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IT批評の第一人者・尾原和啓氏が、 ネットビジネスの現在地と未来を語る

『ITビジネスの原理』や『アフターデジタル』など数々の著書で、ベンチャー経営者やDX関係者、大企業の新規事業開発者らに大きなインパクトを与え続けてきた尾原和啓氏。その尾原氏がインターネット登場から四半世紀のネットビジネスを総括し、未来を見通した完全新作『ネットビジネス進化論 何が「成功」をもたらすのか』が6月27日に発売になります。ネット時代の新しい教養書としても、新規ビジネスのアイデア集としてもお読みいただける一冊ですが、ここでは発売に先駆けて「はじめに」を抜粋してお届けします。

ネットビジネスの進化の系統樹

 GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)が世界の時価総額のトップに君臨し、インターネット広告費がテレビ広告費を超えた現在、僕たちの生活のかなりの部分はネットに支えられていて、もはやライフラインといっていい存在になっています。
 そして、世界経済が新型コロナショックに揺れた2020年5月、GAFAM5社の時価総額が、ついに東証1部約2170社の時価総額の合計を上回りました。各国でロックダウンや外出自粛が続く中で、リアルベースの日本企業が企業価値を下げる一方、ネットを中心としたGAFAMは、むしろ価値を伸ばしたのです。
 とはいえ、この傾向は、コロナによってビジネスや生活様式がまったく新しいものに変わったからというよりは、これから10年単位の時間をかけて起きるはずだった、すべての活動がオンラインになる「アフターデジタル」の世界が、コロナによって一気に実現に向けて動き出したから、と僕は考えています。
 2019年3月に出版した『アフターデジタル』(日経BP)において「もはやオフラインは存在しない」と書きましたが、コロナによって強制的にオフラインを封じ込められた僕たちは、オンラインを中心としたネットビジネスへの進化を余儀なくされています。グーグル、リクルート、楽天執行役員としてネットビジネスの新規事業立ち上げに従事してきた自分の知見が、みなさんのために活かせればと考えています。
 ライフラインとしてのネットビジネスを考えると、コロナ以前の安定成長の時代は、同質な仲間とスクラムを密に組んで力を結集したほうが強かったのですが、激動の時代においては、遠くにいる人たちとつながり合うほうが、想定外のリスクを回避することができます。誰かが災難に巻き込まれても、離れた場所にいる人たちが支えることで、共倒れになることなく、助け合い、前進することができる。先の見通しが立ちにくい変化の時代だからこそ、遠くのものをつなげるインターネットの力を上手に取り込むことが求められているのです。
 しかし、5G、AI、キャッシュレス決済など、これからネットがリアルを上書きしていくアフターデジタル時代に、加速するネットビジネスの進化の行き先がわからなければ、僕らの生活も、リアルビジネスも、ネットの荒波に翻弄されるがままになってしまう。そんな不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。
 たしかに、表面だけを見ていると、たくさんのカタカナ言葉が現れては消えていくように感じるかもしれません。しかし、ネットビジネスの原理・原則まで深掘りしていけば、そこには多くの共通点があることがわかります。それがわかると、この先、ネットビジネスがどこに向かうのか、グローバル企業が目指す一等地に先回りすることも不可能ではありません。
 インターネットの大事な本質の一つは、情報や物を小分けにして、離れていたものをつなげることです。それによって、いままでなかった情報の流れ、物の流れが起こり、そこに新たなビジネスが生まれます。これが、この本を通じてみなさんに伝えたい、いちばん大事なメッセージです。
 では、物を小分けにするとは、どういうことでしょうか。
 わかりやすい例が口紅です。いままでは、口紅を買ったら最後まで使い切るのがふつうでした。ところが、いまは、自分が口をつけたところだけをカッターで切り落として、残った部分をメルカリで売る人がいます。
 4000円で買った口紅も、自分で使った分だけ切り落として、3500円でメルカリに出品する。次の人も、自分が使った分だけ切り落として、3200円で売る。これを何度か繰り返して、同じ商品をみんなで手分けして最後まで使い切るわけです。一人が負担しているのは、わずか数百円です。
 メルカリは、一見するとフリマアプリに見えるかもしれませんが、売り買いが簡単になって、みんなで一つの物を使うようになると、じつは、余った部屋を貸し出したり、空いた時間に車を運転したりしてみんなでシェアする「シェアリングエコノミー」と変わらなくなってきます。
 しかも、口紅を小分けにして売れるようになると、いつもなら買わないような色でも、気軽にチャレンジできるようになります。たとえば、パーティのときにショッキングパープルの口紅を塗って目立ちたいけれど、ふだん使いはできない色だから、買いたくてもなかなか手が出ない。でも、4000円で買って、1回使ったら3500円でメルカリで売ればいいとなったら、試してみたいという人も多いはずです。
 4000円だと冒険するにはハードルが高すぎるかもしれませんが、500円なら試してみる価値はある。失敗しても、お財布はそんなにいたまないから、別の色にもチャレンジできます。そうやって、いろいろ試してみると、自分では思ってもみなかったような色が、じつは、いまの自分にピッタリだという発見があったりするものです。すると、その色に合った服やバッグ、アクセサリーまでほしくなる。それもメルカリを使えば、いろいろ試せるので、納得できるまで探す楽しみを味わえます。
 このように、物を小分けにしてみんなで使うようになると、自分でも知らなかった自分、他人とは違う自分らしさに出会えるかもしれません。
 これが、物を小分けにしてつなげるというインターネットの本質です。インターネットには、情報の流れや物の流れを、よりなめらかに、より効率的にする力もありますが、同時に、より多様で、より過剰にする力も備わっています。いままでは効率的なインターネットが中心でしたが、これからは多様で過剰なインターネットが生み出す豊かな世界を、みなさんも心ゆくまで楽しめるはずです。
 一つの物を小分けにして、みんなでシェアするという「メルカリ」の文化は、日本で生まれました。一つの原作から派生して、みんなで新しいものを生み出す「n次創作」の文化も、仕事のプロセスを小分けにして、一部は自動化し、残りは機能ごとにみんなで分担する「SaaS(Software as a Service)」も、すべて同じように、本質をたどるとシンプルなルールで語ることができます。
 また、企業と人をつなぐB to C型の「eコマース(電子商取引)」も、人と人をつなぐC to C型の「SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)」も、離れていたものをつなげるインターネットの本質から必然的に導かれたサービスです。
 では、「何」を小分けにしてつなげるのか。「誰」と「誰」をつなげるのか。そういう基準で分類したのが、「ネットビジネスの進化の系統樹」(図1)です。

