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ビル・ゲイツが絶賛する“知の巨人”が、数字で明かす71の真実――『Numbers Don’t Lie: 世界のリアルは「数字」でつかめ!』

 いま、SNSやネット、マスメディアにはさまざまな情報があふれ、わたしたちの考え方に多かれ少なかれ影響を及ぼしています。真偽や詳細を調べずに、情報をなんとなく鵜呑みにしてしまうことは、だれしもあるでしょう。
 たとえば、「製造業は、急成長するIT業界にくらべ、存在感が薄れている」「電気自動車は、ふつうの自動車よりクリーンだ」というイメージは、はたして正しいのでしょうか?
 ビル・ゲイツの選書リストにその著書がよく挙げられる、カナダ王立協会フェローのバーツラフ・シュミルは、「数字を通して正しい世界像を把握することが大切だ」と説きます。
 シュミルの最新作『Numbers Don’t Lie: 世界のリアルは「数字」でつかめ!』は、上記2つの題材以外にも、選りすぐりのトピックが満載で、物事の本質を見抜くための批判的思考力が鍛えられる教養書です。
 その冒頭の「はじめに」より、一部を抜粋・編集してご紹介します。

本書および著者に寄せられた賛辞

「人々がスター・ウォーズの新作を待ち望むように、わたしは著者シュミルの新作を待つ」
――ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者・慈善活動家)
「数字で世界の全体像を描かせたら、シュミルの右に出る者はいない」
――「ガーディアン」紙
「意外な数字に触れる時、あなたの疑問が鍵となり、71の知の扉が開く」
――読書猿(『独学大全』著者)

アメリカに関する意外な数字

 世界ではいま、本当のところ、なにが起こっているのだろう? それを理解するには、数字を適切な観点から見なければならない。つまり、歴史的な観点から現在と過去を比べたり、国際的な観点から国と国とを比べたりするのだ。
 たとえば、ジュールというエネルギーの単位を「現在」と「過去」で比べてみよう。
 いま、経済的に豊かな国では一次エネルギーを1人当たり年間約150ギガジュール消費している。いっぽう、アフリカでもっとも人口が多く、石油や天然ガスも豊富にあるナイジェリアでは、1人当たりのエネルギー消費量は約35ギガジュールにとどまる。 
 この差は驚きだ。なにしろフランスや日本は、ナイジェリアと比べると、1人当たり5倍近いエネルギーを消費しているのだから。
 ところが「現在」と「過去」を比べると、その差の「本当の大きさ」が浮き彫りになる。日本は1958年の時点で現在のナイジェリアと同程度のエネルギーを使っていた。62年前だから、アフリカ人の一生分の差がある。フランスにいたっては、1880年に平均35ギガジュールを使っていた。つまり、ナイジェリアのエネルギー消費量は寿命2つ分フランスに遅れていることになる。
 現在の「国と国」との差を見ても、やはり意外なことに気づかされる。アメリカとアフリカのサハラ砂漠以南地域における乳児死亡率を比較すると、予想どおり、そこには大きな差がある。だがアメリカは、乳児死亡率が低い国のトップ10にも入っていない。
 たしかに、アメリカの人口は多様な人種で構成されていて発展途上国からの移民も多いことを思えば、それほど意外な結果ではないのだろうが、なんとトップ30にさえランクインしていないのだ(2018年のアメリカの順位は、経済開発協力機構[OECD]加盟国36か国中、33位)。これはなかなか予想できないだろう。

桁のちがいに注目!

