映画賞を総ナメ、映画・ドラマに引っ張りだこ、それでも「ふつう」であり続ける岸井ゆきのの本音
『恋せぬふたり』『愛がなんだ』『大奥season2』をはじめ数々の映画、ドラマ、舞台、CMなどで活躍、昨年公開の『ケイコ 目を澄ませて』では数々の映画賞を総ナメし、いま最も注目を集める俳優・岸井ゆきのさん。
岸井さんがこれまで明かすことのなかったあるがままの気持ちを記した初めてのフォトエッセイ『余白』は、岸井さんの素顔にふれられる一冊です。
現在、購入者のお名前と岸井さんのサインを直筆した『余白』を数量限定でhontoで予約受付中です。それを記念して、当記事では本書の中から、岸井さんが自身の恋愛観について素直な思いを打ち明けた《恋愛って、むずかしい》と、どんなに俳優の仕事が忙しくなっても「ふつう」であり続けようとするその気持ちを表した《ふつうの私》の2つのエッセイをご紹介します。
恋愛って、むずかしい
三十歳になったので、というかそれよりも数年前から、結婚願望はあるんですかみたいなことを聞かれる機会が増えた。
好きなタイプはと聞かれたら、ずっと、言葉選びが素敵な人、と答えてきた。おもしろいことを言う人が好き、というのは、笑わせてくれる人という意味ではなくて、同じ出来事でもこの人のフィルターを通すとそんなふうに見えるのか! という感性をもった人が好きで、それが言葉選びに表れると、「ああ、いいなあ」と思う。それは、男性でも女性でも、恋愛に限った話ではない。あとは、前向きな人がいい。私は明るいほうだけど、いじけることも多いから、ネガティブに寄りがちな心を掬いあげてくれる人には、憧れる。
ただ私は、恋愛に関するアンテナはとても鈍いというか、誰かを好きになっても、自分の気持ちに気づくのがとほうもなく遅くて、誰かに「あなたね、それは好きってことですよ」と言われてはじめて「そうだったのか!」と驚いてしまう、という感じなのだ。
でも自分の気持ちがわかったからといって、積極的にアプローチをしはじめるわけでもなく。「そっかあ、これは好きってことなのかあ」とかみしめ、誰かを好きになるってそれだけで超幸せだな、とにこにこしてしまい、好きの状態だけで満足してしまうのだ。くわえて、相手もにこにこしていてくれたら、それだけで十分幸せ。
好きな人に限らず、誰かを独り占めにしたい気持ちが私は基本的に湧かない。そして、自分のことをわかってほしいとか、振り向いてほしいとか、ということがあまりない。まあ、そりゃあ、振り向いてくれたらめちゃくちゃうれしいだろうし、好きな人が別の人とつきあうことになったら、そっかー……(しゅん)とはなるはずだが、相手がそれで幸せならしょうがないとも思ってしまう。
恋とか愛とかよくわからないのは、何かをしてくれたから好きとか、かっこいいから好き、みたいに思ったことがないからかもしれない。なんとなく知り合って、一緒に過ごす時間を重ねていったら楽しくて、でもそれ以上にその人の生き様や醸し出される雰囲気に惹かれて、素敵だなあと思う。それは友達でも仕事仲間でも同じなのだけど、中でもとくにぐっと心をつかまれてしまう相手に対する感情を、わかりやすく表現すると、「好き」ってことになるんだろう。でもそこから、自分のことを受け止めてほしいとか、私のなかに踏み込んでこられたときにどうするかとか、関係性を紡ぐところまでは、まだしっかり想像できていないのかもしれない。
これまで私は、大事なことは、自分ひとりの中にしまいこんで、深刻なことほど自分の中で静かに時間をかけて濾過することで決着をつけてきた。あるいは私の代わりに、映画のなかの、たとえば『アベンジャーズ』のメンバーたちが、現実には誰も傷つけることなく、あたりをぶち壊しながら悪を倒す様を見て、私の破壊衝動を満たして乗り越えてきたから。
誰かと何かを共有する、ということに私が一歩踏み出せたとき、もしかしたら、何かが少し変わるのかもしれない。
ふつうの私
現場で衣装を脱いだとたん、いつも心もとなくなってしまう。それまで演じていた役は儚はかなく消えてしまい、共演者やスタッフに囲まれている自分が、場違いである気がしてしまう。
だからいつも、撮影が終わると、しゅんとなってそそくさと現場を出る。自信がない、卑屈になっている、というのとはちょっと違う。私みたいな超一般の人間がこんなところにいてすみません、という申し訳なさに包まれて、一刻も早く自分の家に、しっくりくる居場所に帰りたくなってしまうのだ。
