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『クジラアタマの王様』ファン代表・上白石萌音さんが聞く「教えて!伊坂幸太郎さんのあんなこと、こんなこと」

大の“伊坂ファン”として知られる女優の上白石萌音さんが、伊坂幸太郎さんにぶっちゃけ質問! 伊坂さんの作品づくりに関することからプライベートまで、ファンだからこそ聞きたかった疑問の数々に一問一答形式で伊坂さんが答えます。

上白石: 怒涛の伏線回収が毎回楽しみです。どの程度展開を考えてから書き始めますか?
伊坂: あまり先の先までは考えず、全体の一割くらいを思い描いたら、書きはじめちゃうことが多いです。そこまで書いたら次の展開を考える形で、七割くらい書いたところでラストシーンが思い浮かぶケースが多い気がします。

上白石: ふたりきりで語り合うとしたらどのキャラクターとがいいですか?
伊坂: あまり登場人物に思い入れがないので、「語り合いたい!」という気持ちにならないのですが(申し訳ないです!)、『夜の国のクーパー』に出てきた主人公に、あの場所で起きたことをあれこれ聞きたい気はします。

上白石: 筆が止まることは? その時はどう打開しますか?
伊坂: デビューして最初の十年は、筆が止まるということもなくひたすら前に前に書き進めていけていたのですが、それ以降くらいからは、少し書いては立ち止まって、「これでいいのかなあ」「もう書きたくないなあ」と思うことが増えました。打開策としては、編集者と話し合ったり、映画を観たり、もしくは詰まっている場面を全部やめちゃったりすることが多いです。

上白石: 伊坂さんの書かれる会話が大好きなので、戯曲や脚本も読んでみたいです!
伊坂: そんなふうに言ってもらえてうれしいです。ただ、僕の書く会話文は、子どもの頃に観た洋画の会話が根っこにある気がするので、文章として読む分には楽しめても、そのまま日本の役者さんが口にすると、どこか漫画的になってしまうような怖さもあります。なので、いいものが書ける自信がありません!

上白石: 執筆する時のルーティンはありますか?
伊坂: コーヒーを飲むくらいですかね。

上白石: ご自身を映していると感じるキャラクターはいますか?
伊坂: 『オーデュボンの祈り』の伊藤君や『アヒルと鴨のコインロッカー』の椎名、『チルドレン』の武藤君などの、傍観者的な一般の人はたいがい、自分に近いかもしれません。『クジラアタマの王様』の岸君もそうですね。「平凡な自分が、奇妙な冒険に巻き込まれたら」と考えて、大学生の時に書きはじめて、今の作風が出来上がったような気がします。

上白石: ずばり伊坂さんにとってのバイブルは?
伊坂: バイブル、と呼べるほど何度も読み返したり、指針にしたりするものはないのですが、僕の小説のスタイルは、宮部みゆきさんの短編「サボテンの花」を読んだ時の感動から生まれているので(「こういうお話を僕も書きたい!」と思いました)、強いて言えば、それかもしれません。

上白石: 登場人物の名前が印象的です。名付けのこだわりはありますか?
伊坂: 名前に関してはかなり気をつけているので、印象的と言われるのはありがたいです。僕自身が小説を読んでいる時に、「これ、誰だっけ?」と悩むことが多かったため(笑)、そういうストレスが減るように、なるべくその人のイメージが浮かびやすい名前を考えたくなります。「蝉」や「鯨」、「蜜柑/檸檬」などもそうですし、あとは、奇抜な名前の人ばかりが出てくると、それはそれで印象がぼやけるため、平凡な名前の人も配置することが多いです。ただ、氏名のうち、「氏」はどうにかなるのですが、「名」のほうは同じようなものしか思いつかず困ります。

上白石: タイトルはどの段階で、どうやって決めるのですか?
伊坂: タイトルはとても大事で、書きはじめる時に見つかっているのがベストです。なかなか決まらないと、あまり書く気も起きず、結局、進めることができません。すんなり決まらないと難航することが多いです。たとえば『ホワイトラビット』の時は、「動物の名前を入れたい」「ミステリーっぽいタイトルにしたい」という思いだけがあって、はじめは「ウルフ」を入れたかったんですが、どういう単語を絡めてもギャグっぽくなってしまい諦めました。『クジラアタマの王様』もずいぶん悩みまして、「漢字四文字にしたいな」と思っていて、途中で、「来夢来人(ライムライト)」というのを提案したんですが、いろんな人から、「スナックの店名しか思い浮かばないからやめたほうが……」と言われました。

