《対談》窪田正孝×二階堂ふみ「物語はいよいよクライマックスへ。戦中から戦後の激動の時代を生き抜くふたりからのエール」――連続テレビ小説「エール」
現在絶賛放送中のNHK連続テレビ小説「エール」は、「六甲おろし」をはじめとするスポーツの応援歌や、ラジオドラマ「君の名は」「鐘の鳴る丘」など数々のヒット歌謡曲の生みの親として知られる作曲家・古関裕而(こせきゆうじ)氏と、その妻で歌手としても活躍した金子(きんこ)氏をモデルに、夫婦の物語を描きます。
当記事は、現在発売中の『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 エール Part2』より、主演を務める窪田正孝さんと二階堂ふみさんの対談をお届けするものです。物語の後半、クライマックスに向けての思いをたっぷり伺いました。
やっぱり音楽でつながっているふたり
窪田 ここまで音は、よく裕一を見捨てないでいてくれたよね。上京して結婚後しばらく、曲を作っても作っても全然採用されなくてもがいていた頃は、音にたくさん支えてもらいました。
二階堂 私、どんなことをしてましたっけ(笑)?
窪田 お尻をたたいてくれたし、いろいろヒントになることばをかけてもくれたよ(笑)。
二階堂 それはきっと音だけの力じゃなくて、早稲田大学の応援部団長だったり、いろいろな人との出会いがあって音も気付けたことだと思います。「エール」の中では、夫婦として決まった関係性に縛られることがなく、周りの人に影響されながら、関係自体もどんどん変化しているような気がします。
窪田 そうだね。だんだん僕も、夫婦というより同志とか仲間とか、そんな意識になってきました。そもそも駆け落ち同然で上京したのはすごく勇気ある行動だと思うんだけど、自分たちそれぞれの道をふたりで決めて歩いていく、そういう人生を選べること自体がすてきだと思います。
上京後、裕一はコロンブスレコードの専属作曲家として働き始めるが、なかなか曲が採用されずスランプに陥る
二階堂 ふたりの間には“音楽"という共通の大事なものがあるんですよね。だから、ケンカをしたり分かり合えないことがあっても大丈夫。実際、音楽でつながっているふたりなんだなと感じるシーンが多いです。音としては、華が生まれることでいったんは歌を諦めることになって、正直、悔しいっていう気持ちもあったんですけど。でもそれを前向きに考えられたのは、やっぱり裕一さんがいるからなんです。
窪田 裕一自身も、音には歌を続けてほしいんだよね。裕一は夢を諦めずに音楽の世界で生きてきて、それは音のおかげでもあるから、音にも夢を諦めてほしくない。その一方で裕一は、父親としてはどうなんだろう……父親らしいこと何もしてないよね。一緒に遊んでるだけで(笑)。
二階堂 寝かしつけたり、髪を結んだりしてくれていますよ。ただ裕一さんは、とっても娘に甘いです(笑)。
窪田 そうだね(笑)。その点、音は母としての意識がちゃんとあるよね。一緒にお芝居していて、母の背中だなとすごく感じる。ただこのふたりは、子どもが生まれた後も、お互いがお互いを大切にできるところがブレなくていいよね。
二階堂 そうですね。華という大事な存在ができて、もちろん変化した部分はあるんですけど。でも、父・母という固定観念にとらわれていないのがすてきです。
きれいごとではない作曲家の人生
窪田 ドラマはこれから戦争の時代に入っていくんですけど、そこで裕一は、たくさんの戦時歌謡を作って世間に名前が知れ渡っていくんです。だから作曲家として大成する夢が、ここである意味かなった。でも自分の作った歌に鼓舞されて、戦いに行って死ぬ人がいるということの重さを、頭では分かっていても、作っているときは実感できていなかったんだと思います。
二階堂 音を演じていても、戦意を高揚させる曲を作ることを、裕一さん自身がどんなふうに考えているのか、感じ取るのは難しかったです。当時の戦争って男性のもので、音は国防婦人会で、その戦う男性を支えるのが女性の美学だみたいなことを言われたりするんです。それに対して音は思うところがあって、このときばかりは、裕一さんと音は同じ方向を向けなかったなと思いました。当時の女性たちも、いろいろな思いを抱えながらわが子を戦地に送り出すしかなかったんじゃないかと思います。その中で音は、自分が影響を受けてきたオペラなど、西洋のものを敵視される状況をつらく思いながら、そのつらさにはなるべく気付かないようにしないと、前向きに生きていけなかったのかなと思います。
「エール」では出演者の生歌も大きな見どころのひとつ。物語の後半でも音の歌に注目!
窪田 裕一は慰問で前線に行って初めて、戦争の悲惨さを痛感することになるんだよね。僕自身も戦中の裕一を演じることで、ひとつの現実を突きつけられた感じがしました。そこでまた、改めて古関裕而さんのすごさも感じているんです。「若鷲の歌」という曲では「見事轟沈した敵艦を母へ写真で送りたい」という歌詞にメロディーを付けていて、すさまじい内容だなと思うんですけど、そこを見ずして古関さんの音楽は語れないというか。戦後に作られた「栄冠は君に輝く」が、僕は大好きなんですけど、それに至るまで、ずっと音楽を作り続けていくということは、決してきれいごとじゃなかったんだということを、今実感しています。
古関さんの名曲のメッセージを伝えていく
窪田 ここから終盤に向けての展開は、僕らも楽しみにしているんですけど、終戦直後に裕一は、責任を感じて曲がまた書けなくなってしまいます。音にあたることも多くなるんですけど、ここでもちゃんと受け止めてくれる。その音のエネルギーはすごいです。
二階堂 音はまた歌を始めますからね! 私自身はもういっぱいいっぱいですけど(笑)。
窪田 そんなことないでしょ~(笑)。ほかの登場人物もそうですけど、これから戦後の困難に立ち向かっていきます。新型コロナウイルスの影響で世界中の人々の元気がない今、まさしく〝エール〟を送れるドラマになると思うんだよね。
裕一と音、ふたりの愛情を受けてすくすくと成長していく華。物語の後半、年を経た3人が描く親子関係にも注目だ
二階堂 今年は東日本大震災から9年、来年は10年目になるということもありますし、今は命とか生きるということを、改めて見つめ直す人が増えていると思います。私たちはこれからの未来が、よりポジティブになれるようなドラマをお届けしたいですね。
窪田 そうだね。戦後の古関さんの名曲から伝えられるメッセージもたくさんあると思います。僕たち自身も物語の中でそれがどう生まれてくるのか、楽しみにしています。
(『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 エール Part2』より再録)
取材・文=大内弓子
プロフィール
窪田正孝(くぼた・まさたか)
1988年生まれ、神奈川県出身。主な出演作に、映画「東京喰種 トーキョーグール」シリーズ、「初恋」、ドラマ「デスノート」「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」など。NHKでは、連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」「花子とアン」、大河ドラマ「平清盛」などに出演。
二階堂ふみ(にかいどう・ふみ)
1994年生まれ、沖縄県出身。主な出演作に、映画「リバーズ・エッジ」「翔んで埼玉」「生理ちゃん」、ドラマ「この世界の片隅に」「ストロベリーナイト・サーガ」など。NHKでは、大河ドラマ「平清盛」「軍師官兵衛」「西郷どん」、「もしもドラマ がんこちゃんは大学生」などに出演。
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