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第三次産業革命とは何か?――いま進行しつつある経済のパラダイムシフト(『グローバル・グリーン・ニューディール』より)

 本日、8月2日付の「朝日新聞GLOBE」に『グローバル・グリーン・ニューディール』の著者、ジェレミー・リフキン氏のインタビューが掲載されています。世界経済を脱炭素化し、再生可能エネルギーによって再活性化するビジョンを示した同書のなかから、現在起こりつつある「第三次産業革命」と、それを構成する三つの要素について概観した部分を抜粋公開します。

第三次産業革命のパラダイム

 歴史における大きな経済的転換には共通点がある。それは通信手段、動力源、運搬機構という三つの要素を必要とするという点であり、これらの要素が相互に作用することで、システム全体がうまく機能する。経済活動も社会生活も、通信なしには管理ができず、エネルギーなしには動力が供給できず、輸送とロジスティクスなしには移動できない。この三つの運用システムが、経済用語で言う「汎用技術プラットフォーム」を構成しているのだ。通信やエネルギー、移動インフラが新しくなれば、社会の時間的・空間的方向性、ビジネスモデル、管理・運営のパターン、構築環境〔自然環境に対して人工的な環境〕、居住環境、そして物語(ナラティブ)のアイデンティティも新しくなる。
 19世紀には、蒸気機関で稼働する印刷機、電報、豊富な石炭、蒸気機関車による鉄道システムが嚙み合って汎用技術プラットフォームを形成し、社会の管理、動力供給、移動がなされた結果、第一次産業革命が起こった。20世紀には、集中型の電気、電話、ラジオとテレビ、安価な石油、そして道路網を走る内燃機関を搭載した車が、第二次産業革命を支えるインフラを形成したのである。
 そして今、私たちは第三次産業革命のただなかにいる。商業用、居住用および工業用などの建物群に組み込まれた「IoT」(Internet of Things=モノのインターネット)のプラットフォームの上に、デジタル化されたコミュニケーションのインターネット、デジタル化された再生可能エネルギーのインターネット(動力源は太陽光と風力)、およびデジタル化された輸送/ロジスティクスのインターネット(自然エネルギーを動力源とし、自動化された電気自動車や燃料電池車を輸送手段とする)が一体化し、21世紀の社会と経済を変えようとしているのだ。
 あらゆる機械や装置にはセンサーが取りつけられ、すべての「モノ」がすべての人間と結びつけられた結果、脳の神経回路網にも似たデジタルネットワークが、グローバル経済全体に張りめぐらされようとしている。すでに資源の流通経路や倉庫、道路システム、工場の生産ライン、送電網、オフィス、家庭、店舗、車両などには何十億、何百億ものセンサーが取りつけられ、24時間休むことなくその状態や稼働状況をモニターし、新しく生まれつつあるコミュニケーション・インターネット、再生可能エネルギー・インターネット、および輸送/ロジスティクスのインターネットにビッグデータを供給している。2030年には、数兆個ものセンサーが人間と自然環境を結びつけ、地球規模のインテリジェント・ネットワークが出現する可能性がある。
 あらゆるものをすべての人と結びつけるIoTがもたらす経済的恩恵は膨大だ。この拡大したデジタル経済においては、個人も家族も企業も、家庭や職場でIoTとつながり、WWW(World Wide Web)上に流れるビッグデータにアクセスできるようになる。このビッグデータは、供給(サプライ)チェーン〔財やサービスが原材料調達、生産・流通を経て消費者に届くまでの一連の流れ〕、生産とサービス、そして社会生活のあらゆる側面に影響を与える。個人や企業はビッグデータを自分なりの方法で分析して必要な情報を取り出し、効率や生産性を上げ、CO2排出量を減らし、財やサービスの生産、流通、消費および廃棄物の再生利用にかかる「限界費用(マージナルコスト)」を削減することで、新たなポスト炭素グローバル経済において事業や家庭をより環境にやさしく、効率的なものにすることができる(限界費用とは、固定費〔生産量の多少にかかわらず固定的にかかるコスト。工場・機械などのための利子、減価償却費、広告費など〕を別にして、財やサービスを追加的に一ユニット生み出すのにかかる費用のこと)。
 さらに、この環境にやさしい(グリーン)デジタル経済において、ある一定の財やサービスの限界費用はゼロに近づき、その結果、資本主義システムは根本的な変革を余儀なくされる。経済学では、企業が財やサービスを限界費用で売るのが最適な市場であると教えている。企業は、生産と流通にかかる限界費用を削減する新しいテクノロジーや、その他の効率向上手段を導入することで、売り値をより安くし、市場シェアを増やし、投資家に十分な利益を還元しようとする。
 ところが経済学者にとってまったく想定外だったのは、汎用技術プラットフォームにおける財やサービスの生産と流通の効率が極限まで向上して、限界費用が急落することだった。その結果、利益率が劇的に縮小し、資本主義のビジネスモデルの存在が危うくなる日がくるなど、彼らは予想もしていなかった。限界費用がほぼゼロに近づけば、市場はあまりにも低迷し、ビジネスメカニズムとして意味を失ってしまう。これがまさに、第三次産業革命がもたらすものなのだ。
