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連続テレビ小説「虎に翼」主人公・猪爪寅子・伊藤沙莉さん撮り下ろしグラビア&インタビュー

 4月1日から放送がスタートするNHK連続テレビ小説「虎に翼」は、戦前・戦後に女性法律家として足跡を残したぶちよしさんをモデルとしたオリジナルストーリー。三淵さんをモデルとする主人公・いのつめともを演じるのは、生まれ持った芝居のセンスで、シリアスな役からコミカルな役まで、幅広く活躍するとうさいさんです。これまでの歩みや、「虎に翼」への思いを語っていただきました。
 本記事は、3月25日発売『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 虎に翼 Part1』に掲載しております。


自分にうそをつかず、まっすぐに

 9歳で俳優デビューして以来、転機となる作品はいくつかあります。ドラマ「GTO」(2014年)「トランジットガールズ」(2015年)、映画「獣道」(2017年)です。それぞれ役柄も芝居のテイストも、そしてぶつかる壁も経験がないことだらけで、自分を成長させてくれました。もう一つ大きかったのは、連続テレビ小説「ひよっこ」(2017年)。朝ドラは、何度かオーディションを受けながらも、心のどこかで出演できる気がしていませんでした。でも「ひよっこ」の脚本家であるおかよしかずさんは、オーディションで私を目に留めてくださり、あまのじゃくで口が達者な米屋の娘・よねというキャラクターを生んでくださいました。私が求められることの多い“三の線”の役でしたが、何か一つ殻を破ることができた感覚がありました。私の顔を知ってくださる方が増えたという点でも、転機となった作品です。 
 NHKのドラマ初主演作は、パパゲーノ(※)を題材にした「ももさんと7人のパパゲーノ」。当事者への取材を重ね、繊細な題材を扱いながら「腫れ物に触るような描き方をしない」という意識の共有が現場にありました。なおかつ重くなりすぎないとうたく さんの脚本や、ドキュメンタリーを得意とするとう監督、多彩なキャストなど、制作に関わるすべての布陣に恵まれた作品でした。このときご一緒した制作統括のさきひろかずさんが、再び私に声をかけてくださったのが、今回の「虎に翼」です。

オペラ『魔笛』に登場する人物の名前が由来。そこから、死にたい気持ちを抱えながら、その人なりの理由や考え方で“死ぬ以外”の選択をしている人を表す。

私が“朝ドラ”のヒロイン⁉ ドッキリだと思いました

 ヒロインと聞いたときは、とにかくびっくり!でした。兄(オズワルド・とうしゅんすけさん)がお笑い芸人ということもあり、「ドッキリなら早くネタばらしをして!」と本気で思っていて。記者発表のときでさえ、報道陣の中に「ドッキリ大成功!」の看板を持った人がいるんじゃないかと疑っていました(笑)。そのあと、寅子役の準備として、裁判を傍聴したり、法律考証のむらかみかずひろ先生の講義を受けたりする中で、「ここまで手の込んだドッキリはないよな、本当なんだ……!」と実感しました。 
 脚本のよしさんは、「書いていて楽しい」と言ってくださっていて、確かに台本からその感じが伝わってくるんです。だからどんどん先を読みたくなるし、がポンポン脳裏に浮かんで、次の収録が待ち遠しくなる。長いスパンのドラマでそう思えるのは幸せなことです。吉田さんは私のエッセイを読んでくださったみたいで、その印象を寅子に重ねていただいている気もしています。 
 寅子のモデルの三淵嘉子さんは、日本の女性法律家の草分けとなった方。三淵さんに関する本や資料を読んで感じたのは、自分に正直で、何事にもまっすぐ向き合う方だということです。さらに、戦前・戦後の法曹界で「社会をよりよく」という強い気持ちで道を切り開いた方でありながら、とがった印象が全然ないんです。実は私、三淵さんの写真が載った本を現場で持ち歩いていて、時々開いてはお顔を拝見しているんです。その表情からも温かなお人柄がうかがえて安心します。以前、三淵さんのご親族や同じ職場で働いていた方々にご挨拶する機会があったのですが、皆さんも「笑顔がすてきだった」「明るい方だった」とおっしゃっていて。そうした柔らかさを、演じるうえでも大事にしていきたいですね。

