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ヨンアさん共感! 「もっと早くこの絵本に出会いたかった」――韓国で大反響の子育て奮闘絵本

はじめての子育てに奮闘する「おかあさん」の姿や日常を、赤ちゃんの側から観察し図鑑ふうに紹介していく『おかあさん観察図鑑』。2021年に韓国で刊行され、大きな反響を呼んだユニークなつくりの絵本が、NHK出版から発売になりました。今回、本書を読み、帯に推薦コメントを寄せてくださった韓国出身のモデル・ヨンアさんに、絵本の感想やご自身の子育てについて、お話をうかがいました。

――ヨンアさんは7歳の息子さんのおかあさんとのこと。『おかあさん観察図鑑』を読んでどのような感想をもたれましたか?

 共感ばかりの一冊でした。絵本のなかのおかあさんと当時のわたしは完全に一緒です。
 子どもが産まれてはじめの1年は、とにかく心配で、息子から一時も離れられませんでした。少しでも泣いたら「どうしよう!」と大騒ぎし、パニックになることも。お風呂に入るとき、小さな息子から目を離すのが不安だったので、浴室のドアの前にベビーベッドを移動したこともあるくらいです。
 絵本のなかに描かれている、おかあさんが赤ちゃんを抱えてトイレに入る様子や、あらゆることに神経質になる様子に、いちいち「わかるわかる」とうなずきながらページをめくりました。「食」のシーンで、子どもの食べる量に対して一喜一憂するおかあさん、当時の自分を思い出して、ウルっとしてしまいました。

「おかあさんは、一日24時間、
わたしにぴったりくっついていようとします。
きわめて個人的なことまで、いっしょにしようとするのです。」

――どのシーンがいちばん印象的ですか。

 「活動」のところに、「おかあさんも『待つこと』をおぼえないといけませんね。」という一文があります。そのシーンかな。
 うちの子、歯が生えるのがすごく遅かったんです。なかなか生えてこないので心配になって病院に連れて行ったところ、先生に「歯がない人に会ったことがありますか? ゆっくり待っていれば、ちゃんと生えてきますよ」と言われました。
 いまも「あの子はできるのに、うちの子はできない」といったように、ほかの子と比べることがあります。自分が子どものころ、まわりの子とくらべられるのが嫌だったのに、そんなことは忘れて、つい周囲と比較してしまう。「こうなってほしい」という思いが強いゆえに、つい焦ってしまう。
 この「『待つこと』をおぼえないといけない」という赤ちゃんのセリフは、そんなわたしに響きました。これまで成長について心配になることはよくありましたが、親がそこまで焦らなくても、子どもはちゃんと成長していくんですよね。わが子のペースを尊重して、わたしも待つことをおぼえようと思いました。

子どもは自分の速度で歩いたり、好きなところで立ち止まったり。
一緒に歩くときだけでなく、成長においても「待つこと」が大切。

――ヨンアさんは、ご自身のおかあさんとどのような関係でしょうか。

 母とは昔から良好な関係で、なんでも話します。韓国を離れて日本に来たときは、まだ10代だったので、ホームシックになることもありました。そんなとき、母が気にかけて頻繁に連絡をくれたり、日本まで会いに来てくれたりしたおかげで、寂しさや辛さを乗り越えることができました。
 今も、定期的に日本に滞在しては、家事や育児を手伝ってくれています。母のサポートのおかげで育児と仕事の両立ができているので、感謝してもしきれません。絵本のなかに、「おかあさん」が自分の母、つまり子どものおばあちゃんの前で、ぐっすり昼寝をするシーンがあって、くすっと笑うと同時に「わたしだけじゃないんだ」と、ほっとしました。この絵本を読んで、「我が子と自分」の日々を振り返るだけでなく、「自分の母」についても思い返すいい機会になりました。母に改めて「ありがとう」を伝えたいです。

――子育て環境について、日本と韓国で違いを感じるところはありますか。あるいは似ていますか。

 日本と韓国で状況は似ているのではないでしょうか。韓国でも、働く女性が増えています。それにともなって、育児をする男性も増えました。昔はあまり見なかったのですが、最近は抱っこ紐で赤ちゃんを抱えるお父さんをよく見ますし、男性が育児に参加していないと、まわりから驚かれる風潮になっています。

――ありのままのおかあさんを描いたインパクトのあるイラストがこの絵本の特徴の1つですが、どのような印象をもたれましたか。

 このイラストはとても気に入りました。だって本当の姿ですよね。髪はボサボサで、しゃれっけのない普段着。わたしも家ではこうです。もし、つねに笑顔で美しいおかあさんが柔らかなタッチで描かれていたら、「日常生活でこんなのは無理」という気持ちが先立って、共感できなかったと思います。疲れている表情もリアルでよかったです。

母親の喜怒哀楽もありのままに。美化されていない描写もこの絵本の魅力の1つ。

――この絵本はどういった読者にお薦めでしょうか?

