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日本でもニーズ・知名度急上昇中! ナチュラリスティック・ガーデンとは?

すてきな庭だと感じても、どんな植栽なのか、どんな考え方なのか、じつはよくわからない……。
そんなナチュラリスティック・ガーデンの「教科書」『PLANTING: A NEW PERSPECTIVE』の邦訳『ピート・アウドルフの庭づくり』が10月25日に発売になります。
翻訳を務めた永村裕子さんに、本著の内容や魅力をたっぷりお聞きしました。
※NHKテキスト『趣味の園芸』11月号より一部抜粋・再編集したものです。


ナチュラリスティック・ガーデンを学ぶ、絶好の書

──そもそもナチュラリスティック・ガーデンとは何でしょう?
 ナチュラリスティック・ガーデンは、植物本来の姿でつくる景観と四季の展開を動画のように堪能する、一つの確立されたジャンルといえます。施肥や消毒、誘引など管理の難しいバラなどの園芸植物中心の庭や、植物のコレクションのような庭とは対照的に、より丈夫な宿根草やグラス類を、品種を絞ってふんだんに使います。

──まえがきの「植物のダイナミズム」の語が印象的です。
 ダイナミズムは「動的」、つまり常に躍動感や変化があることを意味します。動的な植栽は、日々や季節の、また経年の変化も受け入れながら、植物の成長(ときに衰退)を観賞します。季節の変化の中には、冬枯れ、春の芽出しなど、従来は観賞の対象にならなかった時期も含まれます。経年変化の中には、より勢力の強い植物がふえ、弱いものが淘汰されるような変化も許容することが含まれ、「静的」なガーデニングにはないところです。自然と対話しながら臨機応変にコントロールし、つき合っていく柔軟性と忍耐力が求められます。
 例えばピートさんの植栽では、冬枯れの姿も、無造作に選んだ植物が勝手に枯れたのではなく、構造植物(堅くて冬枯れの状態でもしっかりと立ってシルエットをつくれる植物)とフィラー植物(構造的に繊細で、初夏などシーズン初めに、花の彩りなどで空間を埋めてくれる植物)との黄金比率を7:3としているなど、緻密な植栽が行われています。これは伝統的な英国庭園とは逆の比率。構造:フィラーの比率を逆転し、秋から初春の姿までも観賞シーズンとして引き延ばすことで、多年草花壇・植栽は見どころを通年で提供するようになりました。

スティパ・ギガンテア(写真上部で扇形に輝くグラス)は、真価が十分に評価されるよう、ほかのグラス以上に正しく配置されるべきだ。緯度が高ければ高いほど、側面や背後からの光線がスティパ・ギガンテアをより効果的に照らすため、成功しやすいといえる。左側の深い青はアガスターシェ ‘ブルー・フォーチュン’。この庭はアイルランド西部にある。

有名シェフがレシピを公開しながら詳しく説明してくれているような、贅沢な書籍

──翻訳に至った経緯とピートさんから影響を受けた点は?
 著者のピートさん、ノエルさんともに数十年来の親交があります。2020年によみうりランド内HANA・BIYORIのガーデンをピートさんにデザインしていただきましたが、じつはそもそも、本著の原書に、私は日本の情報提供として関わっているんです。日本でもナチュラリスティックな植栽への注目度が徐々に上がってきましたが、一方で、いろんな解釈が聞こえるようになり、混迷してきたとも感じて、そろそろ基本をしっかり伝えるべきときが来たと思いました。
 ピートさんの作品に関わりながら、ガーデンは試行錯誤や各所からの集合知に助けられながらつくり上げていく必要があることも再認識しました。今回、翻訳作業でもお世話になった、ナーセリーマンの鈴木学氏、同志の月ケ洞利彦氏にはいつも助言をいただいています。ピートさんがときどき口にする「植物が人と人をつなげる」というコンセプトも実感する場面が多く、人の輪の広がりに感謝しています。

スクテラリア・インカナの青色は独特で、非常に特別である。夏の中ごろから後半にかけて開花し、後ろのアネモネ×ハイブリダ(シュウメイギク)‘パミナ’のようなピンク色とすばらしい調和を生み出す。朝日がこれらの花々に特別な輝きを与えているとはいえ、左側にあるサンギソルバ‘タンナ’との組み合わせは、さらに魅力的だ。

──日本でも応用できますか?
 ガーデナーが主体となり、コツコツ積み上げて拡張するガーデンに、私は敬意をもっていますが、限定的な条件でつくられたガーデンなので、そうそう他人には模倣できません。対照的に、ピートさんのデザインは、フォーミュラ化して図面に落とし込んであり、本人不在でも技術者がいれば実施できます。また本著にあるデザインの法則や植物コミュニティの構成などを読み込んで、日本でも育つ植物に置き換えて挑戦することも可能だと思います。
 そして、少なくとも3年はじっくり観察しながら、焦らずに植物を育てることです。その点では、家庭の庭はガーデナー本人の裁量ですから、気長に挑戦しやすいでしょう。

エキノプスの完全に球形のボールは、あまり長もちせずすぐに個々の種子に砕け散るにもかかわらず、空または明るい背景にシルエットとして描かれ、あらがえない魅力がある。全体にとても秋らしいこのシーンは、ペルシカリア・アンプレクシカウリス ‘アルバ’ の花によって照らされており、その形状が踊っているように見え、軽やかさを強調している。フンメロにて。

──読者へのメッセージを。
 ピートさんがこんなにも多くの図面を公開しながら、植物の組み合わせ方や選び方、一年の見どころを長続きさせる構成などの詳細を網羅した書籍は、とても勉強になります。それは、有名シェフがレシピを公開しながら、食材や調理方法を詳しく説明してくれているのと同様に贅沢なものです。
 欧米での事例が多いので、温暖な日本での応用には注意が必要ですが、鈴木氏の助言と自身の経験をもとに一部訳注を加えてあります。ナチュラリスティック・ガーデンは現在進行形で進化し、本場では次世代のデザイナーも台頭してきています。本著が起点となって、日本でもこのような植栽が定着・発展し、そしてハイレベルの実践者が育ち、ふえることを願っています。


永村裕子(ながむら・ゆうこ)
景観デザイナー。英国でベス・チャトー氏に師事。ヨーロッパや中東の造園設計事務所に勤務。現在は熊本市を拠点に植栽デザインと管理を実践しながら、海外でのコンテスト植栽も請け負う。よみうりランド「HANA・BIYORI」の「PIETOUDOLF GARDEN TOKYO」ヘッドガーデナー。

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