先人たちの努力なくして、今の自分はないと気付かされた

 寅子役を通じて三淵さんが生きてこられた時代を追体験していくと、女性の立場が弱かったことを実感させられます。今の自分の感覚だと、「こんな不平等なことが本当にあったの?」と思うことばかり。寅子は世の不平等や不条理に対する疑問をきちんと口に出しますが、きっと当時はそういう人のほうが不思議な目で見られたんでしょうね。でも考えてみれば、昔から続いてきた価値観が一瞬で変わるなんて絶対なくて、多くの女性が「それはおかしい!」と声を上げて闘い続けてくれたからこそ、今の自分も「おかしい」と気付くことができるんだと思います。それがどれだけありがたいことか。ドラマでは寅子だけでなく「明律大学女子部法科」の個性あふれる人たちが、先人たちの努力や苦労を体現しています。それぞれのすてきな生き方をぜひ見ていただきたいです。 
 その一方で、男性キャラクターも魅力的です。例えば、寅子がそれまで出会ったことがないタイプの穂高先生(小林薫さん)や桂場等一郎(松山ケンイチさん)と遭遇するシーンは、収録しながら「これから何かが始まる!」というワクワク感がありました。結果的に、穂高先生にかけられた言葉をきっかけに寅子の人生は大きく動いていきます。それこそ人生の転機というのはひょんなところに転がっているもので、そうした運命的な出会いの場面もおもしろく見ていただけるのではないかと思っています。
 周囲から「寅ちゃんは誰とくっつくの?」とよく聞かれるんです(笑)。実は、寅子が同世代の男性と話すシーンのときになぎかわよしろう)監督がバーッと走ってきて、「今の沙莉さん“恋愛マスター”みたいなしゃべり方してたけど、寅子は恋愛したことがないからね」とくぎを刺されて、すごい焦ったことがあって(笑)。要するに寅子はすごくピュアな子で、恋愛がどう始まって、どういう感情になるのかを全く知らない。そもそも見合いにも結婚にも興味がない。恋愛の素養がなさすぎるので、いわゆる“恋愛フラグ”が立ちづらいキャラクターなんですよね。逆に言うといろいろな可能性があると思うので、そこは見てのお楽しみです(笑)。 
 私が役者として大切にしているのは、自分にうそをつかないこと。頭に「?」を浮かべたまま先に進まないこと。現場に立ったときに、何か疑問に思うことがあったら、「ま、いっか」とやり過ごさず、監督や共演者の方に「どう思いますか?」と投げかけるようにしています。ありがたいことにスタッフさんやキャストの皆さんのおかげで現場はとても温かな雰囲気。寅子の心のよりどころである「猪爪家」も、皆さんいい意味でマイペースなので居心地がよく、伸び伸びとお芝居させていただいています。見応えのあるドラマになっていると思います。どうぞご期待ください!

(了)

撮影=キム・アルム 取材・文=髙橋和子 スタイリング=吉田あかね ヘア&メイク=岡澤愛子

プロフィール
伊藤沙莉(いとう・さいり)
1994年生まれ、千葉県出身。主な出演作に、映画「ちょっと思い出しただけ」「すずめの戸締まり」「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」、ドラマ「ミステリと言う勿れ」「シッコウ!! ~犬と私と執行官~」など。NHKでは、連続テレビ小説「ひよっこ」、「いいね!光源氏くん」「ももさんと7人のパパゲーノ」などに出演。

『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 虎に翼 Part1』では、他の出演者の方々のインタビューやドラマの舞台裏など、たくさんの独自企画を掲載しています!

連続テレビ小説『虎に翼』の放送開始に先立ち、ノベライズも発売!

そのほか電子書籍で楽しめる『虎に翼』シナリオ集[全26巻]が、4月より放送後に1週分ずつ順次発売予定です!

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