 子育て中の人、子育てを終えた人もそうですが、これから育児を経験する人にもおすすめです。SNSで「これから出産するのですが、不安でいっぱいなのでアドバイスをください」といった相談を受けることがあります。この絵本をとおして、赤ちゃんはこんなふうにおかあさんのことを見ているんだ、というのを垣間見ることができたら、そうした不安は軽減されるのではないでしょうか。
 わたし自身、本書のなかにある「完璧でなくていい」「ありのままでいい」というメッセージにとても癒されました。もし息子が小さいころに読んでいたら、もうすこし気楽に子育てできたのではないかと思います。
 もっと早くこの絵本に出会いたかったです!

――最後に読者にメッセージをお願いします。

 そうですね……、たしかに息子が赤ちゃんだったころに比べると、ずいぶんと手がかからなくなりましたが、今度は学校のこと、友達関係など、いまだに心配事は絶えません。毎朝の支度は時間との勝負で、毎日あっという間に終わっていきますが、どんなに大変なことがあっても、子どもに巡り会えたことは、わたしの人生でいちばん幸せなことだと感じています。
 この絵本を読んで、それを改めて思い出しましたし、子どもが産まれてからの7年間がこの一冊でとても整理されました。ぜひ、たくさんの人に読んでもらいたいです。

プロフィール
1985年ソウル生まれ。数々の女性誌をはじめ、TVやCMでも幅広く活躍するトップモデル。20代から40代後半と幅広い働く女性層からの支持が特に厚く、業界屈指のファッショニスタでもある。2009~2010年度NHK語学「テレビでハングル講座」出演。2023年に第15回ベストマザー賞文化部門を受賞。


 この絵本に励まされたというヨンアさん。
 作者のクォン・ジョンミンさんは、まさに日々子育てにいそしむ母親を想ってこの作品をつくったそうです。最後に、クォン・ジョンミンさんと、原書の担当編集者であるアン・ギョンスクさんからのコメントを紹介します。

作者クォン・ジョンミンさんより
 
あかちゃんの前で常に笑顔でいられる天使のような母親を見ると、なんとなく気おくれするおかあさん。うまくできなかったと自らを責めてしまうおかあさん。出産前に想像していた、慈しみ深く広い心の母親像と自分とのギャップに戸惑っているおかあさん。そんなおかあさんたちにぜひ読んでほしいです。
 おなかの中から出てきたあかちゃんが世界をはじめて体験するように、おかあさんもまったく新しい世界に投げ出されます。これまで得た知識がまったく役に立たない。そんな中でも「母親ならこれくらいはやらないと」という声が自分の内側から聞こえてきます。
 しかし、完全無欠な母親像は世間からの要求にすぎません。この本にはわが子の前であわてる母親、ミスだらけでたまには泣いてしまうこともある一人の人間の姿が盛り込まれています。世間の期待に応えようとして、あまり努力しないでください。完璧な母親なんて存在しません。不完全でも大丈夫です。

担当編集者アン・ギョンスクさんより
 
『おかあさん観察図鑑』は、出産後ぶっつけ本番で迎えることになった子育てのあらゆる瞬間、すべての「はじめて」をおかあさんが受け止め、全身で体験してきた瞬間を盛り込んだ絵本です。
 突然降ってきた「おかあさん」という肩書きを握りしめ、ときに涙をぬぐいながら孤軍奮闘している新生おかあさんたちには無限の応援を、過ぎ去った子育ての日々を思い出し、当時の自分に後悔と自責を感じている人たちには温かい慰めを送りたいです。また、子どもたちには、おかあさんが経験してきた時間を知るきっかけになればと思います。
 自分と自分の子ども、あるいは自分と自分の母をつなぐかけ橋になればうれしいです。

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