座さんから、大河に原作なしのオリジナルが増えているのはなぜか、とのご質問をいただきました。逆になぜ原作を使ったのかを考えてみると、まず原作者のネームバリューと、人物設定などの拠り所が必要だったからです。
呉座 それは黎明期の大河がまだブランドや権威を確立していなかったから、それらを補ったということですか?
春日 まさにそうです。国民的作家としての大佛次郎や吉川英治、司馬遼太郎などのネームバリューに頼った。それから、初期は映画や舞台出身の脚本家が起用されましたが、そういった人たちは1年間の大長編連続ドラマを書いたことがなかったから、構成の拠り所として原作が必要だったこともあるでしょう。
 それが1970年代になると、倉本聰、市川森一、平岩弓枝など、テレビ出身の脚本家たちがスターになっていく。それを経て80年に山田太一の『獅子の時代』、翌年に橋田壽賀子の『おんな太閤記』と、オリジナルの脚本が登場してくる。加えて大河のブランドが確立したので、あえて原作を使う必要がなくなったのです。
呉座 あと、いまは現役の歴史小説家で国民的作家と呼べるほどの超有名人はいないですしね。
春日 たしかに。それと歴史学の研究が進んで、それを参考にオリジナルの物語を作りやすくなったという背景もあるでしょう。
呉座 よくわかりました。すると今後の大河は、時代考証の学者の役割もますます重要になりますね。
春日 ええ、来年の大河の呉座さんのように、誰を時代考証に選ぶかが、原作者選びと同じような意味合いになるのでしょうね。

再び「応仁の乱」を

春日 呉座さんが今後、大河でご覧になってみたいテーマは?
呉座 前々から北条早雲はやってほしいと思っているんです。なぜかというと、早雲の前半生で「応仁の乱」を再び取り上げてほしいのです。『花の乱』で失敗したのは、暗く終わってしまったからで、北条早雲なら「応仁の乱」のどん底から這い上がっていく話になる。
春日 「応仁の乱」自体、呉座さんのご本を読んでも、どこで始まりどこで終わったかがわかりにくいですよね。北条早雲でやるというのはいいと思います。北条五代をやってほしいという人もいますが、まずは初代ですね。あの時代をもう一回見てみたいです。
呉座 戦国時代といいつつ、100年くらいのうち、これまでの大河はほとんど戦国後期しかやっていないんです。「応仁の乱」後50年くらい経ってからの話しかない。だから戦国前期をやるのはいいんじゃないか。京都から、駿府、伊豆、小田原と主人公が移動するので、舞台に変化もつきますしね。
春日 そういうことを考えるのも、大河ドラマの面白いところですね。そのときは是非、呉座さんの時代考証で!

構成=福田光一

プロフィール
呉座勇一(ござ・ゆういち)

1980年、東京都生まれ。歴史学者、国際日本文化研究センター助教。専攻は日本中世史。著書に『戦争の日本中世史──「下剋上」は本当にあったのか』(新潮選書)、『応仁の乱──戦国時代を生んだ大乱』(中公新書)、『陰謀の日本中世史』(角川新書)など。2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の時代考証を担当。

春日太一(かすが・たいち)
1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』『日本の戦争映画』(以上、文春新書)、『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』(文春文庫)、『すべての道は役者に通ず』(小学館)、『時代劇入門』(角川新書)など。

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