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ミチオ・カク博士の特別インタビュー(後編) 「地球外生命は存在する」

世界的に高名な理論物理学者であり、科学の伝道師としても人気を誇るミチオ・カク博士の新刊は「宇宙への人類の進出」がテーマだ。邦訳『人類、宇宙に住む』(小社刊、4月25日発売)の刊行にあたり実現した、カク博士への特別インタビューの後編をお届けする。

取材・写真撮影=大野和基

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――前回のインタビューでAIは宇宙探査を加速させると仰っていましたが、宇宙探査をさらに加速させるには他に何が必要でしょうか。

 まず必要なことは宇宙旅行のコストを下げることです。現在、1ポンド(約450グラム)のものを、地球をめぐる軌道に乗せるのにかかるコストは1万ドルです。ここから自分の体を軌道に乗せるのにかかるコストを計算してみてください! ただし今後は再利用可能なロケットを使えば、コストは1ポンド1,000ドル以下まで下がるかもしれません。そうなると我々の宇宙旅行の可能性が出てきます。
 次にロケットの建造です。イーロン・マスクのSpace XはBFRロケットを持っていますが、これは人類史上、最も巨大なロケットです。月をバイパス(迂回)して一足飛びで火星に行くことができます。それから、self-sustaining(自律型)基地も必要になってきます。キーワードはself-sustainingです。地球から物資などを供給しなくても、その基地だけでエネルギー、空気を独立して作り出せるということです。
 これらはすべて今世紀中に達成できると思います。来世紀には近くの星に連れて行ってくれる新しい型のロケット、例えば核融合ロケット、プラズマエンジンのロケットなどを考えるべきです。

――以前取材したハーヴァード大学のリサ・ランドール教授(理論物理学)は「地球外生命はいないと宣言する人は、思い上がりも甚だしい。傲慢だ」と言っていましたが、博士はどう思いますか。

 地球外生命は間違いなく存在します。ですから、今議論できるのはその生命が我々をすでに訪問したかどうか、そして近くに存在するかどうかです。有名なSF作家であるアーサー・クラークはかつて「宇宙には生命が存在するかしないか、そのどちらかだ」と言いましたが、どちらであっても恐ろしいことです。我々が唯一の生物であれば孤独ですし、我々に何かが起こればおしまいです。他方、我々が唯一の生物でなければ、他の生物はいったい何者なのか、彼らが何を求めているのかを考えてしまいます。彼らは我々よりも何百万年も先を行っている可能性があります。
 私は『人類、宇宙に住む』の中で、我々人類はいずれ自分自身をデジタル化し、自分のデジタル・コピーを持つだろうと書きました。そのデジタル・コピーは同じパーソナリティ、癖を持ち、外観もそっくりなレーザーイメージあるいはロボットです。しかも超人的なパワーを持っているのです。ただしそれはデジタルです。その情報をレーザービームで月に送ると、あなたは1秒で月に、20分で火星に、4年でケンタウルス座アルファ星に行けます。
 地球外生命は我々よりもずっと先を行っていて、すでに自分をデジタル化して意識をレーザービームにのせてそれを銀河系に放つことができるかもしれません。私はこの純粋意識こそが宇宙探査の最もはやい方法だと思いますが、宇宙の知的生命体はすでに純粋意識を実現したかもしれません。宇宙のエイリアンは、小さい緑色の生き物だと思わないほうがいい。彼らは純粋意識になっている可能性があります。自分自身を、ホログラフィックであれ、ロボットであれ、アバターであれ、なりたいものにダウンロードできる意識です。

――『人類、宇宙に住む』の中で、日本の読者が特に楽しめるのはどの部分だと思いますか。

 第12章の「地球外生命探査」でしょうか。エイリアンがどんな形をしているか、我々とどのように異なっているかを書いています。それとともに、我々がいかにして知性を持ったのかを、3つの理由を挙げて説明しました。
 1つ目は我々の顔の正面にあるふたつの眼です。立体視のできるハンターの眼です。トラやキツネのようなハンターは被食者よりも賢い。だから“smart as a fox”(キツネのように賢い)と言います。ハンターはこの眼のおかげで忍び足を使い、カムフラージュをするなど、非常に複雑な動きができます。他方、ウサギのような被食者は顔の両側に眼がついていて、360度を見渡して捕食者を探すには向いているけれど、見つけたあとはもっぱら逃げるだけです。
 2つ目は親指です。昔は木にぶらさがっていましたが、今は道具をつかむのに親指を使います。宇宙ではエイリアンは触手を持っているかもしれませんし、鉤爪があるかもしれません。知性という点では、視覚と手を連係させることがカギです。
 3つ目は言語です。あなたが死んだとき、あなたが持っている情報が一緒に失われないようにしなければなりません。動物の場合、死ぬと同時にその個体が持っていた情報も失われます。地球上に人間と同じ視覚、親指、言語を持った動物はどれくらいいるでしょうか。ほぼゼロです。サルは近いですが、親指を人間のようにうまく使えません。言葉もおそらく20単語、30単語くらいまででしょう。宇宙では陸生生物よりも水生生物の方が普通でしょうから、宇宙のエイリアンはタコのような生物であるかもしれません。

――最後の質問です。博士は神の存在を信じますか?

 私はアインシュタインの述べた神の存在を信じています。アインシュタインは2種類の神がいると言いました。最初の神はパーソナルな神様で、あなたが祈りを捧げ、敵を破壊してくれる神様です。もう1つはスピノザの神、つまり秩序、ハーモニー、エレガンスの神様です。
 ガリレオはこの点について明確な見方を提示しました。科学の目的は“how the heavens go”(どのように天が運行しているか)を確定することであり、宗教の目的はいかにして天に行くかを教えることだと言いました。この2つを分けて考えていれば大丈夫ですが、倫理学者が自然の法則について尊大に語り始めると問題が生じます。本の中では最後に宇宙と宗教の話にも少し触れていますから、ぜひお読みいただきたいと思います。

(了)

プロフィール

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©Andrea Brizzi

ミチオ・カク
ニューヨーク市立大学理論物理学教授。ハーヴァード大学卒業後、カリフォルニア大学バークリー校で博士号取得。「ひもの場の理論」の創始者の一人。『超空間』(翔泳社)、『アインシュタインを超える』(講談社)、『パラレルワールド』『サイエンス・インポッシブル』『2100年の科学ライフ』『フューチャー・オブ・マインド』(以上、NHK出版)などの著書がベストセラーとなり、『パラレルワールド(Parallel Worlds)』はサミュエル・ジョンソン賞候補作。本書 TheFuture of Humanity は『ニューヨーク・タイムズ』ベストセラー。BBCやディスカバリー・チャンネルなど数々のテレビ科学番組に出演するほか、全米ラジオ科学番組の司会者も務める。最新の科学を一般読者や視聴者にわかりやすく情熱的に伝える力量は高く評価されている。

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