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ミチオ・カク博士の特別インタビュー(前編) 「今世紀中に人類は、火星に住むようになる!」

世界的に高名な理論物理学者であり、科学の伝道師としても人気を誇るミチオ・カク博士の新刊は「宇宙への人類の進出」がテーマだ。邦訳『人類、宇宙に住む』(小社刊、4月25日発売)の刊行にあたり実現した、カク博士への特別インタビューを2回にわたりお届けする。

取材・写真撮影=大野和基

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――新刊の原書タイトルは“The Future of Humanity(人類の未来)”で、今までお書きになった本とくらべると壮大なテーマですね。この本を書こうと思ったきっかけは何ですか。

 地球上のほとんどの生物は絶滅する運命にあります。しかし我々人間には脳があり、意識があります。動物は運命をコントロールすることができませんが、我々にはできます。
 恐竜のことを考えてみましょう。恐竜はスペース・プログラム(宇宙計画)がなかったために絶滅し、今は存在しません。しかし、我々人間にはスペース・プログラムがあります。そして今、この地球という惑星が地球温暖化、核拡散、小惑星衝突という問題に直面しており、この惑星にとどまることがいかに危険であるかを認識しています。私は地球という惑星に何か悪いことが起きたときのために「プランB」という保険が必要だと思うのです。
 以前は「プランB」のための費用は世界を丸ごと破産させるほど高額で、1966年のスペース・プログラムはアメリカ連邦政府の予算の5%にもなりました。これは持続可能ではありません。しかし、宇宙開発技術の進展のおかげでコストがどんどん下がり、これまで本格的に宇宙開発に参入してこなかったインドのような国でさえも約7,000万ドルで宇宙探査ロケットを火星にまで送ることができます。
 一方、映画“The Martian”(2015年『オデッセイ』)は製作費が1億ドルかかっていますから、今ではハリウッド映画の方が火星に行くスペース・プログラムよりも高いのです。
 我々は今、宇宙探査の新たな黄金時代に入っています。シリコンバレーのビリオネアたちは、月に行ける宇宙船の建造に投資しています。これは民間の宇宙船で、宇宙探査の最初の時代には想像もできないことでした。だから私は、人類の未来は宇宙にあると思っています。

――それがこの本を書きたいと思うきっけかになったのですね。

 そうです。私は子どものころアイザック・アシモフの“The Foundation”(『ファウンデーション』)を読みましたが、実業家のイーロン・マスクも同じ本を読んでいます。私と彼は「人類が多くの惑星に向かう、宇宙文明になったらどうだろうか」と考えているのです。有名な天文学者の故カール・セーガンにインタビューしたとき、彼は「銀河系を植民地化する必要はない。それには時間とお金がかかりすぎる。でも地球に何か起きたときのために2つの惑星の種族になるべきだ」と言っていました。
 イーロン・マスクはビジョンを持っています。ビジョンを抱いたビリオネアがここにいるのです。彼は多惑星文明を創生しようとして、いわゆるBFRロケット(Big Falcon Rocket)に大金を投じています。BFRロケットは実際に火星に行けるロケットです。
 他方、アマゾンのジェフ・ベゾスは地球を公園にするビジョンを抱いています。地球を汚染する重工業を宇宙で行うようにすれば、地球は公園なります。彼はすでに月への配送サービスの土台をアマゾンで作っています。

――本書には読者の好奇心をくすぐるテーマがたくさんありますが、ズバリこの本の主眼は何でしょうか?

 まず宇宙探査が進んでいるスピードを考えると、1年、2年先の未来を見るのではなく、20年、30年先の未来を見ないといけないということです。
 それから以前は宇宙飛行士がヒーローでしたが、民間企業が参入する今日のヒーローはビリオネアです。ある意味では、(国家だけではなく)我々が、我々自身の未来を計画する時代なのです。
 宇宙船の土台を築いているのは物理学者です。故スティーヴン・ホーキングはレーザービームを使って他の惑星に行けると考えていました。切手くらいの大きさのチップを帆につけた小さな宇宙船にレーザーを照射すると、光速の20%の速度で進み、20年後にはケンタウルス座アルファ星系に到達することができます。
 NASAは火星をテラフォーム(地球化)するのに何が必要であるかをすでに研究していて、火星を「エデンの園」にしようとしています。もちろんこれは何世紀というスケールの話ですが、方策はすでに考えられています。寒冷な火星の大気を人類が住めるようにするには何が必要か。計算では、火星の大気温を6度ほど上げると、温室効果により自動的に温度が上昇するはずです。
 イーロン・マスクは非常に気が短く、すぐにでも火星に100万人くらいの人を入植させたいと考えています。それはいささか早すぎると思いますが、本書の主眼はまさにそこにあります。つまり、火星をテラフォームするのに必要な基礎科学を示すことです。これはもうSFではなく、まじめな科学者が具体的に取り組んでいる話です。

――実際に火星をテラフォームするには何が必要でしょうか。

 火星は凍結した砂漠で、大気は地球の大気の1%の密度です。火星の大気の主要成分は二酸化炭素なので、そのままでは呼吸ができません。まず大気の温度を上げてから、極の氷冠を溶かし、液体の水が火星の表面を自由に流れるようにする。そうすることで農業が可能になり、酸素を作り出せるようになります。

――火星に住めるのはどれくらい先になるでしょうか。

 まず2025年までに月の周りにゲートウェイ(宇宙ステーション)をつくる。それが火星に行く宇宙船の発射台になります。2030年代には宇宙船が実際に発射されるでしょう。イーロン・マスクはもっと早く実行したいようです。彼が持っているBFRロケットは月を中継せず、一気に火星まで到達する性能を備えています。

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NASAのディープ・スペース・ゲートウェイのイメージ ©NASA

 おそらく今世紀中には数百人が火星の表面に住むでしょう。来世紀にはロボットを使ってそれを拡大し、都市を作る。AIがこのプロセスを加速すれば、来世紀には火星に恒久的な入植地ができるでしょう。次回は宇宙開発をさらに進めるのに必要なことや、地球外生命についてお話しします。

(つづく)

プロフィール

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©Andrea Brizzi

ミチオ・カク
ニューヨーク市立大学理論物理学教授。ハーヴァード大学卒業後、カリフォルニア大学バークリー校で博士号取得。「ひもの場の理論」の創始者の一人。『超空間』(翔泳社)、『アインシュタインを超える』(講談社)、『パラレルワールド』『サイエンス・インポッシブル』『2100年の科学ライフ』『フューチャー・オブ・マインド』(以上、NHK出版)などの著書がベストセラーとなり、『パラレルワールド(Parallel Worlds)』はサミュエル・ジョンソン賞候補作。本書 TheFuture of Humanity は『ニューヨーク・タイムズ』ベストセラー。BBCやディスカバリー・チャンネルなど数々のテレビ科学番組に出演するほか、全米ラジオ科学番組の司会者も務める。最新の科学を一般読者や視聴者にわかりやすく情熱的に伝える力量は高く評価されている。

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