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主演・長谷川博己(明智光秀 役)×坂東玉三郎(正親町天皇 役)対談――麒麟を求める心が、美しいふたりをつなぐ。(大河ドラマ「麒麟がくる」 完結編)

 大河ドラマ「麒麟がくる」はいよいよ終盤。新たな人物も登場し、各々が考える治世に向かい動き始めます。なかでも、長谷川博己さん扮する明智光秀は、織田信長を介して時の帝・正親町天皇を意識するように――。天皇を演じるのは、テレビドラマ初出演の坂東玉三郎さん。数少ない天皇関連の史料からつくりあげていったという、玉三郎さんの役づくりへのこだわりは、長谷川さんも「すごく影響を受けました」と言うほど。
 長谷川さんと坂東さんの演技に対する考えや、お二人の意外な関係まで、『NHK大河ドラマ・ガイド 麒麟がくる 完結編』の巻頭対談で大いに語っていただきました。当記事ではその一部をご紹介します。

正親町天皇は美しいものの象徴

長谷川 玉三郎さんのことは生前父から話を聞いていたんです。
玉三郎 ええ、親しかったですから。博己さんのお父さんは建築史家の長谷川堯(たかし)さん。堯さんとは、僕が20歳くらいのときに芸術雑誌で対談してから親しくなり、博学な堯さんにいろいろなことを教わりました。
長谷川 父は『建築−雌の視角』という著書で、坂東玉三郎論も書いていますよね。僕は読んでなくて、すみません(笑)。
玉三郎 ふふ(笑)。堯さんが大学教授などの仕事で忙しくなってからはご無沙汰が続いていましたが、僕が見つけたわけですよ、博己さんの存在を!
長谷川 はは(笑)。
玉三郎 役者になった博己さんのプロフィールを見て「堯さんの息子さんだ!」って。それで久しぶりに堯さんに電話したの。
長谷川 そのおかげでおつきあいが始まって、ありがたいです。
玉三郎 博己さんが「麒麟がくる」の主役に決まったと聞いたときは、冗談で「私も出ようか」なんてね。それが本当になっちゃった。残念ながら堯さんは昨年亡くなられましたが、僕たちを見てくれていますよ。

写真2

長谷川 父は玉三郎さんとの共演を強く望んでいたので、そうだといいのですが。明智光秀は玉三郎さんが演じる正親町天皇に拝謁できるような身分ではないけれど、どこかで一緒のシーンがあったらうれしいです。正親町天皇はドラマの中で美しいものの象徴として描かれますが、これ以上の方はいらっしゃらないなと思いました。
玉三郎 大変なプレッシャーです(笑)。テレビドラマは初めてなので、制作陣と打ち合わせやカメラテストを入念にさせてもらいました。私が映像作品で心がけるのは「表現しない」こと。脚本家の思いを飲み込んだうえで、現場ではただ「居る」だけ。あとは監督やカメラマンが切り取ってくれる。そこが、表現して「魅せる」歌舞伎と違うところかなぁ。
長谷川 玉三郎さんの撮影を拝見しましたが、神々しく、佇まいから霊的な何かを感じました。
玉三郎 ありがとう。正親町天皇はある種、神秘的で解明しにくい存在ですが、装束を含めて細部に至るまで制作陣と突き詰めました。歌舞伎に代表される古典の成り立ちは、細部の積み上げなんです。全体をつかむうえでも形の隅々に気が届いていないといけないし、しつらえた形に自分が負けてはいけない。そして形を整えていることを観衆に分からせてはいけない。
長谷川 聞き入ってしまう話ですね。本当に、ディテールを突き詰める玉三郎さんの姿にすごく影響を受けました。ただ、僕は時間との戦いもあって……。
玉三郎 分かります。主役は撮影量が膨大だものね。
長谷川 はい。でも、できる限り細部に気を配らなきゃいけないと改めて思わされました。

