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「海洋ごみ」の実態を世界に突きつけた『プラスチックスープの海』。全人類が知るべき情報がここにある!

「1997年の夏のある日、何よりも海を愛する男のヨットが、太平洋のただなかで高気圧の凪につかまって何日も身動きが取れなくなった。そして男は気づいた。彼のヨットが大量の微細なプラスチックが溶け込んだ海に浮かんでいることに。これがのちに“太平洋ごみベルト”で知られるプラスチックごみ渦流の一部だった」

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2002年の渦流のサンプル
Matt Cramer, Algalita Marine Research Foundation

 2011年に刊行され(日本版は2012年刊行)、全世界に衝撃を与えた『プラスチックスープの海 北太平洋巨大ごみベルトは警告する』。著者のチャールズ・モアはヨットで太平洋を横断中にプラスチックごみが溜まっている海域に遭遇します。それを機に、モアは私設海洋調査財団を立ち上げ、この巨大な「プラスチックスープ」の調査に乗り出したのです。いまなお大きな反響を呼んでいる本書より、一部を抜粋・編集してご紹介します。

なぜ、海にごみが浮いているのか

 ここ数十年で私たちは、砂浜、道路わき、川床のごみを見慣れてしまっている。柵や木の枝にかかったレジ袋、風に転がる発泡スチロールのカップ、いたるところに捨てられたタバコの吸殻とボトルのキャップ……特別有害だとも感じない。不注意なやつがいるなとか、いやな風だな、とか思う程度だ。でも太平洋の真ん中でプラスチックのごみを見るのは、何かがとても変だ。地球上のどこよりも、そんなことがありえない場所のはずだ。
 この時の私は、プラスチックがなかなか腐敗しないことには気づいていたが、そもそもほぼ生分解しないということは知らなかった。熱や化学反応で結合させた炭化水素である人工の重合体は非常に強く、分解されにくい化学物質であることを知るのはまだあとだ。プラスチック製品は割れて破片になり、やがてナノ粒子となって幾世紀も環境を汚染しつづける。生物にとって、これらの永久不滅の粒子は何を意味するのか。自然界に放出されたプラスチックは、沿岸の海洋生物が誤食する危険物であり、生きものにからみつく危険物になっていた。数年前ロング・ビーチの防波堤近くで、哀れな様子でもがいているカッショクペリカンを救ったことがある。釣り針が刺さり、それについたモノフィラメントの釣り糸にからまってしまっていた。
 けれど外洋の只中に漂うプラスチックのかけらは、それだけではなく、食物連鎖の底辺にある自然のプロセスを妨げているのではないかと私は思いはじめた。ただしそのときは、プラスチックの破片が有毒でもあるとは思ってもいなかったのだ。そのことは一般にはほとんど知られていなかった。

 私は、航海中にデッキから見えるプラスチックのかけらをもとにざっと計算したときのメモをさがした。私は7日間続けて、1000海里以上に散らばるプラスチックのごみを目撃していた。この「プラスチックスープ」が直径1000海里の円形状の海域に広がっているとしたら、100平方メートルにつき約230グラムのプラスチックが含まれているとすると、そこには670万トンものプラスチックがある計算になった。これは、当時アメリカ最大のごみ埋立地であるプエンテヒルズに捨てられるプラスチックごみ2年間分の総量と同じである。
 疑問が次々湧き上がる。どこから来たのだろう。陸か? 船舶か? 漁師か? プラスチックごみの海洋投棄が国際法で禁じられているのに? アジアから来たのか、北米西海岸から来たのか? どこか別の場所からか? 漂ってどこかにたまるのか? 罪のない海洋生物の体内に? すでに汚染された砂浜に? それとも海底に? 外洋の表面に永遠にとどまるのか? あのプラスチックスープは、記録的エル・ニーニョのせいで起きた一時的な偶然のできごとなのか? 他の外洋にもこの現象はあるのか? あの始末に負えないプラスチックは生態系に問題を与えているか? 答えを知る必要がある。
 私は再び北太平洋高気圧帯に行く計画を立てた。プラスチックがまだあるかを確かめ、量を調べるためだ。そのときは、この航海が私の人生をまったく違う方向に導くことになるとは思っていなかった。また、太平洋ごみベルトの「発見者」として悪名をとどろかせることになるとも思っていなかった。

