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「本能寺の変」に向けていま改めて伝えたいこと――「麒麟がくる」主演・長谷川博己(明智光秀 役)インタビュー

 大河ドラマ「麒麟がくる」は、いよいよクライマックスに向けてラストスパート。これまで、受け身の行動が多かった明智光秀は、ドラマ後半で主体的に行動するようになり、少しずつ「本能寺の変」への布石が打たれていきます。
 11月10日に発売された『NHK大河ドラマ・ガイド 麒麟がくる 完結編』では、約1年以上にわたり明智光秀を演じてきた主演の長谷川博己さんが、視聴者、読者に向けていま改めて伝えたいことを語ってくれました。当記事では、余すところなくその全文をお伝えします!

戦国の乱世が混沌とした現代に重なって見えてきた

「麒麟がくる」は、しばらくの間、撮影を休止していました。異例の事態でしたが、自分としてはドラマの意義を再確認する機会になりました。台本を読み直すうちに、戦国の乱世が、混沌とした現代に重なって見えてきたんです。不条理な世を変えたいという人々の思いは同じなんだと。また、演じてきた光秀を振り返ると、「これほど家族や家臣に慕われていたのか」、「この状況ではこうするしかないな」など、思うわけです。でも歴史は勝者に都合よく書かれるのが常で、光秀の死から400年以上たった今も「裏切り者」という悪評が残っている。果たしてそれは本当なのか。先入観や思い込みで物事を判断していいのか──。情報が氾濫し、真偽の判断がつきにくくなった今の時代への問いかけにも感じられます。もっとも光秀自身は世の中がよくなるなら悪く言われてもかまわないと思っていたかもしれませんが。

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 ドラマの後半、将軍・足利義昭のもとで幕臣となった光秀は、幕府の役人の腐敗を正そうと奔走します。それ以前の光秀は、受け身で行動することが多かったのですが、主体的に動くようになります。越前で牢人としてくすぶっていた反動もあったでしょう。光秀は恐らく、織田信長と同じく「古き悪しきものを壊し、新しき善きものをつくる」ことをしたい人である一方、神仏や伝統的なものを大事にする部分もある。その信念は戦との向き合い方にも表れてきます。光秀が殿(しんがり)を務めた「金ヶ崎(かねがさき)の戦い」の場面では、腹心の明智左馬助に「力が伴わねば、世は変えられぬ。戦のない世をつくるために、今は戦いをせねばならぬとき」と語るのですが、まずは壊さないと、麒麟がくる世をつくれないと確信していきます。
 ただ、この信念には矛盾がつきまとう。光秀は、幕政をめぐって対立する摂津晴門に、「古く悪しきものが残っている。それを倒すまで戦は続ける」というようなことを言うのですが、演じるうえでここは精神的な負担が大きかった。本当に手強い役ですが、その光秀の矛盾をバネに、不思議と興奮もするものです。摂津役を片岡鶴太郎さんがヒールとして演じてくださるので(笑)、バチッと言いたくなる衝動に駆られます。

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「これが本来の光秀ではないか」と思って演じています。先入観を捨てて見てほしい

 やはり改めて感じているのは、光秀は優れた演出家だなと。義昭に対しても、信長に対しても、麒麟を呼べる男ではないかと期待し、そう仕向けていく。義昭とは弱者救済の志を共有していますし、将軍である彼が武家を束ねるべきだと考えていたと思います。だから信長から「自分と義昭のどちらに仕えるか」と聞かれたとき、決然とした態度で義昭を選んだ。一方で光秀は、信長にもシンパシーを感じています。信長の幼児性や残虐さは危ういけれど、危うさゆえの人を魅了するカリスマ性がある。かつて光秀が斎藤道三(さいとうどうさん)から言われた「大きな国」を、信長とならつくれるかもという思いもあったでしょう。染谷将太さんが演じる信長がまた魅力的で、光秀から「義昭に仕える」と言われたときのなんともいえない表情や、大きな国に思いを馳せる無邪気な姿が印象的でした。義昭と信長の対立が深まると、光秀は両者の間に立ってヒリヒリとしたやり取りにさらされます。その分大事にしたいのが、家族や家臣との温かなやり取り。光秀の人柄が最も色濃くにじむ場面だと思っています。

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 最終回に向けて「本能寺(ほんのうじ)の変」を視聴者の皆さんの多くが期待していると思います。改めて伝えたいのは、先入観を捨てて見てほしいということ。僕自身、捨てるのは容易ではありませんでした。例えば木下藤吉郎(豊臣秀吉)とのシーンで「光秀はこいつに討たれる」などと思ってしまうと、演技も予定調和になってしまう。そういった感覚を視聴者の方々にも共有してもらうのはおこがましいかもしれませんが、このドラマを通じて、これまで皆さんが抱いていたイメージと事実は違うのかもしれない、ということを少しでも感じていただけたら光栄です。もう今は「これが本来の光秀ではないか」と思って演じています。視聴者の皆さんにも、これまでにない光秀の物語を最後まで楽しみにしていただけたら、これほどうれしいことはありません。

(『NHK大河ドラマ・ガイド 麒麟がくる 完結編』より再録)

プロフィール

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写真=平岩 享

長谷川博己(はせがわ・ひろき)
1977年生まれ、東京都出身。文学座附属演劇研究所に入所し、2002年に「BENT」で初舞台。以降、テレビや映画で活躍中。主な出演作に、ドラマ「家政婦のミタ」「運命の人」「MOZU」「デート~恋とはどんなものかしら~」「小さな巨人」、映画「シン・ゴジラ」「半世界」「サムライマラソン」など。NHKでは、連続テレビ小説「まんぷく」、「セカンドバージン」「夏目漱石の妻」「獄門島」など。大河ドラマ「八重の桜」では主人公の最初の夫・川崎尚之助役を熱演。

*NHK出版「大河ドラマ・ガイド 麒麟がくる」公式Twitterはこちら

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