世の中は、醜いか美しいか、どちらかだ

長谷川 池端俊策先生の台本は、「こんなこと言っていいの?」と思うようなセリフが突然さらっと出てきます。ドキッとしたのは「世の中は、醜いか美しいか、どちらかだ」という伊呂波太夫のセリフ。考えてみれば、光秀は理想主義者でユートピアを求めていますから、美しい行いのもとで美しい世をつくりたい。だから、金と権力にまみれた僧の覚恕などを見ると、行いの醜さに眉をひそめてしまう。
玉三郎 覚恕は正親町天皇の弟ですが、彼とは対照的に、帝(みかど)は武家にパトロンになってもらわないと御所の修繕もできないありさま。私はそれを初めて知ってショックでした。ただ、お金がなくてもひたすら背筋を伸ばしている帝と、世俗にまみれて生きている僧侶の覚恕。行いの美しい醜いは明らかです。
長谷川 はい。そして光秀は常に美しいものと醜いものの間に立たされる。そこには単純に片づけられない思いもあって……。
玉三郎 そこが難しいですよね。正親町天皇と覚恕は象徴的で、私は池端先生の潜在的な思いがにじんでいる気がするんです。覚恕の行いは醜いけれど、単純に善悪で分けられない。正親町天皇は弟のことをおぞましく思っているんじゃなく、切なく思っているんじゃないかな。
長谷川 分かります。なかなか言葉で説明しにくいですが。
玉三郎 もしかしたら、この兄弟は2人で1人なのかもしれない。台本の中で、「これは、朕(ちん)と弟との戦いやもしれぬ」という正親町天皇のセリフがありますが、帝自身の心の戦いということでもあるんだと思います。

写真3のコピー

長谷川 その正親町天皇を、光秀は織田信長を介して意識します。想像するに、武家の頂点は将軍だと思ってきた光秀が、帝に神的なものを見いだすんじゃないかと。その意味でも帝は玉三郎さんでなくてはならなかった。なんというか、人であって人ではないような(笑)。
玉三郎 だからプレッシャーなんです(笑)。表現しないでそう見えなくてはならないから。で、どう存在すればいいのか池端先生に聞いたの。そしたら「帝は万葉の昔に戻りたいと思っている人」とおっしゃった。
長谷川 万葉の昔……。
玉三郎 だから光秀と通じ合えるんだと。光秀は詩歌に通じた人ですからね。正親町天皇と心が近いのは、信長より光秀だと。
長谷川 なるほど。
玉三郎 とにかくそんなふうに池端先生にいろいろ伺いました。どんな思いを持った人なのか〝芯〟が分かっていないと、どう演じていいのか分からないですから。
長谷川 そういう意味では、僕は前半は光秀の芯をあえて定めず、瞬間瞬間の感情を大事に演じてきたんです。次のシーンとつながらなくてもいいやというくらいの気持ちで。でも途中から意識が変わっていました。
玉三郎 ここまで来るとね。
長谷川 はい。これまでの積み重ねがあるし、自分なりに考え、調べたりもして、確信を持って演じるようになっています。

写真1のコピー

(『NHK大河ドラマ・ガイド 麒麟がくる 完結編』に続く)

取材・文=髙橋和子 撮影=平岩 享

プロフィール
長谷川博己(はせがわ・ひろき)

1977年生まれ、東京都出身。文学座附属演劇研究所に入所し、2002年に「BENT」で初舞台。以降、テレビや映画で活躍中。主な出演作に、ドラマ「家政婦のミタ」「運命の人」「MOZU」「デート~恋とはどんなものかしら~」「小さな巨人」、映画「シン・ゴジラ」「半世界」「サムライマラソン」など。NHKでは、連続テレビ小説「まんぷく」、「セカンドバージン」「夏目漱石の妻」「獄門島」など。大河ドラマ「八重の桜」では主人公の最初の夫・川崎尚之助役を熱演。

坂東玉三郎(ばんどう・たまさぶろう)
1950年生まれ、東京都出身。歌舞伎俳優。64年、五代目 坂東玉三郎を襲名。歌舞伎界を代表する立女形として活躍中。重要無形文化財保持者。舞踏家、舞台演出家、映画監督としての活動も積極的に行っており、いずれの分野でも国内外で高い評価を受けている。主な出演作に、舞台「ナスターシャ」「エリザベス」「サド侯爵夫人」など。テレビドラマは初出演。

*NHK出版「大河ドラマ・ガイド 麒麟がくる」公式Twitterはこちら

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