見出し画像

宮島未奈『モモヘイ日和』第7回「夏休みの大発見」

24年本屋大賞受賞作『成瀬は天下を取りにいく』の作者・宮島未奈さんの新作小説が「基礎英語」テキストにて好評連載中です。「本がひらく」では「基礎英語」テキスト発売日に合わせ、最新話のひとつ前のストーリーを公開いたします。
とある地方都市・白雪町を舞台に、フツーの中学生・エリカたちが巻き起こすドタバタ&ほっこり青春劇!

前回までのあらすじ
「白雪町をよくする会」に参加したエリカとミサト。愛犬を交通事故で亡くしたという、百平の悲しい過去を知る。交通安全を守りたいという主張は正しくても怒鳴るという方法がマズイ、というプリンスの言葉を受け、百平改造計画が始動する。

 夏休み目前となったある朝、学校の前の横断歩道に、背の高い警察官がももへいさんと一緒に立っていた。この前の「しらゆき町をよくする会」で出会ったまつおかさんだ。
 「おはようございます」
 いつもだったら百平さんに見つからないようそそくさと学校に向かうけれど、松岡さんに声をかけても変に思われないだろうから、堂々とあいさつした。
 「あぁ、こないだの。おはようございます」
 松岡さんが帽子をとってていねいにお辞儀する。百平さんはその隣で腕組みをして、黙ったまま横断歩道に目をやっていた。
 「おはよー」
 ちょうどミサトもやってきた。
 「あっ、松岡さん。おはようございます。パトロールですか?」
 「はい。石田さんの活動を見にきました」
 「わしが言うよりも松岡さんが立っているほうが効果があるらしい」
 百平さんが残念そうに言う。たしかに、松岡さんが立っているおかげでみんな赤信号で立ち止まっている。
 「松岡さんが毎日立ってくれたらいいのにね」
 ミサトが言うと、松岡さんは「ほかの業務もあるのでなかなか……」と口ごもった。
 「ばっかもーん!」
 そこへ、百平さんの大声が威勢よく響きわたった。見れば、横断歩道から少し離れたところを中学生が走って渡っている。
 「ちゃんと横断歩道を渡れ! 信号は守れ!」
 いつもの怒鳴り声がはじまると、松岡さんがぎょっとした顔をした。
 「石田さん、気持ちはわかりますが、落ち着いて」
 松岡さんに言われて、百平さんは我に返ったように口を閉じる。百平さん改造計画はまだまだ先が長そうだ。

* * *

 学校は夏休みに入った。暑いなか学校に行かなくていいのはうれしいけれど、仲良くなったクラスのみんなと会えないのはちょっと寂しい。
 部活は平日の午前中、9時から11 時半まである。体育館にはエアコンがついているけれど、それでも暑いものは暑い。
 「交流試合、わくわくするね」
 「さきはな学園ってめちゃくちゃでかいんだよね?」
 来週行われる交流試合では、隣の市にある咲花学園に行くことになっている。中学と高校が一緒になった、大きな学校だ。
 「前に漢検を受けに行ったんだけど、広すぎて迷子になっちゃった」
 部活仲間のシホが言う。
 「えーっ? 1年生だけで行くの、大丈夫かな」
 「先生もついてくるから大丈夫でしょ」
 きっと体育館も白雪中学校より広いに違いない。どんな学校か、楽しみになってきた。

