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高瀬耕造アナウンサーが語る「おむすび」の魅力
連続テレビ小説「おむすび」で、1週間の放送を振り返るダイジェスト版の語りに挑む高瀬耕造アナウンサー。「おむすび」の見どころ、そして発生から30年を迎える阪神・淡路大震災について語っていただきました。
※本記事は1月29日発売『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 おむすび Part2』に掲載した記事からご紹介します。
まさか2年連続でBK(NHK大阪放送局)制作の朝ドラに参加できるなんて、夢にも思いませんでした。自称〝朝ドラ応援団〟として長年朝ドラを応援してきた私としては、素直にうれしく光栄に感じています。
「ブギウギ」では本編の語りを担当しましたので、自分の立ち位置や関わり方について、時間をかけて考えました。自主練習で何度も何度も録音するなど、相当肩に力が入っていたと思います。そのときの試行錯誤を経て、今はいい意味で肩の力が抜け、朝ドラを応援し始めたころの距離感に戻れたようです。そんな境地でいられるのは、本編のリリー・フランキーさんの語りがあるからこそ。寄り添うような力みのないリリーさんならではの語り口が心地よく、学ぶことが多いです。
ドラマが一気に加速 結の怒りと聖人の懺悔
福岡県・糸島の雄大な景色と共にスタートした物語は、栄養士という夢に出会うまでのヒロイン・結の日常が丁寧に描かれました。その穏やかな空気の中、物語の温度が一気に上がった印象的なシーンが二つあります。1つ目は、「お姉ちゃんなんて大嫌い!」と結が声を荒らげ、涙ながらに歩に怒りをぶちまける場面(第4週)。好き勝手に生きる姉に対し、つらく苦しい思いをしたのは自分も同じだという心の内を爆発させる結。「ついにきた!」と思う瞬間でした。
2つ目は、糸島フェスティバルの打ち上げで父・聖人が独白するシーン(第5週)。阪神・淡路大震災のとき、人助けを優先し、傷ついた歩や結のことを考えてあげられなかったと後悔。「父親として情けんなか」とお酒の力を借りて感情を吐き出しました。北村有起哉さんのすばらしいお芝居にくぎづけでしたね。これらは物語が加速する序盤の転換点となったシーンだと思います。
個人的に注目しているのが、聖人と愛子夫婦。朝ドラのヒロインは、物語の途中で故郷の両親の元を離れるのが定石です。「おしん」「ちりとてちん」など印象的なシーンが多いですよね。涙の別れを経て、新たな物語が始まる。ですが、結が糸島を離れるとき、聖人と愛子も一緒に神戸に旅立ちました。これは珍しい展開だなと思いました。その後、聖人
や愛子の物語も丁寧に描かれていきます。
ヒロインの母は、どの朝ドラにおいても極めて重要な存在ですが、愛子の重要性はどんどん増しています。優しすぎるわけでも、強すぎるわけでもないですが、物語の要所要所で歩や結が向かうべき方向に水を向ける役割をします。昨年11月に行われた「BK大感謝祭2024」のトークショーで佳代役の宮崎美子さんもお話しされていましたが、愛子は義母である佳代に対しても敬語を使わないんです。立場で人を見るのではなく、スッと距離を詰めて関係性を築く。そんな姿を麻生久美子さんの演技から感じますよね。
そして、神戸編に入ってからは、緒形直人さん演じるナベさん(渡辺孝雄)の物語であるとも言えます。先日、BK局内で緒形さんと北村さんが一緒に歩いているところに遭遇しました。お二人の背中から漂うただならぬ緊張感に思わず足がすくみ、その時ばかりは声をかけられませんでした。緒形さんは、震災のあと心を閉ざすナベさんの役柄を作り込むため、あえてオフの時間も共演者と距離を置いているとドラマ・ガイドPart1の記事で読みました。物語が進むにつれ、ナベさんのうれしそうな姿や笑顔を見られるようになって私もうれしい。私たちの胸を打つのは、緒形さんの徹底した役作りがあるからこそだと思います。
立ち上がるスピードは人によってさまざま
私自身、受験生のときに兵庫県加古川市の実家で阪神・淡路大震災を経験しました。食器が割れたり、家の壁にヒビが入ったりはしましたが、被害の大きかった地域に比べれば、被災したと言えるほどではありません。その後すぐ、大学進学のため上京。聖人が神戸から逃げたという後ろめたさは、私がずっと抱えている感情とどこか重なります。
アナウンサーになってから東日本大震災や能登半島地震など、数々の災害を取材してきましたが、阪神・淡路大震災はしっかり向き合ってきたとはいえません。一昨年、BKへの異動で28年ぶりに関西に戻り、今年2025年は阪神・淡路大震災から30年です。今度こそ自分なりにきちんと向き合いたいと思っています。
昨年、震災で親御さんを亡くされた方を取材しました。30年たっても、いまだに心の中で区切りがつけられない方もいらっしゃいます。再生への歩みやスピードは、人によって違います。「おむすび」で震災をしっかり描くと聞いたとき、これは簡単ではない難しい挑戦だと思っていました。しかしドラマを見て、現実の震災を非常に丁寧に取材されていて、何より「簡単に分かった気にならない」ということが制作陣の中で徹底されていると思いました。
「おむすび」はヒロインの〝成長物語〟であると同時に、人と街の〝再生の物語〟でもあります。キラキラとした一所懸命な結たち若い世代が、大人たちをも動かしていく。そんなひたむきな様を語りで見守り、応援していきます!
取材・文/脇本暁子
プロフィール
高瀬耕造(たかせ・こうぞう)
1975年生まれ、兵庫県出身。NHKアナウンサー。99年、NHK入局。新潟、広島、東京を経て、2023年から大阪放送局所属。報道番組「NHK ニュース おはよう日本」キャスター時には、ドラマの感想を語る“朝ドラ送り”が人気に。23年の第74回NHK紅白歌合戦では司会を務める。現在は、「列島ニュース」「美輪明宏 愛のモヤモヤ相談室」などを担当。単身赴任を機に、料理をちょっと頑張り中。
※NHK「列島ニュース」の2時台(月〜金・午後2時5分〜2時50分)では、「おむすびのここだけのウラ話」をお伝えしています。ドラマと併せてお楽しみください!
『NHKドラマ・ガイド おむすびPart2』では、ヒロインの橋本環奈さんを始め、豪華出演者のインタビューのほか、脚本家・根本ノンジさんによるセリフ解説など、独自企画も満載。朝ドラファン必携の1冊です。
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