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連続テレビ小説「おむすび」北村有起哉さん×緒形直人さん スペシャル対談

ヒロイン・よねゆいと、その姉であるあゆみの父・まさと、歩の親友であり、震災で命を落とした真紀まきの父・渡辺わたなべ孝雄たかお。ともに職人であり、どこか不器用な二人の“オヤジ”の物語は、「おむすび」の中で丁寧に描かれています。
ドラマ序盤は「あえて距離を置いていた」という、聖人役の北村きたむら有起哉ゆきやさんと、孝雄役の緒形おがた直人なおとさんのスペシャル対談をお送りします! 
※本記事は1月29日発売『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 おむすび Part2』に掲載した対談からその一部をご紹介します。

閉じこもってしまった孝雄の殻を温厚篤実な聖人が破る

緒形 聖人はとても情が深い、温厚篤実おんこうとくじつな人。そういう彼が身近にいたから孝雄は復活できたんだと、僕の中では思っているんですよ。
北村 米田家が神戸に戻ったばかりのころ(第8週)は、まだ僕らはバチバチしていましたけどね。「見捨てて、逃げたくせに」なんてことも、ナベさん(孝雄)に言われましたし(笑)。
緒形 糸島いとしまで、聖人が神戸を思って涙しているいいシーン(第5週)がありましたけど、こちらは聖人が突然神戸からいなくなったという思いがずっとあったわけ。
北村 こっちはこっちで糸島の野菜を持っていっても、受け取ってもらえなくて……。ナベさんってトマト嫌いなのかな? 肉や魚だったらよかったのかな? なんて考えたりして(笑)。
緒形 肉でも、魚でも受け取らないよ(笑)。阪神・淡路大震災のあと、孝雄はすごく堅い殻に閉じこもってしまったけれど、聖人がしつこいぐらい店に様子を見に来てくれたり、職人どうしだからこそ分かる言葉を投げかけてくれたりして。それがボクシングの相手と距離を測りながら攻撃するジャブのように、ジワジワ効いたはず。
北村 米田家から近いから、しょっちゅう行けるんです(笑)。
緒形 聖人が、初任給で買った靴を修理してくれと孝雄の店に持ってきたこと(第9週)もあったね。
北村 職人って腕が鈍るとどんどん心が腐って、負のスパイラルにはまる。でも、過去のナベさんは本当にピカイチの腕前だった。聖人も理容師ですから、同じ職人としてやきもきしていたんじゃないですかね。
緒形 「この靴、直してくれへんか」と言われて、うっすらとやる気に火がついた。
北村 本当に弱火くらいに(笑)。
緒形 でも、そういうジャブが効いていたんだろうね。聖人ぐらいガンガン来てくれる人がいないと、孝雄は立ち上がれなかったと思います。
北村 聖人はナベさんの奥さんがまだご健在だった幸せな時代から、さくら通り商店街での暮らしを見ていたので。ナベさんが変わっちゃったっていうのがね……。
緒形 孝雄は元々寡黙な人だったとは思いますけど、病気で妻を亡くし、今度は震災で娘を亡くしてしまうなんてね。中華太極軒ちゅうかたいきょくけんの店主役・堀内正美ほりうちまさみさんが話してくれたんですけど、「親を亡くすことは過去を失くすこと。恋人や妻を亡くすことは今を失くすこと。子どもを亡くすことは明日を失くすこと」だというんです。
北村 孝雄はすべてを失くしてしまったわけですからね。一方、聖人は糸島に避難したことに負い目を感じている。それもあって、ナベさんのことを諦められなかったんじゃないかな。贖罪しょくざいというか、そういうことを考える人だと思いますから。

ヒロインの父・米田聖人を演じる北村有起哉さん

孝雄は真紀のお墓にきっと毎日行っていた

北村 ナベさんの娘の真紀ちゃんと聖人の娘の歩が親友だったというのも、ドラマ前半のポイントでした。
緒形 孝雄は真紀のお墓に毎日行っていたと僕は思っている。
北村 通うのが大変そうな高台にお墓がありますけど、真紀ちゃんへの思いがそうさせたんでしょうね。
緒形 ほかの墓へお参りに来ている人から挨拶されているのに、無視して墓石を拭いている。無視というより、もう何も現実が頭に入ってこないんでしょうね。
北村 遮断するわけですね。
緒形 そう。子どもを亡くすなんて、想像したくないけど、同じ状況なら僕も孝雄みたいになると思います。
北村 でも、その悲しみから立ち直ったナベさんが、東京に行くっていうのは予想外でした。台本を読んで驚いたし、すっごい寂しくてセンチメンタルになっちゃって……。
緒形 「東京に行く」と告げるシーン(第17週)には歩もいたけど、特に聖人がセンチメンタルでしたよね。やっぱりこの人は温かい人なんだって気付かされた。とても印象的な、いいシーンになりましたね。
北村 本当に。ああ、聖人ってこういう人なんだと、僕の予想を超えた感情が湧き上がりましたね。

渡辺孝雄役を演じる緒形直人さん

この続きは、1月29日発売『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説おむすび Part2』でお楽しみください。

取材・文/安田 光

プロフィール
北村有起哉(きたむら・ゆきや)
1974 年生まれ、東京都出身。主な出演作に、映画「新聞記者」「浅田家!」「キリエのうた」、ドラマ「ムショぼけ」「先生のおとりよせ」「たそがれ優作」「完全無罪」など。NHK では、連続テレビ小説「わろてんか」「エール」、大河ドラマ「義経」「西郷どん」、「事件は、その周りで起きている」などに出演。

緒形直人(おがた・なおと)
1967年生まれ、神奈川県出身。主な出演作に、映画「わが心の銀河鉄道 宮沢賢治物語」「護られなかった者たちへ」、ドラマ「六本木クラス」「アンチヒーロー」など。NHKでは、連続テレビ小説「ファイト」、大河ドラマ「翔ぶが如く」「信長 KING OF ZIPANGU」、「ダイアリー」「半径5メートル」などに出演。

『NHKドラマ・ガイド おむすびPart2』では、ヒロインの橋本環奈さんを始め、豪華出演者のインタビューのほか、脚本家・根本ノンジさんによるセリフ解説など、独自企画も満載。朝ドラファン必携の1冊です。

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