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大河ドラマ「青天を衝け」主演・吉沢亮「大河でしか味わえない試練に感謝」――『ドラマ・ガイド 青天を衝け 後編』インタビュー

 大河ドラマ「青天を衝け」は、いよいよ渋沢栄一の大きな転機となったパリ行きが描かれ、新たな人物も続々と登場。その間、日本では大政奉還が行われ、明治政府が成立、戊辰戦争が勃発するなど、まさに時代の転換期が訪れます。
 当記事では『NHK大河ドラマ・ガイド 青天を衝け 後編』より、主演を務める吉沢亮さんの単独インタビュー全文をお届け! 約1年演じ続けてもなお、新鮮で考えさせられるという渋沢栄一の人物像や役の捉え方、撮影現場での様子などたっぷり語っていただきました。

血洗島(ちあらいじま)で鍛えた商いのセンスを一橋家で発揮していく栄一

 収録当初を振り返ると、「渋沢栄一さんは何歳のときにこういう行動をとるから、この段階でこう考えていたんじゃないか?」などと、彼の人生を逆算しながら演じていた気がします。でもそのやり方には無理があると途中で気がついて、台本から感じたことを素直に表現すればいいと考えるようになりました。また、初めのうちは渋沢さんをヒーロー視していたところもありました。それは数々の功績の印象が強かったからですが、「青天を衝け」の栄一を演じてみると、彼の周りの人たちのほうがよほどヒーローっぽい。栄一自身は普通の庶民の目線を持った人で、情けないところや、ダサいところも描かれていく。そこがむしろおもしろく、魅力を感じています。
 栄一が強く影響を受けたヒーローといえば、平岡円四郎です。身分にとらわれることなく栄一に接し、世の動きを教えてくれた円四郎は、栄一が百姓時代に嫌っていた偉そうな代官とは大違い。栄一にとって理想の武士像だったのではないでしょうか。円四郎は亡くなってしまいますが、栄一は「おかしれえ」という口癖とともに、彼の魂を受け継いでいくのだと思います。
 円四郎に拾われて一橋家の家臣となった栄一は、一橋家の財政を豊かにするために奔走するようになります。彼らしいやり方で居場所を見つけていくんです。木綿や硝石の商いにセンスを発揮していくシーンでは、「血洗島編」で積み重ねてきたシーン1つ1つを思い出して、演じていて楽しかったです。

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 栄一が血洗島を出て京に移ったことで、見聞きする世界や周囲の人の雰囲気はガラッと変わりました。今後はさらにフランスのパリへと舞台が移りますが、シチュエーションが変わるたびに「栄一ってどういう人?」と考えさせられ、新鮮な気持ちになります。
 意外な人との出会いもあります。土方歳三とは、立場の違いから最初はお互いに気負っていましたが、ともに百姓出身だと分かると地元の話で盛り上がり、意気投合します。土方役の町田啓太さんとは「地元トークでテンションが上がるのって、今も昔も変わらないね」と笑いました。意外な出会いなのに、リアリティーを感じるシーンでした。
 僕が最初から大事にしているのは、栄一の決断の瞬間を丁寧に演じること。横浜の異人街の焼き討ち計画を断念した一件もそうですが、栄一はむやみに自分を押し通すのではなく、状況を的確に判断して軌道修正していく人です。実際、焼き討ちを決行していたら命を落としていただろうし、ギリギリの決断をしながら生き抜いてきた人なんですよね。そんな彼が、パリに行くことを打診されると即決するんです。
 即決したのは、主君の徳川慶喜が将軍に就任したことが関係しています。栄一は慶喜の聡明さや器の大きさをそばで見てきた。だからこそ、方々から責められ、憎まれている幕府の将軍に慶喜が就任することに納得できず、悶々としたと思います。自分自身も一橋家でやっと役に立てる仕事を見つけたのに、慶喜の将軍就任を機に大嫌いだった幕臣になってしまう。そのタイミングでパリ行きを打診され、心が躍ったんだと。それまでは、外国に行くなんていう発想は1ミリもなかったでしょうから。

