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視力0・7未満の子どもが3割以上増加! いま彼らの目に何が起きているのか?

 スマートフォンやタブレットの使用、ゲームのやり過ぎが、子どもたちの目を脅かしている。眼球が伸びて、形が変わってしまう「軸性近視」が、将来の白内障や緑内障のリスクを高めるほか、最新の研究によってうつ病などにもつながりうることがわかってきたのだ。科学的根拠のある治療法から、生活習慣の見直し、眼鏡・コンタクトレンズの正しい選び方までを詳しく紹介した、NHK出版新書『子どもの目が危ない――「超近視時代」に視力をどう守るか』(2021年6月10日発売)。
 大反響のNHKスペシャルを書籍化した本書から、当記事では子どもの視力低下の実態についてお届けする。

休校明けに視力低下の子どもが増加

 いま日本はもちろん、世界で近視人口が急激に増加している。
 最も顕著に変化が表れているのが、子どもたちだ。小学生から高校生にかけての時期は、体の成長とともに近視が進行することが多く、この時期に発症・進行する近視には専門用語としても「学童近視」という特別な呼び名があるほどだ。
 近年、この学童近視の進行の具合が、「異常」と言ってもよいほど加速していることがわかってきた。そこには、じつは近視が「眼球の伸び」によってもたらされるという事実も、深く関係している。なぜ、いま近視が急増しているのか。そこに私たちのライフスタイルがどんな影響を与えているのか。近視研究の最前線を見ていこう。
「心配なのは、特に子どもたちの目です。私が校医をしている学校でも、新型コロナウイルス感染症による休校の直後の視力検査で、すごく悪化していたという報告がありました。環境の変化が子どもたちの目に与える影響が予想以上で、本当に驚きました」
 2020年10月、日本眼科医会常任理事(学校保健担当)の柏井真理子さんに、オンライン取材で話を聞いた時の言葉だ。当時から外出自粛や休校が、子どもたちの視力低下に影響を与える可能性は指摘されていた。しかし、具体的にどの程度の影響があるかは漠然としたままだった。

視力検査の推移からわかった衝撃の事実

 そこでオンライン取材の後、柏井さんが校医をしている京都教育大学附属京都小中学校を訪れて、詳しい話を聞くことにした。子どもたちの視力について、保健室で詳しい話を聞かせてくれたのは、養護担当教諭の小西真央さんだ。
 小西さんは取材している間も、子どもたちから様々な相談が寄せられ大忙しの中、対応してくれた。子どもたちに信頼されており、接する距離間もとても近い。だからこそ、子どもの目の変化についても敏感に気づくことができ、現状をどうすればよいのかという強い問題意識を持ったのだろう。
「休校が終わってすぐに、年に2回行うことになっている視力検査を実施したところ、視力が大きく低下している子どもが顕著に増えていて心配になりました」
 小西さんに見せてもらったのは、この5年間の視力検査結果の推移だ。学校での視力検査のポイントは、授業で黒板が見えるかどうか。そのため裸眼だけでなく、メガネやコンタクトレンズをしている子は矯正視力を測定している(矯正して黒板が見えていればOKというわけだ)。眼科受診が必要とされる0・7未満まで視力が低下している子どもの割合を見てみると、2019年まではほぼ横ばい。
 しかし、2020年6月の検査では、視力0・7未満の子どもの割合は、17・72パーセントから一気に23・37パーセントへと3割以上(5・65ポイント)増加していた。校医の柏井さんが「予想以上の影響だ」と驚いていたのは、この数字のことを指していたのだろう。

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史上最悪の視力低下の背景

 こうした変化はこの小学校に特有のものなのだろうか。そこで2019年度の文部科学省の統計を調べたところ、小学、中学、高校生の視力1・0未満の割合が、史上最悪を記録していたことがわかった。
 ここで注意しておきたいのは、「視力の低下」=「近視の増加」だという捉え方は、大まかに言って間違いではないが、必ずしも正確ではないということだ。なぜなら、この視力1・0未満には、「遠視」など近視以外の様々な要因も含まれるからである。
 2020年に日本眼科医会によって行われた調査によれば、視力1・0未満だった小学生2000人のうち、約8割(78・4パーセント)が近視という結果が出ている。この割合は中学生では91・4パーセント、高校生では95・3パーセントと、年齢が上がるごとに増加していく(幼稚園では逆に25・0パーセントと近視の割合は低く、遠視の割合が大きくなっている)。
 これらの結果を合わせて考えると、小学、中学、高校生の視力低下が史上最悪を記録した背景には、近視の増加が関わっていることは間違いない。では、「視力低下の子どもの増加→近視の子どもの増加」だとして、なぜ近視の子どもの割合が増加しているのだろうか。
 番組では独自の調査を行い、その原因とあわせて科学的根拠のある最新の治療法から生活習慣の見直し、メガネやコンタクトレンズの正しい選び方までを紹介した。それらの成果はNHK出版新書『子どもの目が危ない――「超近視時代」に視力をどう守るか』にあますところなく盛り込んだので、育ち盛りの子ども持つ方はぜひ参考にしてほしい。

※続きはNHK出版新書『子どもの目が危ない――「超近視時代」に視力をどう守るか』をご覧ください。

プロフィール
大石寛人(おおいし・ひろと)

NHKディレクター。NHK制作局・第3制作ユニット(科学)番組ディレクター。筑波大学大学院数理物質科学研究科修了後、2011年にNHK入局。広島局・福井局を経て現部署へ。NHKスペシャルやクローズアップ現代、ガッテン、サイエンスZEROなどの番組を担当し、「防災」「原子力」「近視」などのテーマを中心に取材。

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