 こうして意外な事実を示されると、いったい、どうしてそうなったのだろうという疑問が湧いてくるはずだ。あなたの頭のなかに浮かんだその疑問こそが、社会や経済に関する広大な知の世界の扉をひらいてくれる。そして、個々の数字であれ、複雑な統計データの一部であれ、さまざまな数字がもつ意味を把握するには、科学や数量の基礎知識に基づいて結論を導く力、すなわち科学的リテラシーを身につける必要がある
 たとえば、お金について考えてみよう。たいていの人は自分の収入や貯金額が世間一般と比べてこの程度だと見当をつけることができるだろう。ところが、一国または複数の国の経済水準を歴史的な観点から比較するにはインフレを加味して調整しなければならないし、国際的な観点から比較するには為替レートの通貨の変動や購買力の差も考えなければならない。
 さらに、数字が大きくなるにつれ、単独の数字より桁のちがい(10倍ごとの差)に目を向けるほうが、数字を把握しやすくなる。たとえば重量では、エアバスA380は戦車より1桁重い。速度では、ジェット旅客機は高速道路を走る自動車より1桁速い。体重では、子鹿は人間の赤ちゃんより1桁重い。

数字を簡単につかむコツ

 こうした数字は、思いのほか簡単につかめるようになる。まずは1日のうち、ほんの数分でいいから携帯電話を脇に置いて(わたし自身は携帯電話を一度も所有したことがないし、それでなにかのチャンスを逃したとも思っていない)、手近にあるものの長さや、知っている地点までの距離をざっと見積もってみよう
 約10センチメートルあるこぶしの幅を使って長さを測るのもいいし、さっき脇に置いた携帯電話をまた手にとって、GPS機能を利用して距離を確認するのもいい。目についたものの体積や容量を計算してみるのも楽しい(薄くて大きなものの体積は低く見積もりがちだ)。
 億万長者とアマゾン社の倉庫スタッフの最新の所得格差に関する記事を読んだら、いったい両者の年収は何桁ちがうのかを計算機を使わずに考えてみるのもいい。イギリスとウガンダの1人当たり名目GDPは何桁ちがうのかなど、国同士を比べるのもおもしろい。
 こうしてちょっとした頭の体操を続けていけば、脳のニューロン(神経細胞)がどんどん発火して、周囲の現実をもっとよく把握できるようになる。つまり、数字を理解するには、興味をもって、自分から少しずつ関わっていけばいいのだ。

信頼のおける「数字」とは

 読者のみなさんが『Numbers Don’t Lie: 世界のリアルは「数字」でつかめ!』を読んで、この世界の真の姿を少しでも理解してくださることを願っている。わたしたち人間がとてつもなくユニークな存在で、さまざまなことがらを深く理解しようと飽くなき努力を重ね、発明や発見を続けてきたことに、きっと胸を打たれることだろう。
 本書には、さまざまな分野のトピックが詰まっている。世界の人々、人口、国々といったものから、エネルギー利用、技術革新、さらには現代文明を語るうえで欠かせない機械やデバイスまで多岐にわたる。ほかにも、食料の供給や選択、地球環境の状況とその悪化という問題にも触れていく。どれも、わたしが1970年代から著書でとりあげてきた重要なトピックだ。
 まず、事実〈ファクト〉をはっきりさせる、それが本書の目的だ。とはいえ、それは一筋縄ではいかない。たしかにインターネットには数字があふれているが、日付も出所も不明なデータを適当に引っ張ってきただけのものがあまりにも多いうえ、単位が不確かなものも散見する。
 その点、本書でとりあげるほぼすべての数字は、4種類の一次資料からのみ引用している。国際機関が公表している世界各国の統計、国の公的機関が公表している年報や年鑑、官公庁が編纂した歴史的な統計データ、そして科学誌に掲載された論文だ。
 数字はウソをつかない。その事実のみならず、数字がどんな真実を伝えているのかを、さまざまな例を挙げながら説明したい。そんな思いから、わたしは本書を執筆した。

プロフィール
バーツラフ・シュミル(Vaclav Smil)

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©Andreas Laszlo Konrath

カナダのマニトバ大学特別栄誉教授。カナダ王立協会(科学・芸術アカデミー)フェロー。エネルギー、環境変化、人口変動、食料生産、栄養、技術革新、リスクアセスメント、公共政策の分野で学際的研究に従事。研究テーマに関する著作は40 冊以上、論文は500 本を超える。2010 年、『フォーリン・ポリシー』誌により「世界の思想家トップ100」の1 人に選出。日本政府主導で技術イノベーションによる気候変動対策を協議する「Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)」運営委員会メンバー。

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