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 第21回に、パリに行くことが決まった栄一と慶喜が言葉を交わすシーンがあります。草彅剛さん演じる慶喜は、口調も立ち居ふるまいも淡々としていて、その分何を考えているのか分からない。ミステリアスでオーラがあって、草彅さんご自身が放つすごみ、みたいなものもあって、目が合うと緊張します。第21回の台本を読んだときは、それまでの慶喜とのシーンと違う雰囲気を感じて、どんなふうになるだろうと少し不安でした。草彅さんとは事前の打ち合わせもなく収録に臨んだのですが、現場にいたスタッフの皆さんが、「感動した」と言ってくださって。実際、いいシーンになったと思います。慶喜と円四郎の絶妙なカップリングとはまた違った、慶喜と栄一のすてきな関係性を見てもらいたいです。
 栄一のパリ行きは、パリ万国博覧会に出席する慶喜の異母弟・徳川昭武の欧州滞在をサポートするためでした。日本からパリへの船旅は、55日もかかったそうです。それだけの時間をともにすれば、同行した人それぞれの個性が分かったんじゃないでしょうか。なので、「この人とは特に仲よくなったんじゃないか」などと想像しながら、新しく出会う人たちとの距離感を探っていきました。
 この旅での栄一は、お金のやりくりに頭を悩ませたり、異国で日本式のやり方を押し通そうとする侍たちに振り回されたりと、気苦労の連続です。そのうえ、旅の間に遠い日本で慶喜の大政奉還や「戊辰戦争」などが起こってしまう。その様子を手紙から知るしかない栄一のもどかしさや、故郷の家族に対する思い、戦いに身を投じている喜作たちへの思い。やはりそこはしっかり演じていきたいです。

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 一方で、栄一はヨーロッパ文化の何もかもに衝撃を受けたと思います。多くの人の小さな投資が大事業を実現させ、事業がもうかれば、投資者に配当金が戻ってくる。そうした金融システムも学びます。実はそれって、栄一がやってきたことなんですよね。血洗島でも、「この農家の藍葉の出来はいまいちだけれど、投資すれば農家は肥やしを買うことができる。そうすれば来年はいい藍葉が取れて、お互いにもっといい商いができる。みんなが潤って幸せになる」という発想で行動していた。それをヨーロッパの人たちは、どでかい規模でやっている。しかも一般庶民が日常的に投資したり、国王が異国の客に商売の話を持ちかけたりしている。そうした光景を見て栄一は感銘を受けたんだと思います。「攘夷、攘夷」と叫んでいる場合じゃない。先進的な仕組みをちゃんと持って帰って、日本を変えなくちゃいけないと。これが栄一のすごさですよね。彼は何か課題を見つけたときに、「根本を正さなければ」という発想を持つ。だから、帰国した栄一は、その本領を発揮していくんだと思います。

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 パリのシーンは、現地での収録はありませんが、事前にスタッフの皆さんが現地の風景を撮影していますし、大河ドラマのVFXやCGの技術はすばらしいので、リアルな映像を見ていただけると思います。僕自身は、コロナ禍以前に別の仕事でパリに行ったときに、個人的に滞在を延ばして栄一さんゆかりの場所をいろいろと訪ね歩いてきました。その経験が「パリ編」を演じるうえですごく役に立っています。
 栄一の人生を生きてきて、もう1年近くたちます。1つの役をこれほど長く演じたことがないので、経験のない課題に苦しむこともあります。一番は、圧倒的なセリフ量(笑)。しかも幕末当時の言葉が混ざるので難しいんです。それをしっかり覚えたうえで、一定以上の芝居のクオリティーを出さないといけない。役者として基礎的なことを鍛えられている感覚があります。大変ですが、大河ドラマでしか味わうことのできない、ありがたい試練だと思っています。ドラマは今後、人も歴史も激しく動いていきます。栄一と慶喜の心の交流、栄一と昭武の絆、悲しい別れ、新しい出会い。登場人物すべてが魅力的なので、それぞれに感情移入しながら見ていただけるとうれしいです。

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取材・文=髙橋和子 撮影=篠原伸佳、NHKサービスセンター

(『NHK大河ドラマ・ガイド 青天を衝け 前編』より再録)

プロフィール
吉沢 亮(よしざわ りょう)

1994年生まれ、東京都出身。2009年、事務所主催のオーディションで受賞し、芸能界デビュー。主な出演作に、ドラマ「仮面ライダーフォーゼ」「GIVER 復讐の贈与者」「レ・ミゼラブル 終わりなき旅路」、映画「銀魂」シリーズ、「リバーズ・エッジ」「ママレード・ボーイ」「あのコの、トリコ。」「キングダム」「青くて痛くて脆い」「AWAKE」など。NHKでは、連続テレビ小説「なつぞら」などに出演。大河ドラマは初出演。

*NHK出版「大河ドラマ・ガイド 青天を衝け」公式Twitterはこちら

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