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猫ファミリーの表情やしぐさを存分に楽しんでほしい――短いしっぽをもった黒猫奮闘物語

先月7月10日に黒猫を主人公とした絵本『まんまるしっぽのクロ』が発売になりました。話題作『ただいまねこ』のミヤザーナツさんによる二作目の絵本です。物語の主人公は短いしっぽをもった黒猫で、にゃおにゃお池を舞台にお話が展開されます。主人公のクロは、ミヤザーさん宅にいる保護猫がモデル。新刊の見どころをうかがいつつ、黒猫の魅力についてもミヤザーさんに語っていただきます。

──ミヤザーさんはこれまで児童書版元さんから紙芝居を出されたり、著名な作家さんの文章に絵を描かれたりされてきましたが、今回単著として2作目を刊行されたお気持ちをお聞かせください。

無事に刊行されてホッとしています。本書を手にとってくださった読者は、新作をどのように読んでくださるのか、わくわくした気持ちと不安が入り混じった複雑な心境です。

前作の『ただいまねこ』は、愛猫を亡くした自身の経験から自然とわいてきたお話だったこともあり、「創作物語」と呼ぶのは少し違うような気がしていました。一方、『まんまるしっぽのクロ』は、どのような展開にしたら、読者に楽しんでいただけるかに思いを馳せながらつくりました。

──今回のお話はどこから着想されたのですか?

しっぽで魚釣りをする動物が実際にいると知り、興味をもったことからこの物語を思いつきました。前作に引き続き、主人公は猫にしようと考えていたので、どのような猫を登場させるかを考えるところから考え始めました。「感動物語」と呼んでいただいた前作のようなインパクトはありませんが、いつでも、どこでも、どなたにでも楽しんでいただける軽やかなお話にしたいと思い、取り組みました。

──当初、黒猫と白猫が登場する物語を考えていらしたと聞きました。

はい、そうなんです。黒猫が白猫の魚釣りを手助けし、とった魚を分かち合うといった内容でしたが、ふたりの関係性がバランスよく描けませんでした。編集者さんからのアドバイスを参考に、あれこれ試行錯誤をしているあいだに、登場する猫たちを家族にすることを思いついたんです。そこからは一気にラフを仕上げ、短いしっぽをもった黒猫を主人公とした物語を描きました。

舞台はにゃおにゃお村のにゃおにゃお池。おなかをすかせた猫ファミリが晩御飯をとりにやってきます。母さん猫は、細くて長いしっぽを池のなかにたらし、見事に魚をゲットします。子猫たちも同じ方法を試しますが、末っ子クロのしっぽはまるくて短いので魚が釣れません。このあとクロは自分の特徴を受け入れ、別の方法を探し始めます。はたしてクロは魚がとれるのか? 絵本でご確認いただけるとうれしいです。

──読者にはどの部分に注目してこの絵本を楽しんでいただきたいですか?

猫好きの方たちには、猫の表情やしぐさを楽しんでいただけるはずです。わたしは生物を描くのが好きでして、今回も背景にいろいろな植物や生きものを描いていますので、じっくり絵を眺めてみてください。

特に大切に描いたのは、クロと家族の関係性です。母猫やきょうだい猫は、しっぽで魚釣りができないクロを急かすことなく見守ります。そのことによって、クロは自分で魚をとる方法を見つけだし、自分の力で魚をとる──という成功体験をします。せわしい日常のなかでつい忘れがちな「見守る」という行動は、だれかをいっきに成長させる可能性があります。

──黒猫は、ミヤザーさん宅にいらっしゃる保護猫さんがモデルとか。小泉今日子さんやミキの亜星さん、作家のひらのりょうさんに詩人のピーター・マクミランさんなど、黒猫ファンを公言されている著名人がたくさんいらっしゃいますが、その魅力を教えてください。

個体差はもちろんあると思いますが、猫は毛の色によって性格が違うと聞いたことがあります。複数の保護猫を迎え入れてきたわたしの経験上、黒猫はマイペースで人懐っこく、おおらかな性格だと感じます。黒という色からクールなイメージをもっている方も多いかもしれませんが、甘えん坊な猫が多いような気がします。