私にとって芸能界は、あくまで、俳優業という仕事をするために通う「職場」だ。本当の居場所は、家族や友達と過ごすなんの変哲もない時間なのだということを、決して忘れたくはない。心もとなくてしゅんとなってしまうのが素の私なのだから。
一方で、芸能界に限らず、仕事とその場所で得た繫がりに、居場所を見出す人はたくさんいて、そういう人たちはたいてい眩しいくらいにきらめいているから、羨ましくなることもある。だけど私は、仕事を居場所にしたくないのだ。戻る場所は別にある、ここではない場所に信じられる人が待っている。そう思えることが私の救いになっているから、どんなにしんどいことがあっても、腐らずにいられるのだと思う。
もちろん、端から見れば今の自分が〝芸能人〟と呼ばれる部類であるのはわかっている。仕事が全然なくて、バイトを三つかけもちしていて、貧乏話で一日盛りあがれるような生活を送っていたころの私とは、全然違うだろう。だけど、私が変わってしまったら友達はきっとさみしいだろうな、と想像すると、できるだけ変わりたくないと願ってしまう。
友達はみんな、私がたくさんテレビに出るようになっても、まったく態度を変えることはなく、「私たちもがんばらなきゃ」と嫌みなく言ってくれる。それは、全員がそれぞれの高みを見ているからだろう。自分たちのめざす場所に向かって、日々努力を重ねている彼らに、誰かの成功を羨んだり妬んだりしている暇はないのだ。私も、誰もが知る有名なレストランの厨房で働くことが決まった友達に「すごい!」と素直に称賛を送るし、どんどん高みにのぼっていく彼らに負けないよう、がんばりたいと思う。そういう〝ふつう〟を、守りたい。
そのためにも私は、ずっと変わらない、超一般の、ふつうの私であり続けたいのだ。
岸井ゆきのさんの初のフォトエッセイ『余白』では、デビューのきっかけや、作品に臨む姿勢、現場での舞台裏といった仕事にまつわるエピソードはもちろん、子どもの頃にはまっていたことや高校時代の苦い思い出、家族や友人への思い、恋愛や子供を持つことについての気持ちなど、まっすぐで飾らない言葉で紡がれた53篇におよぶエッセイを収載。
また、岸井さんのパーソナリティにふれる複数の場所で撮り下ろしたポートレートは、天真爛漫に撮影を楽しむキュートな表情など等身大の素顔をさまざまに映し出しています。さらには、岸井さん自身がプライベートで撮りためた秘蔵スナップも満載。岸井さんの人柄と魅⼒を多⾯的に味わえる、“岸井ゆきののすべて”がわかるプライベート感あふれる一冊です。
現在honto(下記URL)において、購入者のお名前と岸井さんのサインを直筆した『余白』を数量限定で予約を受付しています。またとない貴重な機会になりますので、ぜひお買い逃がしなく!
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※予約数上限に達ししだい終了となります。ご了承ください。
以下の記事でも『余白』からのエッセイを試し読みいただけます。
写真=熊木 優
プロフィール
岸井ゆきの(きしい・ゆきの)
1992年2月11日生まれ、神奈川県出身。2009年俳優デビュー。以降映画、ドラマ、舞台、CMと様々な作品に出演。17年、映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』で映画初主演を務め、第39回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞受賞。19年『愛がなんだ』では、第11回TAMA映画祭最優秀新進女優賞ならびに第43回日本アカデミー賞新人賞を獲得。主演映画『ケイコ 目を澄ませて』では、第46回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞をはじめ数々の映画賞を受賞。そのほか近年の主な出演作には、NHKドラマ10『大奥season2』や、NHK土曜ドラマ『お別れホスピタル』(2024年2月3日放送開始)がある。
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