* * *

 そして迎えた交流試合の日、バスケ部の1年生8人は白雪駅に集合した。いつもの体操服とジャージのズボンだけど、学校にいるときよりもそわそわしている。
 「すごい、パスケースもまるぺんさんだ!」
 わたしがICカードを取り出すと、ミサトが気付いて声を上げた。
 「そう! お母さんにネットで買ってもらったの」
 まるぺんさんはわたしとミサトが仲良くなるきっかけになったキャラクターだ。まるぺんさんのおなかに入ったICカードをタッチして、改札を通る。
 「はぐれないでついてきてね~」
 顧問の佐々木先生は30歳ぐらいの女の先生だ。いつもしゃきしゃきしていて、少し怖いときもあるけれど、一緒にいると心強い。
 電車で2駅、そこからバスに15分乗って、咲花学園前のバス停に着いた。
 「ほんとに大きいね」
 ミサトが声を上げる。白雪中学校は校舎と体育館が一つずつしかないのに、咲花学園は校舎だけでもいくつかあるみたいだった。
 佐々木先生は何度か来ているそうで、すいすい歩いている。途中、中庭に大きな噴水があって、わたしたちは「すごすぎ」と笑ってしまった。
 こんな環境で普段勉強とか部活をしている子たちってどんな子だろう。ドキドキしながら体育館に入ると、部員の子たちが駆け寄ってきてくれた。
 「咲花学園バスケ部の1年生です。よろしくお願いします」
 咲花学園の顧問の先生が、「この子たち、ほかの学校と試合するのははじめてなんです」と紹介してくれた。
 「わたしたちは白雪中学校バスケ部の1年生です。こっちも交流試合ははじめてで、超緊張してます!」
 ミサトが大きな声で言うと、笑いが起こってほっとした。
 試合は3試合やって、白雪中は1勝2敗だった。結果は負けだけど、そこまで弱いわけじゃないってわかった。
 「緊張したけど、楽しかった!」
 「ほんとだね」
 ミサトと話をしながらバス停に向かっていると、ふと掲示板に目がとまった。
 「このキャラクター、なんだろう」
 いじめ防止ポスターにも、夏休みの過ごし方のプリントにも、同じキャラクターが描かれている。ピンクの桜みたいなお花が顔になっていて、白いワンピースを着ている。トイレに貼ってあった「きれいに使いましょう」のポスターにも載っていて、気になっていたのだ。
 「先生、このお花のキャラクター、知ってますか?」
 ミサトが佐々木先生に尋ねる。
 「たぶん咲花学園のキャラクターじゃないかな?」

 先生はスマホで検索して、画面を見せてくれた。咲花学園のマスコットキャラクターで、「さきちゃん」というらしい。
 「へぇ~、マスコットまでいるんですね~」
 ミサトが言うと同時に、わたしの頭にピンとひらめくものがあった。
 「ねぇ、百平さんをマスコットにしたらどうかな」
 ペンギンもお花もかわいいマスコットになるなら、怖いおじいさんもマスコットにできるんじゃないだろうか。
 「それいいね! 面白そう!」
 ミサトが興奮気味に言う。完全な思いつきだったけど、悪くない気がしてきた。

* * *

 それ以来、キャラクターを見るとついつい目がいくようになった。お菓子のキャラクター、企業のキャラクター、スポーツチームのキャラクター。わたしたちの生活のそばに、いろんなキャラクターがいる。
 ローズモールにもマスコットキャラクターがいることがわかった。頭のとがった緑の生き物で、両肩に赤いバラをつけている。バラのトゲが本体になっているらしくて、どうしてこうなったんだろうと笑ってしまった。
 ローズモールの本屋で働いているみずかわさんにも百平さんマスコット化計画を話した。
 「すごくいいと思う! ぜひ今度の『白雪町をよくする会』で発表してよ。わたしが勢いよく賛成するから」
 そうか、わたしが発表しないといけないんだ。百平さんがどんな顔をするか、ドキドキしてきた。


この続きは「中学生の基礎英語レベル1」「中学生の基礎英語レベル2」「中高生の基礎英語 in English」11月号(3誌とも同内容が掲載されています)でお楽しみください。

プロフィール
宮島未奈
(みやじま・みな)
1983年静岡県生まれ。滋賀県在住。2021年「ありがとう西武大津店」で第20回「R-18文学賞」大賞・読者賞・友近賞をトリプル受賞。同作を含む『成瀬は天下を取りにいく』が大ヒット、続編『成瀬は信じた道をいく』(ともに新潮社)も発売中。元・基礎英語リスナーでもある。

イラスト・スケラッコ

※「本がひらく」公式Twitterでは更新情報などを随時発信しています。ぜひこちらもチェックしてみてください!