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「木」こそが人類の歴史をつくった! 700万年にわたる壮大な物語を解き明かす『「木」から辿る人類史』

 ⽊を多用した温かみのあるデザインが話題となった新国立競技場をはじめ、暮らしに木材を取り入れて、森を育てるエコ活動「木づかい運動」が広がるなど、最近、「木」を身近に感じる機会が増えています。
 木は、はるか昔から、私たち人類の進化と文明の発展に深く関係してきました。なぜ、どのように、人類は木を利用し、今日の社会を築くまでになったのか、その壮大な道すじを解き明かしたのが、『「木」から辿る人類史 ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る』(2021年9月28日発売)です。
 本書より、人間が木からつくったいちばん古いものと、最近の新しいものをご紹介し、700万年にわたる木とわたしたちの歴史をひもときます(本書より一部抜粋・編集してお届けします)。

なぜ、いま「木」に注目するのか?

 人類の進化と歴史のなかでは、「石・青銅・鉄」という3種類の素材がもっとも重要だとされているが、はたして本当にそうだろうか? 石器をつくるために必要な知性や手先の器用さにくらべ、焚き火をおこして調理をしたり、食料をとるために木製の道具を使ったりする工夫や技術は、これまであまり注目されてこなかった。
 ここでは、木と人との関係にフォーカスし、人類の歴史を新たに解釈しなおしてみたい。樹木中心的な見方で世界を見渡せば、わたしたちが何者で、どこからやって来て、どこへ進んでいくのかを、よりはっきりとらえられるだろう。

最古の木製人工遺物とは

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最古の木製人工遺物「クラクトンの槍(やり)」。約45万年前のもの。

 この写真は、大昔に人間が木からつくり、いまも形として残っている最古の木製人工遺物で、長さは約40センチメートルある。一見ただの木の切れ端のように見えるが、先端に向かってなめらかにすぼまっているため、「槍」として使われたのではないかといわれている。
 おそらく、木がまだ乾燥していない生木のうちか、火で焦げ目をつけたあとに、石刃で先端を尖らせたものらしい。このころから、ヒトは道具を使って木からなにかをつくりだすという行動をとりはじめたことがわかる。

チームワークによる狩り

 木製道具は朽ちやすいため、これまであまり発見されず、初期の人類の狩猟能力には疑問符がついていた。おもに動物の死骸で飢えをしのぎ、積極的に狩りをしていなかったのではないか、と思われていたのだ。
 しかし、近年、寒い地域で腐らずに残っていた上の写真のような槍が発見されるようになるにつれ、初期の人類に対する見方は大きく変わりはじめている。美しく成形された多数の木製道具と、獲物らしき動物の多数の死骸が遺跡から発見されるようになり、人類は武器を使ってチームで狩りを行っていた、すなわち高い知能をもっていたことがわかってきたのだ。

 このような槍からはじまって、木舟や木造の家、家具、木造の橋など、歴史上さまざまなものがつくられている。
 人間は太古から木の性質とその利用法について試行錯誤を重ね、木を巧みに使いこなすことで、さらに知能を磨いてきた。人類は、木とともに進化・発展してきたのだ。

世界一高い木造ビル

 人類の発展とともに、鉄筋コンクリートやプラスチックなどの素材が重用され、木は耐久性や利便性の点で劣ると見なされるようになった。
 ところが、いまふたたび、木のもつ温かみや美しさが見直され、すぐれた建築材や新たな工法も開発され、格段に進化した技術によって木は新たに脚光を浴びている。

 たとえば、下の写真のような高層建築にも、木が使われるようになってきた。

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世界でいちばん高い木造建築物「ミョーストーネット」。

 ノルウェーの18階建ての木造ビルで、高さは約85メートル。飲食店やオフィス、ホテル、短期滞在用アパートメントなどから成る複合施設だ。2019年の完成以来、世界中から視察者が訪れている。
 木製の太い桁梁やCLT(Cross Laminated Timber:直交集成板。ひき板を繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料)の厚板などでできていて、コンクリート製の建物にくらべて重量はわずか5分の1ほど。木材なのに、耐火性も従来の建物よりすぐれている。鋼鉄製の骨組ならたやすく融けて崩れてしまうが、木製の桁梁は表面が焦げるだけで内部まで火が回らないのだ。

木でつくる未来

 さらに高い木造建築物の計画もあり、アムステルダムでは21階建てのビルが、ロンドンでは80階建てのタワーが計画されている。
 日本でも、2041年までに都内に木材を主部材とした70階建ての超高層ビルを建設する構想が進められている。まるで、世界一高い木材超高層ビルの建築レースが始まったかのようだ。
 木造建築は、鉄筋コンクリートにくらべ、二酸化炭素の放出を減らし、建築廃棄物の量も大幅に少なくなる。さらに木材は軽いため、輸送のエネルギー効率も高くなるという。
 持続的に木材を使いつづけるために、世界では農地を森林に戻し、適切に管理するなどの運動も進んでいる。そのような森林は、人間が使う木材供給としてだけでなく、生物多様性を高めて野の花や昆虫や鳥のすみかとなり、二酸化炭素を吸収することで気候変動の対策にもプラスにはたらく。
 これまでもこれからも、木と人間は切っても切れない関係を築き上げているのだ。

※本書では、このほかにも多彩な写真や図版を交えながら、さらにくわしく木とわたしたちの関係を読み解いています。

プロフィール
ローランド・エノス

生物学者。イギリス・ハル大学生物科学部の客員教授。動植物の工学的なしくみを研究する生体力学の研究者として、霊長類の木の使用法などを探究する。植物、生体力学、統計学に関する教科書を執筆するほか、自然史学、考古学、工学、建築などを幅広く研究。おもな著書に、ロンドン自然史博物館から出版されたTrees、おもな共著にPlant Lifeがある。イギリスのBBCやアメリカのPBSなどのラジオ科学番組に出演し、木に関する講演も多数行っている。

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