図1

 生物の進化が、一つの種から枝分かれして、多様な世界を生み出していったように、ネットビジネスもさまざまな要素で枝分かれして、現在の多様な世界をつくり出しています。
 この系統樹が、そのまま本書の章立てになっています。その一つひとつをひもといていくことで、「ネットビジネス」という、一見すると多様で複雑で理解しがたいものが、それぞれどういう原理で成り立っているか、理解できます。
 1‐1のポータルから2‐1のC to Cまでは「基礎」なので、できれば最初に読んでほしいです。そこから先は、気になるところからつまみ読みしても大丈夫です。全体は6つのパートに分かれているので、パート単位で読むと、理解しやすいと思います。
 また、読んでいる途中に、もしわからない概念が出てきても、気にしないでどんどん読み進めていただければ、あとでわかるようになっています。進化のジェットコースターを楽しんでいただければ、うれしいです。
 大事なのは、どこが「儲けの一等地」として花開く場所かを知ることです。ネットによってたくさんの人がつながれば、そこにはパワーが宿ります。何かをつなげる接点にいるプレイヤーは、同時にたくさんの人の笑顔を一望できる場所に立つことができます。人が集まれば当然、お金や権力も集まってくるので、おのずと「儲かる会社」になります。結果、儲かることが人気の指標になってくれますし、新たな冒険の可能性を広げてくれるようにもなります。人を笑顔にすることがサービスの中心にあり続ける限り、そのサービスは生存競争の荒波を生き抜き、進化の系統樹に名前を残し続けるでしょう。
 長く生き残れば、それだけ世の中の人たちをハッピーにすることができます。逆に、世の中の人たちをハッピーにできないビジネスは、生き残ることができません。
 その違いを見極めることを楽しんでもらえたら、そして、それがみなさんの役に立てば、うれしいです。

【本書の目次】

はじめに ネットビジネスの進化の系統樹
Part 1 権力:つながりの場所を押さえる

1-1 検索はなぜ権力の一等地なのか――ポータル、スーパーアプリ戦争
1-2 IDと決済を握ったものが覇者となるのはなぜか――キャッシュレス決済とフリクションレス
1-3 次の主戦場は信用経済とスモールビジネス市場――イネーブラーと信用スコア

Part 2 コマース:物や予約をつなげる
2-1 人から人へ物をつなげる――CtoCコマースと相互ネットワーク効果
2-2 企業から人へ物をつなげる――BtoCコマース、ロングテール、検索型と探索型
2-3 企業から人へサービスをつなげる――BtoCサービスコマース、ツメの開発、テイクレート

Part 3 コンテンツ:情報をつなげる
3-1 人から人へ情報をつなげる――CGM
3-2 情報をつなげてマネタイズする――コンテンツビジネスとアドテクノロジー、課金モデル
3-3 情報をつなげて遊ぶ――スマホゲームとフリーミアム、eスポーツ

Part 4 コミュニケーション:人をつなげる
4-1 つながりがパワーになる――SNSとブログ、メッセージングサービス
4-2 個人がパワーをもつ時代――インフルエンサーとコミュニティビジネス

Part 5 有限資産をつなげる
5-1 有限資産をなめらかにつなげる――ブロックチェーンとクラウドファンディング
5-2 有限資産を小分けにしてみんなで使う――シェアリングエコノミー

Part 6 B to B:仕事をつなげる
6-1 仕事とデータをつなげる――クラウド、ビッグデータ、SaaS、AI

最終章 これからネットビジネスを始める人へ
あとがき 「横糸」はあなたの「縦糸」を強くするために

※続きは6月27日発売の『ネットビジネス進化論 何が「成功」をもたらすのか』でお楽しみください。

プロフィール
尾原和啓(おばら・かずひろ)

IT批評家。1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのi モード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、グーグル、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任。著書に、『IT ビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』(共にNHK 出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)、『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)、『アルゴリズム フェアネス』(KADOKAWA)、共著に『アフターデジタル』『ディープテック』(共に日経BP)などがある。
*尾原和啓さんのTwitterはこちら

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