上白石: 伊坂さんのユーモアが好きです。お好きな芸人さんはいらっしゃいますか?
伊坂: 芸人に限らず、僕にとってのヒーローはダウンタウンさんで、いろんな意味で大きな影響を受けている気がします。松本人志さんの作る映画もすごいと思っています。もちろんほかの芸人さんたちも好きなのですが、DVDが出るたびに買ってしまうのは、サンドウィッチマン、東京03、バイキングの三組です。

上白石: どんな音楽を聴かれますか? 音楽を聴きながら執筆することはありますか?
伊坂: 昔ながらの、シンプルなロックバンドとかが好きなのですが、最近はうるさいものをあまり聴かなくなってきて、「年をとってきたんだな」と感じます。初稿の時(白紙に文章を書いていく時)には音楽を聴くことが多いのですが、それを推敲する時には絶対に聴きません。

上白石: 仙台でいちばんお好きな場所はどこですか?
伊坂: 昔、霊屋下(おたまやした)という地域に住んでいまして、そこの広瀬川沿いの河川敷はとても好きです。

上白石: いつも冷静なイメージがあります。テンションが上がるのはどんな時ですか?
伊坂: ぜんぜん冷静じゃないです。息子の部活動の応援とかしている時はテンションが高いと思います。

上白石: 朝型ですか? それとも夜型ですか?
伊坂: 会社員だった時と同じように、朝起きて、外に出て仕事をして、夕方には家に帰ってくるような感じです。

上白石: 伊坂さんご自身が、伊坂ファンに薦める作家さんは?
伊坂: 難解さに逃げることなく(つまり読みやすく)、小説としてすばらしいという意味では、佐藤正午さん、絲山秋子さんや津村記久子さんを多くの人に読んでほしい気がします。また僕のミステリー的な部分の原点は、島田荘司さんや連城三紀彦さん、そして新本格と呼ばれる作家さんたちの諸作品です。たとえば、法月綸太郎さんの『密閉教室』『誰彼』『ふたたび赤い悪夢』『一の悲劇』『二の悲劇』などは非常に興奮して読んだ思い出があります。

上白石: 締め切りには強いですか?
伊坂: まったくもって弱いです。「締め切りに間に合わせないと!」という心配から、不本意なものを世に出してしまいそうな予感があるので、基本的には、締め切りのある仕事は引き受けないことにしています。

上白石: 描かれる女性がみんな魅力的です。単刀直入に失礼します、伊坂さんの好きな女性のタイプは!?
伊坂: 女性の登場人物を書くのは苦手なので、魅力的と言ってもらえるとほっとします。好きな女性のタイプというわけではないのですが、男性でも女性でも、他者を馬鹿にしたり、「自分さえ良ければそれでいい」と考えたりする人は苦手です。

上白石: すばらしい作品を、夢中になれる時間を、いつもありがとうございます。一冊読み終えるたびに、心の引き出しが三つ四つ増える感覚があります。どうかお身体を大切に、作品を書き続けてください。いちファンとして心待ちにしています!
伊坂: ありがとうございます。この仕事をいつまでできるのかな、新作をいつまで生み出せるのかな、と心配になることが多いのですが、もう少し頑張ろうと思います!

※伊坂幸太郎さん『クジラアタマの王様』特設サイトはこちらです。

プロフィール

伊坂幸太郎(いさか・こうたろう)
1971年生まれ、千葉県出身。東北大学法学部卒。2000年、『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー俱楽部賞を受賞し、デビュー。04年に『アヒルと鴨のコインロッカー』で吉川英治文学新人賞を、短編「死神の精度」で日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。08年には『ゴールデンスランバー』で本屋大賞、山本周五郎賞を受賞、14年、『マリアビートル』で大学読書人大賞を受賞。その他の小説に『シーソーモンスター』『フーガはユーガ』『ホワイトラビット』『AX』『サブマリン』『陽気なギャングは三つ数えろ』『火星に住むつもりかい?』などがある。

上白石萌音(かみしらいし・もね)
1998年、鹿児島県出身。メキシコに暮らした経験から、ことばのおもしろさに目覚める。2011年に俳優デビューをし、歌手・ナレーターとしても活動。主な出演作品に、映画「舞妓はレディ」、「ちはやふる」シリーズ、「君の名は。」「スタートアップ・ガールズ」、舞台「組曲虐殺」など。NHKでは、大河ドラマ「西郷どん」、「令和元年版 怪談牡丹燈籠 Beauty&Fear」などに出演。19年12月より映画「カツベン!」、20年1月よりドラマ「恋はつづくよどこまでも」、7月より日生劇場ほかにて上演の「リトル・ゾンビ・ガール」(仮)に主演。 ※上白石萌音さん公式Twitterはこちら

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