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佐藤健、阿部寛ら豪華俳優陣で映画化! 感動長編『護られなかった者たちへ』著者・中山七里が語った作品への思いと期待

 “どんでん返しの帝王”の異名を持ち、数々のミステリー小説を世に送り出してきた中山七里さん。2018年1月刊行の『護られなかった者たちへ』には、「読むと胸が痛む」「涙が止まらない」「ひろく読まれてほしい」といった読者の声がいまだ絶えない。
 このたび本作が、主演の佐藤健さんをはじめ、阿部寛さん、清原果耶さん、倍賞美津子さん、吉岡秀隆さん、林遣都さんなど、人気・実力を兼ね備えた豪華俳優陣で、2020年に映画公開されることが決定。いま改めて、作品にこめた思いなどを中山さんにうかがいました。

人々の記憶には残らない事象を書き留めたかった

 これまでもそうなのですが、映像化されることを意識して書いた小説はひとつもありません。むしろ「これなら映像化できないだろう」と思っているくらいです。だからこそ、映像化のお話をいただくたびにびっくりします。
 特に『護られなかった者たちへ』は、わかりやすいミステリー小説ともやや趣が異なり、さらに地域も限定されています。この小説を書いていた時期は、“おっとり”“ほっこり”したトーンの小説が全盛の頃。その中で、悲劇や貧乏や病気といったものを正視して、読み手の心をざわめかせるような本作は、時代の流れに掉さすようだなぁと(笑)。だからこそ、映画化の話をいただいたときの驚きはなおさらでした。
 世の中では目を覆いたくなるようなさまざまな事件や事故があります。その一方でそれらに埋もれて、記録には残っても人々の記憶には残らないようなものもあります。それがまさに本作で描いた生活保護にまつわる問題です。実際、生活に困窮して頼みの綱として生活保護の申請をしに行った人が、窓口で受け取り拒否をされてトラブルになったケースがありました。それをヒントに綴ったのが本作で、そういった事象をなんとか記憶にとどめるのが小説家の仕事なのだと思っています。それもあって、公的なものでは護られない人が存在し、そういう人々がないがしろにされて忘れ去られてしまう事実を書き留めておきたかったんです。
 生活保護受給者の問題は「数字」にばかり目が行きがちです。「今年は何人こういう人がいた」「何人の人が亡くなった」と、数字の話で終始してしまう。じゃあ、そのひとりひとりはどうなったのかと個別に深く見ていったときに初めて問題が浮かび上がる。全体の数字を見ただけですべてわかった気になるのはすごく傲慢なことで、ひとりひとりの詳細を見ることで全体がわかることもあると思います。その考え方を本作に仮託しました。
 本作を読んで「こんな事実はないよ」と否定される人もいる一方、実際にこういった仕事に従事されている人から、「十分にあり得る話で、実際に似た例があった」「現実はもっと厳しい」と言われたことがあります。もちろん、自治体によって取り組み方が異なるので、どちらが正しいとも違うとも言えません。自治体や個人でさまざまにケースが異なるのなら、なおさら「こういうことがありえるんじゃないか」と提言するのは、決して無駄ではないのではないでしょうか。せめて本作を通じて、この問題にかかわる人たちが自分の仕事を振り返ることに多少でも役に立てたらと願っています。
 生活保護受給に限らず、現実にはどんなシステムでも社会的弱者をすべてすくい取れるわけではありません。でも、だからといって諦めるのではなく、セーフティーネットを準備するにはどうすればいいのか、という問題意識を持ってほしい。小説を書くときにいつも思うのですが、人は何を考えるにしても、何を立案するにしても、そこにストーリーがあるかないかで取り組み方がまったく違います。その原動力になれるひとつのストーリーを提供できたら、という気持ちもありました。

市井の人々の悲喜こもごもに焦点を当てた

 作中に記した貧困のにおいはあるのか、と本作を読んだ人にときどき聞かれるのですが、それは実際にあります。小説を書くとき、ある程度の五感を駆使することを常に意識しています。その中で絶対に外せないのが「嗅覚」。「貧しい家に独特のにおいなどあるのか」と尋ねられたら、「ある」としか言えません。
 これは、実際に向き合った人でないとわからないかもしれませんが、人間が“滅びる”ときの独特のにおいが必ずそこに漂います。そのにおいこそがまさにリアリティー。だからどんな小説を書くときでも、そのにおいまでを文章で伝えられなかったら、真には迫れないという気持ちがあります。それもあって、本作を書き上げた頃、特ににおいに関する描写を際立たせることができれば成功したんじゃないか、という手ごたえを感じていました。
 利根を演じる佐藤健さんは、「仮面ライダー電王」でデビューされて以降、ヤンキーから剣士までさまざまな役をこなされてきた人。かたや笘篠を演じる阿部寛さんは、ドラマ「パパっ子ちゃん」から拝見していますが、さまざまな役を演じ分けられ、果てはローマ人にすらなれた(笑)。おふたりに共通して言えるのは、王道の演技派で芸達者であり、何者にでもなれてしまう人だということです。
 以前、ある映画監督とお話しした際、「当たり前の演技ほど難しいものはない」とうかがいました。「当たり前の演技」とはなんとも言葉遊びのようですが、『護られなかった者たちへ』はふつうの人のふつうの生活を描いた話。際立った性格や特技を持ち合わせた人が登場せず、市井の人々の悲喜こもごもに焦点を当てています。当たり前の演技を平然とできる役者さんでなければ、難しいのかもしれないと思っていました。ですから、佐藤さんや阿部さんのお名前を聞いたとき、手放しで安心しました。
 小説家は、フィクションという名のうそをつくことで生業としていますが、たったひとつだけ誇れるものがあるとすれば、健やかなる者よりは病める者、富める者よりは貧しき者といった、社会的な弱者とされる人々に寄り添える精神があること。たいていの小説家は自らの祈りを作品にこめるものですが、自分はどちらかといえばふだんあまりこめません。しかし、本作はその精神を忘れないようにと思って書いたため、書き手の祈りが如実に反映されています。映画化をきっかけに、ひとりでも多くの人に知ってもらうことにつながれば何よりですし、「中山七里も百にひとつくらいはまともなことを言うな」くらいに思ってもらえたらと(笑)。

※『護られなかった者たちへ』に続く世界を描いた長編ミステリー小説「境界線」が好評連載中です。こちらからご覧いただけます。

プロフィール

中山七里(なかやま・しちり)

1961年生まれ、岐阜県出身。2009年、『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞。斬新な視点と華麗などんでん返しで多くの読者を獲得している。他に『総理にされた男』『護られなかった者たちへ』『能面刑事』『TAS 特別師弟捜査員』『静おばあちゃんと要介護探偵』『ふたたび嗤う淑女』『もういちどベートーヴェン』『笑え、シャイロック』など著書多数。20年、デビュー10周年を迎え、記念キャンペーンを実施中。 ※中山七里 デビュー10周年公式Twitterはこちら

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