レジ袋の害

 世界の人口は70億に達し、その全員が食べなくてはならない。これは大きな問題ではあるが、食品業界にとってはかつてないほどのチャンスである。
スーパーやディスカウント店、そして自然食品店でさえ、中を歩くとポリエチレンなどのプラスチック類の世界に入り込んだようだ。農産物売り場では、少なくとも果物や野菜の半分は袋詰めされたり、ポリエチレンのフィルムに包まれたりしている。一部は、発生するエチレンガスを吸収して外皮の寿命を長引かせる工夫がしてある。あるいは、透明のポリエチレンの袋に自分で入れる。ロールから切り離して袋を取る仕組みは1966年の画期的発明で、それはレジカウンターで渡される袋が紙からプラスチックに変わる10年以上前のことだった。
 見わたすかぎり、プラスチックのパッケージがない場所はない。パン売り場、肉売り場、乳製品売り場、飲料品の通路、薬品売り場、そして身だしなみ用品、洗剤など。冷凍食品売り場では紙のパッケージが多いように見えるが、よく見てほしい。それらは紙にポリエチレンを染み込ませて、湿気に強くしてあるのだ。ほとんどの缶詰はビスフェノールAを重合させたエポキシ樹脂で内側を被覆してある。朝食用の箱入りシリアルは例外だと思うかもしれないが、箱の内側には高密度ポリエチレンもしくは、グラシン紙が使われている。グラシン紙は高圧で蝋を染みこませてあり、蝋はパラフィンであり、パラフィンはポリエチレンと同じ原油の成分から作られる。
 ポリエチレンフィルムの用途は、食品にとどまらない。農家では温室の覆いとなり、遮光クロスとなり、雑草防止シート、黒もしくは透明のマルチにもなる。運送業では積載物の保護や、荷運び台に載せる荷をくるむのに利用する。
 海洋ごみは、陸地でのプラスチックの利用状況を反映する。アルギータで採取したサンプルには、ポリエチレンフィルムの切れ端が断然多い。ポリフィルムの切れ端の大部分はきわめて軽いレジ袋で、それらは風がはらむのを待ち構えている小さな帆のようなものだ。多くはごみ収集の過程で脱け出る。ふたがなくてあふれ出ていることが多い公共のごみ箱、ごみ収集車、埋立地が、事実上プラスチックごみを散乱させていると言える。

 カリフォルニア州は2010年に、もう少しで超軽量のレジ袋を禁止するところまでいったが、アメリカ化学協議会が強力な巻き返しに出て州議会議員に対する陳情をくり広げ、これを頓挫させた。ハイウェイの管理維持にあたるカリフォルニア運輸局は、年間1600万ドルをポリ袋だけの排除に費やす。州の集計では、1年に190億枚の使い捨て袋が手渡されていて、リサイクルされるのはその5パーセントにすぎない。
 バングラデシュでは1日に930万枚の袋が通りにさまよい出ていることが、調査で判明した。それが暴風のさいの排水を詰まらせるので、モンスーンによる洪水は規模が拡大し、飲料水媒介の致死性伝染病が蔓延する。2002年、バングラデシュではポリ袋が禁止された。薄いポリ袋は中国、ムンバイ、南アフリカ、エリトリア、ルワンダ、ソマリア、タンザニア、ケニア、ウガンダでも禁止されている。

世界をプラスチック汚染から救うのは

 プラスチック汚染を止める世代は、ガラクタを絶えず作り出す経済から抜け出た世代だろう。無意味な競争と無思慮な消費はやめ、長持ちし、壊れたら直せる品を、必要性を見きわめて慎重に買うようになるだろう。それらの品物は役目を終えたら、別の価値を持つ品物に作り替えられる。この世代は「新製品」を求めつづけることを拒絶し、浪費をしない、生産的な人生に真の価値を見出すようになるだろう。安価なまがい物の過剰消費を拒否し、組織立った労働から生み出される利用価値の高い製品を尊ぶようになる。健康と幸せとをもたらす真の必需品の製造者と再生業者が尊敬を集めるようになるのだ。。
 母なる自然は、命の循環を完成させようと邁進する存在とみなされる。その世代は、汚染された都会でいかに生活するかを模索する、「今」だけにこだわる世代ではない。重苦しいルールと古色蒼然たるやり方にしがみつく高圧的な親世代とも決別する、危機から生まれた世代となる。彼らが新たにめざすのは、人々を、そして地球という惑星を真に解放するものだ。

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