ミヤザーさんの愛猫おーちゃん

黒毛のため、夜は本当にどこにいるのかわからず、しっぽを踏んでしまったり、つまずいたりと大変です。この絵本のなかでも描いたように、目をあけていないと、暗闇にまぎれてどこにいるのかわかりません。自然界では敵に狙われにくいため、おっとりした性格になったとも言われるようです。我が家には、絵本のなかの母猫のモデルになった白の多い三毛猫がいるのですが、黒猫とは対照的に神経質です。「黒猫あるある」は写真写りが悪いこと。顔が身体にうもれてどこにあるのかわからないんです(笑)。

暗闇に光るふたつの目

──その黒猫にはいろいろな歴史があると聞いたことがあります。

子どものころ、「黒猫が目の前を横切ると不吉なことが起きる」あるいは「いいことがある」と聞いたことがある人もいると思いますが、もちろん迷信です。どうやらこの迷信には宗教が絡んでいるようです。ざっくり言うとイスラム文化圏や土着信仰が生きている世界では黒猫は好まれ、キリスト教文化圏では魔女の化身として特に黒猫は疎まれ、ひどい目にあったそうです。

日本の歴史を見てみると、黒猫は幸せを呼ぶ動物としてかわいがられてきたことがわかります。江戸時代では、黒猫を飼うと結核が直ると信じられて黒猫ブームが巻き起こったという記事を読んだことがあります。いずれにしても迷信なわけでして、黒猫の飼い主としては、「黒猫はかわいい」としか言いようがありません。

──最後に読者にメッセージをお願いいたします。

新作をお届けできてうれしいです! 絵本づくりは自己満足ではいけないので、皆さんに読んでいただくことで完結します。クロたちのいるのんびりした物語世界に入り込むことで、穏やかさを感じていただけたら嬉しいです。そして、みなさんの記憶のどこかに「まんまるしっぽのクロ」がすみ続けてくれたら、著者としてとても幸せです。


まんまるしっぽのクロ
発売日:2024年07月10日
定価:1,650円(本体1,500円)
仕様:B5変型判32ページ(オール4C)
ISBN:978-4-14-036158-0

★登場する猫たち
かあさんねこ:おおらかでしっかりもの
ブチ:やさしくて、涙もろい
トラ:気さくで、友達がいっぱい
クロ:辛抱強く、がんばりや

ミヤザーナツ
長野県生まれ。デザイン会社を経てイラストレーターとして出版、広告業界で活動。2023年NHK出版から刊行した『ただいまねこ 』が大きな反響を呼ぶ。そのほか共作絵本に『らったくんのばんごはん』(作・坂根美佳/福音館書店)、『がんばれ、なみちゃん!』(作・くすのきしげのり/講談社)『でんしゃにのるよ ひとりでのるよ』(作・村せひでのぶ/交通新聞社)。紙芝居に『キジムナーにあったサンラー』(さえぐさひろこ 脚本/(童心社)『アマガエルのきしょうよほうし』『ハシビロガモのはしろう』『クマノミのおとうさん』『うみのどうぶつ どっちがどっち?』(すべてキム・ファン 脚本/(童心社) などがある。主人公のクロによく似た真っ黒な長毛猫と、かあさんねこによく似た三毛猫とくらす。いずれも保護猫。

★イベント情報
ミヤザーナツ絵本展「ちびたとクロ」
展示期間:2024年8月7日(水)~2024年8月20日(火)※最終日は17:00まで
展示会場:青山ブックセンター本店内 ギャラリースペース
住  所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-53-67 コスモス青山B2F
営業時間:平日 11:00~21:30  土日祝 10:00~21:00
※営業時間の変更がある場合もございます。お出かけ前にご確認ください。

ミヤザーナツ『まんまるしっぽのクロ』絵本展
展示期間:2024年8月30日 ~ 9月18日(水)
展示会場:necoya books(ネコヤ ブックス)
住  所:〒190-0013 東京都立川市富士見町2-11-7
営業時間12:00 ~18:00 (9/5、12、15は休店。9/8はイベントのため貸し切り)
※9/8(日)九里みほによる絵本の朗読と猫うたライブ&ミヤザーナツのスペシャルトーク(予約制)

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