 市場とは、取引機構であるとともに、そのスタートと中断を司る機構である。売り手と買い手がある時点において出会い、取引価格を決定する。財の引き渡しまたはサービスの提供が行われると、両者はその場から立ち去る。取引と取引の間の中断時間は、固定間接費やその他の費用にとっては損失時間であり、その間売り手は宙に浮いた状態にある。生産コストの損失は別にして、売り手と買い手を再び出会わせるのにかかる時間と費用を考えてみよう――宣伝費、マーケティング費、財の保管費用、ロジスティクスとサプライチェーン全般における中断時間、およびその他の間接費がかかる。限界費用と利益の縮小という現象が起きているというのに、売り手と買い手の間の一回限りで中断時間の多い売買取引が行われる従来型の市場は、デジタル的に強化された高速のインフラにおいては、まったく役に立たなくなってしまう。第三次産業革命においては、財の「取引(トランザクション)」は、連日24時間体制の切れ目のないサービスの「流れ(フロー)」に道を譲るのだ。
 この新しい経済システムでは、所有権はアクセスに取って代わられ、市場における売り手と買い手は、部分的にネットワークにおけるプロバイダーとユーザーに取って代わられる。プロバイダー/ユーザー・ネットワークでは、産業や部門は「専門化した能力」に移行し、これらの能力はプラットフォームに集結してスマート・ネットワークにおける財とサービスの途切れないフローを管理し、システムのいたるところで連日24時間体制で行われる「交換(トラフィック)」を通じて、十分な利益を――低い利益率であっても――もたらす。
 しかし、一部の財やサービスの利益率は限りなく「ゼロ」に近づくため、資本主義ネットワークにおいてさえ、利益はほとんど存在しなくなる。そこで生産され流通する財やサービスは、ほとんど無料になるからだ。これはすでに現実になりつつあり、「共有型経済(シェアリングエコノミー)」という新しい現象を生み出している。一日のどの時間をとっても、世界中で何億という人々が自分の音楽やユーチューブの動画をつくったり、ソーシャルメディアに投稿したり、リサーチしたりして、それをシェアしている。無料の大規模オンライン公開講座MOOC(ムーク)に登録して、有名大学の教授の教えを受ける人もいる。大学の単位は多くの場合、無料で取得できる。必要なものはスマートフォンとサービス・プロバイダー、そして電源――それだけだ。
 世界中で、太陽光や風力による自家発電を行う人も増えている。自家消費するだけでなく、余った電力を売電に回すこともできる。そしてここでも、限界費用はほとんどゼロに近い。太陽や風から請求書は送られてこないのだから。ミレニアル世代のなかには、住む家や乗り物、服、道具、スポーツ用品をはじめ、さまざまな財やサービスをシェアする人たちが増えている。シェアリング・ネットワークのなかには、配車サービスUber(ウーバー)のような資本主義原理に基づくプロバイダー/ユーザー・ネットワークもある。ここでは利用者とサービス提供者を結びつける限界費用は限りなくゼロに近いが、サービスへのアクセス一回ごとの価格を決めるのは、サービス提供者である。また、メンバーが互いに財やサービス、知識を無料で共有する非営利あるいは生活協同組合型のシェアリング・ネットワークもある。何百万人もの個人の知識が蓄積され、共有されるウィキペディアは無料で利用できる非営利のウェブサイトで、世界第五位のアクセス数を誇る。
 こうしたバーチャルおよび有形の財のシェアリングは、これからの循環型社会の土台となるものだ。シェアリングによって、人類が使う資源の量をはるかに小さくできるだけでなく、使わなくなったものを他人に譲ることでCO2の排出量を大幅に減らすこともできる。共有型経済はグリーン・ニューディール時代の要となる特徴なのだ。
 共有型経済は今はまだヨチヨチ歩きの状態にあり、今後多方面に進化しようとしている。だがこれだけは確実にいえる。共有型経済は、コミュニケーション、エネルギー、そして輸送のデジタル化されたインフラによって生み出された新しい経済的現象であり、今や経済生活を変えつつあるということだ。この点において、共有型経済は18世紀と19世紀に資本主義と社会主義が出現して以来、世界の舞台に登場する初めての新しい経済システムなのである。

※続きはぜひ『グローバル・グリーン・ニューディール』でお楽しみください。

プロフィール
ジェレミー・リフキン

文明評論家。経済動向財団代表。過去3代の欧州委員会委員長、メルケル独首相をはじめ、世界各国の首脳・政府高官のアドバイザーを務める。また、合同会社TIRコンサルティング・グループ代表として、ヨーロッパとアメリカで協働型コモンズおよびIoTインフラ造りに寄与する。1995年よりペンシルヴェニア大学ウォートンスクールの経営幹部教育プログラムの上級講師。『エントロピーの法則』(祥伝社)、『水素エコノミー』『ヨーロピアン・ドリーム』『限界費用ゼロ社会』(以上、NHK出版)、『エイジ・オブ・アクセス』(集英社)、『第三次産業革命』(インターシフト)などの著書が世界的ベストセラーとなる。『ヨーロピアン・ドリーム(The European Dream)』はCorine International Book Prize受賞。広い視野と鋭い洞察力で経済・社会を分析し、未来構想を提示する手腕は世界中から高い評価を得る。

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