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事実を知って、より良い未来をつくる――『地球に住めなくなる日』が教えてくれること(担当編集者コラム)

 インターネット書店でベストセラーになるなど絶賛発売中の、気候変動によるリアルな未来図を描いた警告の書『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』(デイビッド・ウォレス・ウェルズ著、藤井留美訳)。当記事では、本書の担当編集者が、本書発売にいたる裏側とその内容についてつづります。

※そのほかの『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』関連の記事はこちらです

2019年3月 ロンドン

 本書との出会いは、2019年3月。出版企画の国際的な取引の場であるロンドン・ブックフェアでのことでした。話題の書籍が集まる大規模なフェアのなかでも、ひときわ注目されていたのが本書(原題 The Uninhabitable Earth: Life After Warming)だったのです。

 もちろんそのときは新型コロナウイルスもなく、日本もまだ気候変動(温暖化)の影響に対する意識はいまより低いものでした。だからこそ、本書にある「温暖化が進むと、世界の一部をのぞいて住む場所がなくなる」「4℃の平均気温上昇で、北極圏にヤシの木がはえる」といったファクトの衝撃は大きかったのです。

 本書の原著は2019年2月にアメリカで刊行されましたが、イギリス版も同時に発売され、サンデータイムズ紙のベストセラーリストにランクインするなど話題となりました。刊行直後から多くの書評で取りあげられ、ロンドン・ブックフェアの期間中も、イギリスの版元であるペンギン社は、書評や紹介記事をまとめてロンドン市内の地下鉄の駅構内に掲示していました。

ロンドン地下鉄のPR

ロンドンの地下鉄駅構内にて。刊行直後から大反響

 本書以外でも、ブックフェアで紹介された注目書は環境書が主流であり、人々が関心をもつテーマが環境へとシフトしているのを強く実感しました。

2019年9月 グレタさんと国連気候変動サミット

 日本でも2018年以降、異常気象をめぐる報道が目立つようになり、2019年には台風15号と19号が大きな被害をもたらし、いっそう気候変動についての言及が増えました。

 本書の刊行準備を進めるなか、環境に対する人々の意識が大きく変わったと感じたのは、スウェーデンの16歳(当時)の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの登場でした。台風15号と19号の発生のあいだ、9月23日にグレタさんがおこなった国連気候行動サミットの演説が世界的に注目を浴び、気候変動の具体的な対策を求める「グローバル気候マーチ」も演説の前後に世界で700万人以上が参加したとされます。

 本書のなかで、著者デイビッド・ウォレス・ウェルズ氏は、グレタさんの一連の活動についてこう語っています。

 グレタ・トゥーンベリは自国が気候変動に対して手をこまねいていることに抗議して、毎週金曜日に学校ストライキを静かに始めていた。数か月もしないうちに、グレタは気候変動問題のジャンヌ・ダルクとなる。2019年はじめ、グレタは欧州委員会のユンケル委員長から、EU総支出の4分の1を気候変動への適応や緩和に向ける約束をとりつけた。

 ひとりの少女の活動が世界中の人々の意識を変え、さらに気候変動に対する対策費用を約束させたことは、本書の刊行準備を進めるなかで大いに勇気づけられました。

2020年3月 新型コロナウイルス、「地球に住めなくなる日」発売

 ロンドン・ブックフェアで本書と出合ってから1年。新型コロナウイルスによる感染拡大のなか、本書の発売日を迎えることになるとは想像もつかないことでした。

 じつは本書の刊行に合わせて著者来日を予定していましたが、残念ながらそれも直前で中止となりました。来日はできませんでしたが、本書の発売日に、著者は「新・情報7daysニュースキャスター」(TBS系2020年3月14日放送)の新型コロナ特集コーナーに登場し、アメリカの状況についてニューヨークからリポートしました(本書に関連した著者のデイビッド・ウォレス・ウェルズ氏の寄稿を以下の「東洋経済オンライン」でご覧いただけます)。

 本書では、気候変動によるさまざまな影響のうち「グローバル化する感染症」についても取りあげており、以下のように言及しています。

 地球温暖化で生態系がひっかきまわされると、病原菌は防護壁をやすやすと乗りこえる。たとえば蚊が媒介する感染症は、いまはまだ熱帯地域に限定されている。しかし温暖化のせいで、熱帯域は10年に50キロメートル弱の勢いで拡大している。

 安定しているあいだは、生態系が「防護壁」として機能しますが、温暖化が進むと防御力も弱まり、病原菌を媒介する生物が生息する地域も拡大します。それが感染症のグローバル化です。さらに、ウイルスの突然変異や過去に経験のない感染症の可能性も著者は指摘しています。

2030年に1.5℃上昇? 事実をもとに正しい行動を

 現状の二酸化炭素排出ペースであれば、早ければ2030年に平均気温が1.5℃上昇するとされています。さらに、今世紀末までに平均気温が4℃上昇するという予測も現実味を帯びてきています。そうなると本書でその予測を取りあげていますが、アフリカ大陸、オーストラリアとアメリカ、南米のパタゴニアより北、アジアのシベリアより南は、高温と砂漠化、洪水で住めなくなる可能性があります。まさに、「地球に住めなくなる日」がきてしまうのです。

 「早ければ10年後」というのは、誰にとっても他人事ではありません。殺人的な熱波、大洪水、水不足や大気汚染など、これまでにない厳しい環境の変化が待っています。2050年までに、気候変動による難民が2億人となり、10億人以上が貧困にあえぐという予測もあります。

 ひとりひとりが正しく行動するために、「気候変動によって何が起きるのか」を知ることの大切さを、著者は本書のなかで繰りかえし訴えかけています。気候問題は複雑で不確かなものですが、そのなかで人々がどう向きあっていくべきかについて、生活、社会・経済、文化における変化の例を具体的にあげながら、一般の人々に向けた観点からわかりやすく語ります。

 気候変動による最悪の未来図は「団結して行動せよという号令」だと著者は言います。世界中の人々が、本書で語られる数多くの事実を知り、より良い未来を形づくる行動につながることを心より願っています。

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